第136話 エルフィリアの恋模様


「この辺でいいかな?」

「はい、すいません……」

「いいよいいよ、エルフィがこの場で話したいってことはよっぽどの事なんでしょ?」


 とは言え何となく話の内容自体は想像はついている。

 宿に戻ってからではなく今この場での話、それも彼女が積極的にアクションを起こすぐらいだ。

 その話は多分……。


「その、セーヴァさんの事なんですが……」


 まぁそうだよねぇ、あれだけ分かりやすい反応してたし。

 現状の面々でセーヴァと直接知り合いで、かつエルフィリアがこんな相談が出来るのなんて自分しかいないもんね。


「えっと、その、ヤマルさんはセーヴァさんのお知り合いってコロナさんから聞きまして……」


 もごもごと、自分でもこういう事を聞くのが恥ずかしいのは自覚しているらしく言葉がどんどん尻すぼみになっていく。

 このまま彼女が話すまで待ってるのが本当は良いんだろうけど、残念ながら時間は有限。

 特に今回セーヴァはレーヌの護衛としてここに来ている。

 帰ったところで二度と会えなくなるわけではないものの、彼ら救世主は往々にして連絡が取りづらいのだ。

 なのでお節介だと思いつつも少しだけ踏み込んでみる。


「まぁ惚れた男の情報が欲しいってところかな?」

「惚れっ……いえあの、その通りなんですけど……」


 もはや完全に茹蛸エルフが出来上がっていた。

 この様子では周囲にはばれてないと思ってるようだが、何故あんな分かりやすい所作をしていて気付かれないと思ったのだろうか。

 ……まぁそれはさておきセーヴァの情報かぁ。

 一応彼の事は多少は知っているしクロードで悩みも聞いた。

 過去にどんなことがあったのかも知ってるから多少なりとも踏み込んだ話が出来る間柄ではある。

 だけど……。


「俺が教えれるのは精々皆が知ってても問題無いぐらいのことだよ。そりゃ他にも知ってる部分はあるけど、流石にそれを他の人に漏らすのはちょっと、ね」

「それは……いえ、そうですよね……。でもあの人のことについて何でも良いから知りたいんです。教えていただけないでしょうか」

「エルフィがそこまで言うんだから本気なんだね?」

「はい。一目惚れと言っても信じてもらえないかもですが……」


 少し落ち込んだ様子を見せる彼女ではあったが、喋っても問題ない範囲で良ければと告げると見る見るうちにその表情が明るくなった。

 とりあえずセーヴァについては情報は選んだ上で開示する。

 教えるのは名前と今恐らく住んでるのが王城であり、そこで何かの仕事をしていること。

 性格は基本穏やかで優しく、それでいて鼻にかけない好青年。

 特定の相手がいると言う話は聞いたことはないものの、あのセーヴァだからいてもおかしくはないということ。

 そして最後に自分が前回会ったのは三ヶ月ぐらい前であり、それ以降では今日まで会わなかったのでその間何かあったとしても自分は知らないと言っておいた。


「やっぱりライバルは多そうですか……?」

「そりゃまぁあの見た目で中身も良いとなればむしろライバルいないのは無理があるんじゃないかな」

「ですよね……」


 予想通りの回答だったのだろう。

 肩を落とし悄気るエルフィリアだったが不意にその顔が上がりこちらを見据えてくる。


「……あの、ヤマルさん」

「ん?」


 おずおずと、とても申し訳無さそうにエルフィリアは小さく手を上げる。


「もし、ですよ……。もし私があの人とお付き合い出来たら……パーティーを抜けることは……」

「……そうだね。もちろん個人的には残っては欲しいと思うよ。折角仲良くなれてるんだし。でもそれ以上にエルフィの人生なんだから、その時は俺はちゃんと送り出すつもりだよ?」


 そもそも彼女が自分についてきたのは世界を見て見聞を広めて来いと言うお達しがあったからである。

 その為自分に預けられたのだが、何も自分が世界を見せて回る必要があるわけではない。

 と言うか最低五十年は見て来いと村長には言われてるが、残念ながら長寿種のエルフの彼女とはずっと一緒にいられることは出来ないのだ。

 それ以前にもっと早めに日本へ帰るつもりでもあるし。

 だからもしセーヴァがエルフィリアと付き合うのであれば、自分としては送り出すことは吝かではない。

 むしろ彼以上の男などそうそういないので、そのハートを射止めれたのなら逆に尊敬しそうである。


「……分かりました。私、行って来ます!」

「今日のエルフィは行動力あるね?」

「うかうかしてたら人間はすぐ寿命迎えちゃいますから。それに……ヤマルさんにこうして背中押してもらえましたし」


 ありがとうございました、とこちらに頭を下げると吹っ切れた表情を見せ笑顔で宴会場の方へと彼女は戻っていった。

 その背中を見送り見えなくなったところで『はぁ』と深いため息をつく。


(あぁ、ヤダヤダ。自己嫌悪に陥りそうだ……)


 エルフィリアの相談には真摯に乗ったし彼女の後押しをするようなアドバイスをした。

 だからこそ自分のやったことに対して良心が胸を締め付けてくる。


(多分無理だろうなぁ……)


 本音を言えばセーヴァが彼女を受け止めてくれるなら喜ばしいのだが多分それはないだろうと思っている。

 前に彼の悩みを聞いたとき、亡くなった幼馴染の影をまだ引きずってそうだった。

 彼女に操を立てている、なんて話は聞いてはいないものの、あの様子ではまだ誰とも付き合えそうにないだろう。

 エルフィリアがダメではなく、例えどんな女性だったとしても靡く可能性は低いと思う。

 高確率でそうなると分かっていて送り出した自分に反吐が出そうだが、だからと言ってこんなこと話せるわけがない。

 仮に話したとしてもエルフィリアが諦めてくれるかすら疑問だ。

 この場で一旦身を引いたとしてもずるずると引きずってしまうだろう。もしどこか旅に出てて帰ってきたらセーヴァが誰かと結婚してました、なんてことになったら目も当ててられない。

 結局自分はアドバイスをした良い人を演じ、結果セーヴァとエルフィリアを傷つけることになるだろう。

 せめてセーヴァが何か欠陥の一つでもあればそれで諦めさせる方に持っていくことも出来た可能性もあるが、残念ながら完璧超人に近い彼に目に見える欠点はない。

 あったとしても多少の欠点など気にならないぐらい色々なところが優れているから無いと同じになってしまう。


「はぁ、嫌な奴だなぁ……」


 結局自分ではどうする事も出来ないためこの様な手段しか取れなかった。彼女にとってよき友人としてのアドバイスであったが、内情を知っているだけに辛い。

 あとは一縷の望みに賭けるか……。


「……でもフォローはしておかないと流石にダメだよね」


 このまま成り行きを見守るだけでは流石に無責任すぎる。

 エルフィリアにばれないように注意しつつ彼女の後を追うことにした。



 ◇



 ラムダンの家の敷地は郊外の立地条件と住人の多さからそれなりに広い。

 とは言えあくまで一般的な家としてはだ。流石に貴族の邸宅ほど広い訳ではない。

 なのでエルフィリアとセーヴァはすぐに見つけることが出来た。


 丁度宴会場の庭から少し離れた裏手辺りで二人は向かい合っていた。

 多分エルフィリアが呼び出したんだろうけど彼女が今日会ったばかりの男性を呼ぶとかかなり頑張ったと思う。これも恋のなせる技か。

 とりあえず二人には見えない物陰に身を潜ませた。

 この位置からでは会話は聞き取れないものの、彼らの反応からどうなったかの結果ぐらいは分かるだろう。

 出歯亀の真似事で嫌だなぁ、と思うがそこは自分で蒔いた種なのだから仕方ない。

 ただ視線の先以外に気になる事が一つ……と言うかたくさん。


(皆何してんだ……)


 ふと、自分とは別の物陰に隠れているフーレとスーリの姿を発見する。

 そして何か嫌な予感がして《生活の風ライフウィンド》で辺りを探ると、この周囲にめちゃくちゃ反応が出てきた。

 流石に暗いから誰か分からない部分はあるものの、人数から察するにドルンとサイファス、後はラムダン以外は全員いるんじゃないだろうか。

 これだけいればエルフィリアはともかくセーヴァには確実にばれていそうである。


(あ……)


 そうこうしている内にエルフィリアが胸の前で祈るように両手を握りながらセーヴァに何かを言っていた。

 多分気持ちを伝えたんだろう。

 セーヴァも少し困ったような照れたような顔をして——そして申し訳無さそうに頭を下げた。

 やっぱりか、と予想通りの結果に胸が締め付けられる。

 ただその後予想外だったのがセーヴァが少しエルフィリアに何か話しかけていた。

 流石にこの距離では聞き取れなかったものの、セーヴァが言葉を終えるとエルフィリアが今度は頭を下げる。

 そして再びセーヴァが頭を下げると彼は宴会場の方へと戻っていった。

 取り残されたエルフィリア(と出歯亀集団)だったが、しばらく立ち尽くしていた彼女から小さな嗚咽が聞こえだすと共にその場に蹲ってしまった。

 何と言うか……見ていて物凄く辛い。


「エルさん、フラれちゃったね……」


 ツンツン、とこちらの肩をつつき後ろからコロナが小さく声をかけてくる。


「残念だけど恋愛ってやっぱり難しい……ヤマル、どうしたの?」

「いや、ちょっと自己嫌悪で気分悪いだけ……」


 もう少し上手くやれなかったかと何度も心が問いかけるもやはり答えは出てこない。

 結局何かやれたとしてももはや結果は出てしまったのだからどうしようもないのだが、そうそう割り切れるものではない。


「……その、もしかしてヤマルはエルさん好きだった……とか?」

「え? ううん、違うよ。そりゃ仲間や友人としては好きではあるけど」


 エルフィリアには現状恋愛感情の気持ちは持っていない。

 LOVEではなくLIKE、親愛の気持ちはある。だからこそ余計に辛い。


「でも何かヤマルもエルさんのように辛そうだよ」

「まぁ、そうだね。あぁなったの自分のせいでもあるし……」


 普段なら黙っておくが今は誰かに聞いてもらいたかったかもしれない。

 内容は伏せつつ、ポツポツと彼女がセーヴァに告白するように後押ししたとだけコロナへと伝えた。


「多分断わられると分かってて後押しとか最低だよね」

「それは……うぅん、難しいね。私でもヤマルと同じ事すると思うけど……」


 でもこれが一番良かったとは言えない。

 言葉には出さなかったもののコロナも自分と同じ結論へと達したようだ。


「その、ヤマルがここに来たのって」

「まぁ何かフォロー出来れば、と思ったけど……」


 視線の先では未だ泣き続けてるエルフィリア。

 あの状態の彼女にどう声をかけていいか分からない。むしろ自分が声をかけたら余計こじれないだろうか。


「それに俺は今は出て行っちゃダメだろうね」

「責任感じてるの……?」

「それもあるけど傷心の女の子にあんまり異性が声かけない方がいいかなって。心弱ってるときに優しくされると物凄く揺らぐからね」


 心が弱ってるときに優しくされるとその優しさが何倍も沁みるのは経験から知っている。

 仮にこれで声をかけたことでエルフィリアが自分に惚れる様な事があれば完全にマッチポンプの構図になってしまう。

 万一に好かれる事があったとしても、こんなやり方は絶対にダメだ。


「だからこの場合出来れば同性の人に声を掛けてもらいたいところだけど……」


 理想はそれなりに恋愛経験があって包容力のある人辺りだろうか。

 幸いにも今日この場には女性は割と数が集まっている。

 個人的イメージになるけどとりあえずレーヌ、コロナ、スーリは除外。恋愛経験が足りない気がする。

 お前が言うなと総ツッコミ食らいそうだが今はそれは横に置くことにした。

 フーレは……ストイックすぎるからダメかもしれない。真面目に答えそうだが真面目が故に裏目に出そうだ。

 となると残ったのは大人のイーチェとレディーヤだが……。


「まぁ私が行くべきね」

「いつの間に……」


 コロナの後ろにはいつの間にかイーチェが立っていた。

 この様子では自分の独白辺りから話を聞かれていたかもしれない。


「まぁこの中では一応唯一の既婚者だからね。おねーさんに任せてくれる?」

「……すいません、お願いします」

「いいのよ。でも代わりにヤマルくんはその顔止めること。折角の宴会なんだから明るく楽しくよ? エルちゃんには落ち着いてから話せばいいから、今は楽しみなさい」


 イーチェは明るくそう言うと自分のことをコロナに託しエルフィリアの方へと歩いていった。

 彼女が近づいたことで近くにいた血縁者が蜘蛛の子を散らすように離れていく。


「ヤマル、私達も戻ろ。ほら、またあのお肉のサンドイッチ食べようよ。今度は私が作ってあげるからね」

「あ、うん……」


 最後にちらりとエルフィリアの方を見ると、彼女はイーチェの胸に顔を埋めて泣いているところだった。

 あの様子なら任せていても大丈夫だろう。

 気になるが今はどうすることもないことに歯がゆさを感じつつ、コロナと一緒に宴会場の方へと戻ることにした。


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