第100話 閑話・旅の洗礼


 ややなし崩しではありましたが、私エルフィリアは人間のヤマルさんと獣人のコロナさん、そして子犬と思ってたら実は戦狼って魔物のポチちゃんと旅をすることになりました。

 急な話でかなり戸惑いましたがヤマルさんもコロナさんも優しくして頂けそうで私としては安心出来ます。

 ……今後の事を考えると不安で押し潰されそうですが、ヤマルさんは自分よりもずっと辛い立場。異世界より呼ばれ帰るために各地を旅しているみたいです。

 村で私なんかにも変わらず優しくして頂けましたし、出来る限り力になってあげたいと思います。

 さしあたっては得意の魔法で皆さんを支援するよう言われました。

 出来る出来ないを把握していくために一つ一つ確認していき、出来る部分は頼っていただけるとのこと。

 頼られるなんてここ数十年の記憶にはないですが、頑張っていきたいと思います。

 ですが、その……現在目下このやる気を削ぐ現象が一つ。


「エルフィ、なんかあったら気兼ねなく言ってね」

「エルさん。もしヤマルに話しづらい事なら私でもいいからね」


 お二方の優しさが身に染みます。

 あ、呼び方ですが少し変わりました。ヤマルさんはお姉ちゃんと一緒でエルフィ、コロナさんは更に縮めてエルになりました。

 家族以外に愛称で呼ばれたことは無かったので照れくさいですが新鮮な感覚です。

 ……ではなくて。どうしても気になると言うか言いづらい事が……。


「ヤマルさん、最寄りの村は……その、あとどれぐらいなんですか?」

「んー……森出てから少し経ってるし、日暮れまでには着くよね?」

「うん。暗くなる前には着けると思うよ」


 うぅ……まだまだかかりそうです。

 どう考えてもどうにもならなさそうなのでコロナさんに相談することにしました。

 ヤマルさんには、その……ちょっとどころかかなり恥ずかしいですし。


「コロナさん、その……ご相談が……」

「うん、いいよ。なになに?」


 相談されて嬉しいのか笑顔で寄ってくるコロナさんはとても可愛らしいです。

 もし妹がいたらこんな感じなのでしょうか。


「えーと、その……」

「あ、ヤマル。ちょっと離れてくれる?」


 こちらの視線に気づいたコロナさんがヤマルさんに向けてそう言うと、はいはい、と分かっているようにヤマルさんとポチちゃんが少し離れます。

 特に何も聞かない辺り、ヤマルさんのお気遣い力はやはり高いのかもしれません。


「これで大丈夫だよ。それでどうしたの?」

「えと、その……コロナさんは、道中のトイレどうしてるのかな、と……」

「あー……」


 こちらの言いたいことを察してくれたコロナさんですがどこか遠い目をしています。

 なんでしょう、あまり良くない予感がするのですが。


「大事なことだから【風の軌跡わたしたち】がどうしてるかより先に一般的にはどうしてるかをまず言うね」

「はい、お願いします」

「私達みたいに旅してるのは大きく分けて二つあるの。今みたいに仲間内で移動しているパターンと、乗合馬車みたいに集団で移動するパターンね」


 乗合馬車はまだ見たこと無いですが、コロナさんから教えてもらったところによると人を十名以上馬車に乗せて移動する商売とのこと。

 人王国では割とメジャーな移動手段みたいです。


「で、そういう集団で移動してると一人一人の都合でトイレしたくなって馬車止めると遅くなっちゃうよね」

「それは……そうですね」

「だから乗合馬車は距離にも寄るけど簡易トイレあったりするの。別の荷物用の馬車に併設されてるのが多いんだけどね」


 それでも衛生面とかあまり良くないので使用するのは避ける人が多いみたいです。

 ちなみに乗合馬車はそこまで移動速度は早くないので、そちらに向かうときはそのまま降りて別の馬車に乗り込むんだとか。


「では、その……今回みたいに徒歩の旅とかだと……」

「うん、簡易トイレそんなの持ち運びするわけないから基本草むらとか物陰だね……」


 あぁ、やっぱり。だからコロナさんも遠い目をしていたんですね。

 

「それで慣れてないから恥ずかしいと思うんだけど、生理現象ってことで割り切らないとダメだよ。一番無防備なときだから仲間が近くで見張らないとダメだし」

「うぅ……理屈は分かりますけど……」


 頭ではコロナさんの言っていることは分かります。

 あんなお尻丸出し状態で周囲警戒なんで出来るはずがありません。魔物に襲われたら、それこそどんな小型のでも危険極まりないです。

 その為に私ならコロナさんやヤマルさん、ポチちゃんに守ってもらわなきゃいけないのは理解はしてます。

 してますけど……。


「でもその……恥ずかしい、です。特にヤマルさんは男性ですし、近くでするのは、その、音とか……」

「そうだよねぇ。私もヤマルと一緒になる前はそんな感じだったし分かるよ。でも背に腹は代えられなかったし」


 ヤマルさんと組む前はこの国で別の傭兵パーティと組んでたみたいで、コロナさんはどうやらそのときのことを思い出してるみたいです。

 

「でもね、エルさんは今からヤマルにものすっっっっっっごく感謝することになると思う」

「え、それってどう言う……」

「そのためにはどうしてもヤマルにはトイレについて言わないとダメなの。大丈夫、旅のトイレ事情に関して言えばこのパーティーは世界でも屈指って太鼓判押せるから」


 コロナさんがそう力強く言いますがよく分かりません。

 なんでしょう、地面からトイレでも生えてくるような方法でもあったりするのでしょうか。


「とりあえずヤマルに正直に話そ。大丈夫、私もしたいって言ってあげるから」

「あ、えと……はい……」


 恥ずかしいですがどうしても避けられないみたいです。

 諦めヤマルさんをコロナさんが手招きして呼び事情を説明。彼も分かってくれているようでしょうがないよね、と言いながら準備をすると言い始めました。


「じゃぁ私スライム捕まえてくるから。すぐ戻るね」

「ん、その間にエルフィに説明して設営もしておくよ」


 すでに何するか分かってるお二人。コロナさんは野良スライムを捕まえに一旦離れていきました。

 そして残される私とヤマルさんとポチちゃん。


「じゃぁポチ、悪いけどいつものよろしく」

「わん!」


 ヤマルさんが指示を出すとポチちゃんは少しだけ離れたところに行き前足で器用に穴を掘り始めました。

 穴が出来るまでの間、ヤマルさんがこのパーティーではトイレをどうしているか説明すると言います。


「まぁ恥ずかしいと思うけど大事なことだからね。ちゃんと聞いてくれれば一回で済むし」

「はい、その……ご教授お願いします」

「そんな大層なもんじゃないよ。今から簡易トイレを作るからさ」


 ヤマルさんの説明によると、ポチちゃんが今穴を掘っているところにコロナさんが捕まえてきたスライムを入れるそうです。

 それだけ、と一瞬思いましたがどうやら違うとのこと。


「俺の魔法で見えないよう壁は作るよ。こんな感じに。《生活の光ライフライト》」


 ヤマルさんが魔法を使うと人が一人隠れそうなぐらいの光の壁が目の前に姿を現しました。

 白く、やや光度を抑えたその壁はパッと見ただけでは若干発光してるだけの壁に見えます。これを四方と上に張って簡易個室を作るとのこと。

 ただしこの壁、光ってるだけで実体は無いため透過するから注意するように言われました。

 試しに触ってみたら確かに手が壁をすり抜け向こう側へと貫通しています。


「で、まぁ女の子だし音とかも気になると思うんだけど……」

「その、そうですね……」

「俺の魔法の中に《生活の音ライフサウンド》ってのがあって、これを使うとエルフィの出す音を全部無音に出来るの。だからこれで音は完全防音出来るわけなんだけど……」


 音が出ないことは安心ですが、壁で姿が見えず声も聞こえないため何かあっても外側からでは分からないみたいです。

 その為手に持ってるもの、私なら杖を壁の外に突き出した状態にして、その動きで判断するそうです。


「で、その動きで他の事も教えてもらうんだけど……えーと、自分の元の世界ではトイレにウォシュレットって機能があってね」

「うぉしゅれっと?」

「簡単に言えば局部に水当てて洗ったりする機能だよ。もちろん人じゃなくて機械……えーと、こっちでいえば魔道具がやってくれるようなもんなんだけど、それを自分の魔法で再現してるの」


 つまり用をし終えた後で合図をすればヤマルさんがそのうぉしゅれっとなる物を模した魔法を使ってくれるみたいです。

 具体的には温水を当て温風で乾かしてくれるみたいですが、ヤマルさんからは大雑把な位置しか判らない為先ほどの突き出した杖でこちらから指示を出して強弱や位置調整をするとか。

 試しにどのような魔法かを見せてくれましたが、ぬるま湯が弱めの勢いで出たあと、温風でそれを乾かし飛ばすみたいな感じでした。

 なるほど、確かに外で用を足すならこれ以上無いぐらい贅沢で便利な魔法みたいです。

 ……もちろんなるべくしないに越したことは無いんでしょうけど。


「あ、もちろん出てきた後は上から《生活の光》で穴見えなくしておくよ。自分が離れたら効果消えるけどその頃には見えない位置にいるだろうし」

「……その、コロナさんもいつもこの様に?」

「最初提案したとき泣いて喜ばれたよ」


 コロナさんの先ほどの反応とヤマルさんの言い方から察するによっぽどだったんでしょう。

 確かに旅する女の子にとってトイレ事情が劇的に改善されてるのでしたら仕方ないかもしれません。

 私だって茂みに隠れてするのなんて考えられないですし……。


「まぁ現状最大限配慮してもこのぐらいだからね。もし改善点あれば教えて欲しいな。女の子視点じゃ自分じゃ気付けないこともあるだろうし」


 ヤマルさんは申し訳なさそうにそう言いますが十分配慮していただけてると思います。

 これで恥ずかしいから出来ない、なんて言うのは私のわがままになると思いました。

 なので覚悟を決め羞恥心に打ち勝てるように頑張りたいと思います。

 ……でも念のために確認を。


「ヤマルさんは……覗いたりは……」

「しないしない。そんな趣味は無いよ」


 苦笑しつつ手を横に振るヤマルさんにはやましい気持ちは全く感じられませんでした。


「本当ですか?」

「ほんとほんと。大体そんなことしたらコロにぶっ飛ばされるだろうし」

「こう、ハプニングに見せかけてとか……」

「やらないよ。まぁ不安な気持ちは分かるけど信じてとしか言えないからなぁ」

「そうですか……」

「……なんか微妙に残念がってない?」

「いえいえ、そんなことは」


 変な疑いの目を向けられましたが決して、断じて私にそんな趣味はないです。


「おまたせ、スライム捕まえてきたよー」

「わふ!」

「お、ポチも終わったみたいね。んじゃサクサク作りますか」


 そう言うとコロナさんがポチちゃんが掘った穴にスライムを入れ、ヤマルさんがその周りを魔法で囲みました。

 これで簡易トイレは完成。後は私が済ませるわけですが……。


「あー……そんな目で見られても、その、どうにもならないと言うか……」

「すみません。分かってはいるんですけど……」


 いくら中に入れば見えないとは言えあまり注視されるのは……。いえ、杖の動き見なければいけないのも分かってはいるんですけど。


「なるべく早めに済ませますね」


 頭を下げるとヤマルさんに魔法をかけてもらい壁をすり抜け中へと入ります。



 まぁ、その……その後の詳細は割愛しますが、うぉしゅれっとはとても良いものでした。



 ◇


 あれから旅の心得などをコロナさんに教えてもらい少数の魔物を倒しては無事最寄りの村へと到着しました。

 エルフの村以外の集落に来るのは初めてなのでとても新鮮です。

 ただエルフが珍しいらしく色々視線向けられましたけど……。

 ともあれ宿なる宿泊施設へと無事到着しました。村では来客用の宿泊施設は無いので私にとってはこれだけでも新鮮味があります。

 ただ……ちょっと気になることが。


「ふぃ、無事着いて良かったね」

「あの……」

「私もやっと安心して寝れるよ。ここ数日はポチちゃんと二人だったし」

「あのぉ……」


 小さく手を挙げると皆さんの視線が一斉にこちらに向きます。


「エルさん、どうしたの?」

「その、ヤマルさんと一緒なのは、普通なんでしょうか……?」


 今居る部屋にはベッドが二つに床に予備の寝具が一つ。

 つまりこれはヤマルさんも同じ部屋で寝泊まりするのを示していることに……。


「ごめんね。あまりお金ないから削れるとこは削らないといけなくて……」

「最近出費多かったし仕事あまりやれてなかったもんね。それに小さい村だから部屋数少ないし」

「着替えとかのときはちゃんと外に出るからさ。悪いけど慣れて貰うしかないかも」

「あ、わかりました……。その、無理言ってすみません……」


 一応金銭的余裕あるときは二部屋取ることもあるそうですが、野宿込みで一緒に寝ることはままあるので早めに慣れて欲しいとのこと。

 あ、お金は村では使ってないですが知識としては一応知ってます。物々交換ではなくお金を使って物を売買する制度みたいなことですよね。


「コロナさんは、その……」

「私もヤマルも最近は慣れちゃったかな? でも最初はヤマルも中々寝れなかったよね」

「そりゃ異性と同室だもん。意識するなって方が無理だよ」


 でもこの様子ですともうそこまで気にされてる様子は無さそうです。

 ……やっぱり男女同室、あれやこれやしちゃってるんでしょうか。

 もしそうなら今日なんて久々の再会ですし私の隣で燃え上がってビーストモード全開なんてことも……。

 それとも甘い囁きからムード作って……。


「……? エルフィ、顔赤いけど大丈夫?」

「はっ?! 大丈夫ですはい!」

「そ、そう? まぁ初めての事だらけで疲れてるかもだし、ゆっくり休んでね」

「分かりました! 多分一晩中起きないと思いますのでヤマルさん達もご、その、ゆっくりと……」

「うん、そうさせてもらうよ。明日もまた移動だからね」


 結局その日は悶々として中々寝付くことが出来ず、明け方ごろに気絶するように意識を手放しました。



 ……ちなみにお二人はぐっすりと寝てて何も起こらなかったです、はい。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます