第105話 ヤヤトー遺跡1


 銃剣を受け取ってから三日が経った。

 ドルンの休息に一日使い、その後彼の案内の元最寄の集落を経て目的地である遺跡が見える場所までやってきた。


「見えたぞ、あれがヤヤトー遺跡だ」

「はふ……ふぅ。やっと、ついた……」


 山の中腹から見下ろすように眼下に広がる森林。

 その周囲すべて、今自分たちが立っているような山に囲まれたその森の中心部分に一際大きな建物が見えた。

 遠目でも見えるその建物は半球状、つまりドーム型の建物である。

 ただし長い年月を経ていろいろなことがあったのだろう。木が壁に根を張り草が茂り、場所によってはヒビが入っている箇所も見受けられた。

 ここまで来るのに山中を歩くこと丸一日。

 すでにこちらに来てそれなりに日数が経っているとは言えまだまだ体力はこの世界基準の人並みとはいかないようだ。

 息を切らし汗を流しながら震える足に鞭を打ちなんとかここまでやってきたぞと言う気持ちになってくる。


「……異世界人ってのはそんなに体力無いものなのか?」

「ある人もいるけど俺は無い方だったし……しんど……」


 肩で息を切らしその場で座りたくなるのをぐっと堪える。

 日本ならそのまま座り込むがここは周囲に魔物もいる危険な場所でもある。事実ここに来るまでに数度戦闘を行った。

 とは言え小規模なものだったため試し切りと言わんばかりにコロナが全て片付けてくれたのだが。


「まぁ今日はここでキャンプだ。もうすぐ日も暮れるしな。明日に備え早めに休息を取った方がいいだろ。……エルフィリアも倒れそうだしな」


 そう言うドルンの視線の先には自分と同じように肩で息を切らし杖で体を支えているエルフィリアの姿があった。

 彼女も長年狩りをしてなかったためかエルフにも関わらずあまり体力がないようだ。


「そうして、頂けると……助かり、ます……」

「……このパーティー大丈夫か?」


 やや呆れ顔のドルンに唯一元気なコロナが苦笑を漏らす。

 ともあれ明日が本番の遺跡探索である。体力を回復させるためにも早めにキャンプの準備をすることにした。



 ◇



「しっかしエルフの魔法ってのも便利だな」

「その……ありがとうございます……」


 感嘆の声を漏らすドルンにまだ慣れぬエルフィリアが小さく礼を返す。

 彼が言うように現在自分たちの周囲はまるでかまくらの様な小さなドーム状の壁の中でキャンプをしていた。

 壁の正体は山の木々の根や枝葉。

 エルフィリアが魔法で周囲の樹をコントロールして絡めあうようにドーム状に形成したものだ。

 お陰で風雨は防げるし見張りも出入り口の一方向だけで済むようになったので非常に助かっている。


「んでお前の魔法も色々出来るんだな」

「まぁね。こういうときぐらいは役に立っておかないとね」


 《生活の水ライフウォーター》で鍋に水を注ぎ薪に火をつけながら苦笑しつつドルンへそう答える。

 もはやコロナと一緒に夕食の準備をするのも当たり前となってきた。下準備を終えるとコロナにその場所を譲る。

 こんな感じで外に水等を取りに行かずともこの場で大体のことを済ませれるこの時こそ《生活魔法》の真骨頂だろう。


「あぁ、そうだ。コロナ、後で剣貸せ。大丈夫と思うが見ておきたい」

「うん、お願い。出先でも本職に見てもらえれるのは助かるよね」

「ほんとほんと。人の居る所まで行かないと武器のメンテもままならないもんね」


 今回は同伴してくれてるドルンのお陰でコロナの剣を逐一見てもらえれるのは非常にありがたかった。

 何せこのパーティーで一番敵を倒すのはコロナである。そして倒す敵に比例して武器の消耗率も増えるため、武器を見てもらうことの出来る存在は喉から手が出るぐらい欲しい人材だ。

 今回の遺跡探索の間だけなのは残念だがこればかりは仕方が無い。


「そう言えばドルンも二人を名前で呼ぶようにしたんだね」

「まぁな。いつまでも嬢ちゃんって呼ぶのもあれだしな。あと呼び名が長い」


 そりゃそうだ。

 犬の嬢ちゃん、エルフの嬢ちゃんと毎回言うぐらいなら名前で呼んだ方がよっぽどいい。


「あの、それで……明日からどのような形になるのでしょうか。私、遺跡探索は初めてですし……」

「あー、そうだな。時間勿体ねぇし準備しながらでも良いから少しずつ話し合うか。ヤマル達は遺跡探索はしたことはあるのか?」

「あるよ。ただ今回とは状況が全然違うから参考にならないかも」


 一応人王国のチカクノ遺跡での一件をこの場で話すことにする。

 ただあちらは元々人の手によって保護されてた上に調査自体も国の援助を貰えた。しかし今回は放置状態の遺跡で更に魔物の巣窟となっており、それをこのメンバーだけで調査しなければならないのだ。

 それでも一応何かしら発見することがあるかもしれないので、当時起こった事はしっかりと伝えておく。


「……ヤマル、お前何しれっと色々発見してんだよ」

「たまたまだって、学者の卵もいたしその子達に手伝ってもらったし」

「いや、それでもすごいことなんだがなぁ。しっかしゴーレムとは似て非なるロボットか……一度見てみたいもんだな」


 メムと会わせたらバラバラにしそうで少し怖い。

 しかしドルンには世話になってるし、機会があれば王都の研究室に案内しても良いかもしれない。

 一応所有者は自分ってことになっているし見るぐらいなら多分大丈夫だろう。


「……っと、すまん。話がずれたな。俺も遺跡入るのは今回が初だから中はどうなっているか分からん。だが食料や消耗品考慮するなら最長でも三日か四日しかいれないだろうな」

「でも焦って無茶はしたくないからね。入り口からマップは書いていくつもりだから、少しずつでも確実にいこう」


 目的の物ははっきりしているがそれがある場所は不明なのだ。そもそもあるかどうかさえ分からない。

 そんな中で無理に長期間探索するのはやめておいた方が良いだろう。


「いいのか。どうしても手に入れたい物なんだろう?」

「まぁそうなんだけど無駄に危険冒すのはダメだよ。無事に帰れればまた次来れるんだしさ」


 もちろん金銭的な面や距離を考えるとそうほいほい来れるものではない。

 だが今回の目的は完全に私的理由である。

 傭兵であるコロナは自分の願いの下一緒にいるので良いとしても、他の二人やポチは無理に付き合わせるわけにはいかない。


「もちろん見つけるように全力は尽くすよ。とりあえず明日は朝一で移動してまずは周辺捜索。中に入れそうなところを見つけて探索開始かな」

「入り口、見つかるでしょうか……」

「まぁあるだろ。すでに何人もの冒険者とかが中に入ってるわけだしな」

「問題は中に入ってからだよね。狭い通路だとやれること限られてくるし……あ、エルさん。器出してくれる?」

「あ、はい」


 配膳をするため女性陣があれこれしてくれてる間にこちらもドルンと詳細を詰める。

 しかし通路が狭いなど実際目に見てから分からない部分は今はあれこれ気にしても仕方ないだろう。

 さし当たって通路が狭かったときのことを想定した陣形や戦闘方法の打ち合わせをするぐらいか今は出来ない。


「そいや魔煌石の形状ってどんなの?」

「俺も現物は一度しか見てないが確か白い鉱石だったな。大きさはこれぐらいか」


 そう言うとドルンは両手でそのサイズを教えてくれた。大体高さ二十センチぐらいだろうか。

 形状としてはやや縦長の感じらしい。


「そこそこ大きいね」

「あぁ、だから見つけられてない可能性は低い。もちろん有る可能性もあるが、探すとなると未探索の場所を見つけるところからやらなきゃならんだろう」

「自分達には全域が未探索だよね……」


 冒険者の飯の種でもある地図や各種情報はそうそう出回るものではない。

 一応情報は探してみたものの、ここに来る人はあまりいないのか殆ど集まらなかった。


「まぁ気をつけて探索しよう、ってとこだな」

「それしかないかぁ。初探索時なんてそんなもんだろうけどさ」

「はいはい。とりあえず明日のことはご飯食べてからにしよ。出来たよー」


 コロナ達がご飯を持ってきてくれたので一旦この話は持ち越しとなった。

 結局その後もあれこれ話し合ったもののやはり情報不足のため推論の域を出ることが出来ず、明日現地を見て決めることにした。



 ◇



 明けて翌朝。日の出と共に起き早速行動を開始する。

 手早く朝食を済ませその他諸々も全て終わらせると、全員揃って遺跡の方へと向かった。

 近くまで寄るとその大きさが特に目に付く。昔見た東京ドームよりも大きいんじゃないだろうか。

 そしてそんな建造物に木々が巻きついているせいか、人を寄せ付けないような威圧感を放っているように錯覚してしまう。


「大きいねー」

「本当に大きいなぁ……」

「それでこれからどーすんだ? まずは入り口探すか?」

「そうだね……」


 まぁ中に入らなければ何も始まらないだろう。

 だが今回はただ探索するだけではなく、中を調べた上で魔煌石を探すことが目的だ。

 未踏破区域にある可能性が高いのなら通常の手順以外の何かを講じねばならないだろう。


「……ねぇ、こんな手はどうかな?」


 思い立ったアイデアを三人に相談すると、皆も試してみようという回答を得ることが出来た。

 そして早速実行に移すことにする。


「それじゃ行ってくるね。ドルンさん、ポチちゃん。二人をお願いね」

「任せとけ」

「コロも無理せずに。気をつけてね」


 そういうと彼女は遺跡の壁沿いに単独で駆け出していく。

 去り行く背中を見送るとすぐに警戒態勢。彼女が帰ってくるまではここで持ちこたえなければならない。

 右肩にかけた銃剣を手元に引き寄せ中折れ状態を解除し砲身を起こす。

 そして腰に下げたマガジンの一つを銃剣の右側面に取り付けると反対側レバーが出現。これを持つ事でようやく使用可能になった。


「うんうん、やっぱその合体変形は浪漫があっていいな」

「それには同意するけどドルンも周囲気にして欲しいかなぁ」


 はいよ、とドルンも手に持った槌を構え周囲をつぶさに観察しだす。

 ドルンは今回の同行に伴い自分で武具を用意してきた。

 姿は一言で言えば重戦士。

 全身甲冑フルプレートではないもののパーティーの中では一番金属武具に身を包んでいるだろう。

 上半身こそ軽鎧だが、小手、足具、兜は作りのしっかりした物。そして何より目を引くのが左右の両手に取り付けられた盾だろう。

 楕円状の盾が二枚、小手に取り付けられるような形でドルンをしっかりと守っていた。

 ちなみに武器は槌である。鍛冶用とは似ているものの柄は長くハンマーの部分はやや大きい。

 ここまで来る途中一度見せてもらったが、ドルンの腕力と柄の長物特有のしなり、そして先端のハンマーのインパクトで岩を粉々にしていた。

 そのためこの遺跡探索中はコロナと同じように前衛を勤めてくれることになっている。


 そして待つこと十数分。

 コロナが去っていった方の反対側から無事戻ってきた。

 木々の障害物を物ともせず軽やかに跳躍し速度を落とさず動けるのは流石と言ったところだろう。


「お待たせ。言われた通りぐるっと一周してきたよ」

「お帰り。それでどうだった?」

「うん、ヤマルの予想通りいくつかあったよ。後普段他の人が使ってる入り口も」


 ちょっと待ってね、とコロナはその辺の枯れ枝を一本拾い上げ地面に図を描く。


「この円が遺跡を上から見た感じね。私達が居るのはこことして……」


 カリカリと最初に円を描き、続いて時計で言う六時の部分に小石を置く。

 この小石が今自分たちがいる場所だ。


「で、まずこの辺に中に入れるところがあったよ。亀裂の入った壁から入るって感じかな? 地面が結構踏み固められてたから他の人達もここから中に入ってると思う」


 コロナが指し示したのは大体八時の辺りだ。ここからだとそう遠くは無い。

 ただその入り口がドアとかではなく亀裂からと言うのが気に掛かる。


「シャッターとかドアっぽいのはあった?」

「うーん、見当たらなかったかも。もしドアとかあるならこの建物ならそれなりに大きいはずだから見逃さないと思うけど……」

「コロ目線でドアっぽくないから見落とした可能性もあるけど……いや、中に入れる方法があるなら無理に探す必要も無いか。それで言ってたやつはあった?」

「うん、三箇所ぐらい。でも一箇所はちょっと高いところだったから実質二箇所かな」


 そう言うと再び地面の図形に三箇所印を示していく。

 場所は十一時と十二時、それと四時の箇所だ。ただこの十二時部分が若干高い位置にあるため向かないかもとのこと。


「ヤマルさん、どうします? 普通に入るのも手だと思いますけど……」

「そうだね……いや、今回はコロが探してくれた一番近いとこ行こう。実際に入れるか試したいし」


 目指すは四時位置。試したいことがダメだったら従来のルートから入ろうと決めまずはそちらへと向かう。

 そして壁沿いを反時計回りに歩くことしばし。目的の場所へとやってきた。


「あ、あれだよ」

「あー……確かにこれはちょっときついか」


 そこには壁に亀裂が入っており隙間から中の様子が少し窺える。

 亀裂自体の大きさは人が十分通れそうなほどだ。しかしこの亀裂に這うように周囲の樹の根が完全に行く手を阻んでいた。

 先ほどコロナに言って頼んだのは従来のルートの位置と、このように他にも中に入れそうな亀裂の位置の特定だ。

 ただし見ての通り木の根によって亀裂の隙間が殆ど埋まっておりこのままでは中に入れない。

 伐採や魔法で燃やすなど無理やり入る手段もあったかもしれないが、そんなことしたら魔物を呼び寄せたり火事になったりと非常に危ないので他の冒険者らも手を出せなかったようだ。

 しかし今の自分達なら手を出せる。


「エルフィ、お願い」

「は、はい。あの、出来なかったら……」

「いいよいいよ。その時は正規ルートで入るし、実際決めたのは俺だからさ。楽にやってね」


 キャンプで見せてもらったエルフィリアの樹を操作する魔法。

 あれを使えば樹で塞がれてる場所を通れるようになるんじゃないかと考えた。

 もちろんそんな場所があるかは不明なため最初にコロナに見に行ってもらった。

 結果は大当たり。しかも三箇所も見つけてくれた。

 実際従来の道と中で繋がってる可能性ももちろんあるが、未踏破の場所を少しでも探索したいならこちらから入った方が良いと思ったのだ。

 ……魔物が溜まってないか不安はあるけど。


「【樹の精霊さん、私に力を貸してください。どうかその身を動かして道を開いてください】……《ウッドプロセッシング》」


 エルフィリアが魔法を唱えると、目の前の絡み合った根がゆっくりと解けるように動いていく。そしてその根が亀裂から避けるように徐々に横へと移動していった。

 後で聞いたことだがエルフの魔法は人間と違い仰々しいものではなく、自分の言葉で精霊にお願いするようなものらしい。

 その為詠唱も決まった定型文がある訳ではなく、何の精霊にどうして欲しいかを告げ、最後に魔法名を言うそうだ。

 実際昨日のキャンプ時にも使った魔法は同じだったものの、詠唱の後半部は違っていた。

 ちなみにエルフィリアは精霊そのものは見たこと無いのだが、こうして魔法として使えている以上いるものだと信じているそうだ。


「ふぅ、出来ました……」

「エルさんすごい! 本当にどうにかしちゃった!」

「え、あの、ありがとうございます……」


 エルフィリアの両手を取り本当にすごいと褒めるコロナに圧倒されるも彼女もまんざらではない様子だった。

 そしてこうして見るとちゃんとした魔法使いが仲間に加わってくれたんだなぁと実感する。

 自分の魔法もコロナの魔法も実用性はともかく派手さが無いためあまり魔法っぽく見えないのだ。

 今回のように目に見えて不思議な現象を起こしてくれると改めて魔法はすごいものなんだと実感する。


「んじゃま中に入るとするか。打ち合わせ通りまず最初に俺、安全が確保出来たらヤマルとポチのペアとエルフィリア、しんがりがコロナでいいな?」

「うん、それでお願い。あ、明かり先に投げる?」

「あぁ、頼む」


 《生活の光ライフライト》で光の玉を生み出し亀裂から中へと投げ入れる。

 照らされた光から見える中の様子はどこかの部屋のような感じであった。現状何かが動いた様子は見当たらないが油断は出来ない。


「よし、行くぞ」


 その掛け声と共にまずはドルンが遺跡の中へと足を踏み入れていった。

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