第96話 エルフの感性・後

 突然のことに驚き固まっていると目の前に降り立ったエルフ三人。

 男女どっちだ、と思ったが全員ショートパンツを履いていたので多分女性と推測する。てかほんとエルフの性別は分かりづらい。


「エルフィリアがこんな時間にいるなんて珍しいじゃない」


 三人のうち、ショートカットの髪のエルフの女の子が片手を挙げエルフィリアに言葉を掛ける。

 知り合い?と尋ねようとして彼女の方を見るとその言葉も思わず止まってしまった。なぜならエルフィリアの表情がどこか怯えたような感じだったからだ。


「あ、その……」

「ふーん。で、あなたが昨日紛れ込んだ人間ってわけね」

「へぇ、これが……ねぇ。はじめて見たけど、なんか拍子抜けって感じ」


 言葉に詰まらせるエルフィリアを無視し、三人がこちらをじろじろと観察するような視線を送ってきた。

 と言うか初対面でかなり失礼だなこの子達……。

 あ、でも長寿だから年齢でいえばずっと上なのか。


「ねぇあなた。こんな子と一緒にいてもつまらないでしょ?」

「そうそう。だってこの子さ……」


 まるで申し合わせたかのように一人がエルフィリアを後ろから羽交い締めにし、もう一人が止める間も無く彼女のローブのボタンを外していく。

 いやいや!と首を横に振るエルフィリアだが止めてもらえず、最後にはローブの前面部をご開帳とばかりに左右に開かれてしまった。


「こーんなだらしない体だもんね」

「やああぁぁ!!」


 ローブの下から出てきたのは服装こそは三人と似通っているものの、完全に体つきが他のエルフとは一線を画していた。

 まず否が応でも目につく豊満な胸。率直な感想としてメロンが二つある、と思わず抱かせるほどである。

 そしてお尻も女性特有の丸みを帯びた良い曲線を描いていた。男ならこんな子が歩いていたら思わず目で追ってしまうだろう。

 ただ不思議に思うのが目の前のエルフの子が言うような『だらしない体』とは程遠い。

 お腹周りが出てる訳でも無いし、腕や足回りも弛んでることもない。

 もしこんな子が『だらしない体』扱いされようものなら世の中の女性が反乱を起こしかねないほどである。


「あはは。冗談よ、冗談。でもこの子より私達の方が良いと思わない?」


 ようやく解放されたエルフィリアが自分の体を隠すようにローブを着直すとその場で蹲ってしまった。

 その横ではエルフの女の子がこちらに向け自慢の体を見せるようにポージングを取っている。

 確かに美しいことは美しいんだけど、エルフィリアとはベクトル全然違うから比べようがないと思う。

 しなやかな体つきに整った顔立ちは正にパリコレモデルも顔負けと言った感じだ。

 逆にエルフィリアはグラビアアイドルかハリウッド女優のような感じである。

 正直好みの差はあれどどちらが上なんてことはない。

 ないのだが……。


「確かに皆さん美しいですね」

「でしょ? なら——」

「でも」


 満足そうな笑顔を向ける三人の横を抜けエルフィリアの前まで行き彼女に手を差し出す。


「あんまり一人を寄ってたかってする人はちょっと、かな?」

「なっ?!」


 まさか断られると思っていなかったのか、三者三様口をパクパクとしたままこちらを見ていた。

 自分にもこういうのは覚えがある以上、彼女を放っておくことなんて出来なかった。

 なにせこういう時一番辛いのは味方がいないことなのは身を以て知っているし。


「折角皆さん外見美人さんなんですから、内面も美人さんになったらもっと素敵になると思いますよ。……エルフィリアさん、立てる?」


 俯いたままこちらを見ようともしなかったエルフィリアだが、ゆっくりと手を伸ばして来たのでその手を取り彼女を立たせる。


「た、短命の人間が知ったようなこと言わないでよ!」

「ほら、もう放っといて行こ。趣味悪いのよ、人間って……」


 悪態をついたまま登場したときのように彼女らは跳躍し樹を伝ってそのままどこかへ行ってしまった。

 コロナとは別種の身軽さに流石エルフと感心してしまう。


「ひっ……ぐすっ……」


 前髪で目元は見えないがどうやら先ほどのことがよっぽど嫌だったのだろう。空いてる手でしきりに目元を拭っている。

 このまま長のところに行っても色々ややこしい事になりそうだったので一旦落ち着かせることにした。丁度近くに腰をかけるに丁度良い切り株があったのでそこにエルフィリアを座らせる。

 とりあえずは彼女が落ち着くまでは少し待とう。自分も隣に座ってるとときどきその辺を行きかうエルフに変な目で見られてしまった。

 ……まぁ傍から見たら人間が同胞泣かせてるような構図だもんなぁ。仕方ないけど。


「ん……ヤマルさ、ごめん、ごめんなさ……」

「あ、良いから良いから。ゆっくり落ち着いたらでいいよ」


 こういう時に気の効いたことでも言えればいいんだろうけど、残念ながらそんな言葉は何も持ち合わせていない。

 包容力ある人とかなら色々してあげれるんだろうが一緒にいてあげれるぐらいが精一杯だ。

 そしてようやく落ち着いてきたのか、隣から聞こえてた嗚咽も聞こえなくなる。


「……すいません、お見苦しいところを……」

「ううん、大丈夫だよ。それに見苦しいのだったら昨日の自分だって大概だし……」


 しかしあの時全然気づかなかったんだけど本当にエルフィリアはどこにいたんだろうか。

 ……うん、考えるのは止めにしよう。真正面に居たなんて言われたらとてもじゃないが今後顔を見れない。


「……でもごめんなさい。隠してたってすぐばれちゃうのに黙ってて」


 何が、とは聞かない。多分自分の体型にコンプレックスを持ってるのは何となく分かった。

 そしてエルフィリアはぽつりぽつりと自分の胸の内を吐露するように話していく。

 彼女の話と先ほどのエルフたちの態度と会話内容からエルフの内情がなんとなく推察出来た。

 どうもエルフの美的感覚は顔の美醜ではなく体のスタイルが重視されるらしい。

 これは多分エルフ全員美形だからそこが基準値になってるせいだろう。

 特にスラっとした体つきが好まれる傾向のようだ。しなやかさがあれば狩りなど色々なところに役立てるためと言う理由もある。

 また種族特性のためか基本的にエルフ全体が細身が多いのも理由の一つだろう。

 そのためエルフィリアのような人間目線で『スタイルの良い体型』でも他のエルフと相対的に比べるとどうしても『だらしない体型』とみなされてしまうらしい。

 周りからからかわれ続けるのが嫌だったため痩せようとしたこともあったそうだ。

 しかし実際太っているわけではないため彼女の努力は実ることはなく、逆に腰周りなど無駄な肉を落とし一層メリハリの効いた体つきになってしまった。

 結果その体を隠すようにだぼったいローブを着るようになったそうだ。


「倉庫にいたのも昔からあそこなら誰もこないから……逃げてただけで……」


 そしていつも通りいたら思わぬ来訪者である自分が来てしまったということらしい。

 普段なら物陰に隠れてやりすごせたのだが、まさか軟禁用に使われるとは思わなかったらしく結果昨日の通り見つかってしまった。

 あの時自分が助けを呼ぶのを止めたのも倉庫に入り浸ってるのを知られたくなかったからだそうだ。


「……ごめん、なさい。こんなこと、聞いてもつまんないですよね」

「ううん、自分の知らないこととか色々聞けて良かったって思うよ。でもエルフィリアさんは話して良かったの? 色々と言い辛そうなことあったと思うけど」

「あ、はい。こんなこと話すの、その、初めてで……聞いてもらえそうな人、いませんし……」


 まぁ確かに先ほどの三人見る限りじゃとても話せなさそうな内容ではある。

 でもそれを自分に話して良いのかといわれたら首を傾げざるを得ない。そこまで気楽に話せる内容でもないのに……。


「えと、あと……先ほどは庇ってくれて、ありがとうございます。私はもう大丈夫ですから、他の人とお話されても……」

「ん? いいよいいよ。正直あそこまでぐいぐいされちゃうと自分も気圧されちゃうし」

「でも、私と一緒だとさっきみたいに、趣味が悪いって言われちゃいますし……。私のせいでそう思われるの、嫌です……」


 ……なんだろう。この子には妙なシンパシーを感じる。

 自分と似てるところが多いってことなのだろうか。

 やっぱ放っておけないのは自分見てるように思えてるのかもしれない。


「んー、あくまで自分の感性なんだけどさ。エルフィリアさん、別にだらしない体とかじゃないよ? むしろ女の子らしいって思えてるぐらいだし」

「……はい?」


 あ、何言ってるんだこの人?みたいな感じになってる。

 まぁ突然そんなこと言われたらそうなるか。

 彼女らの感覚だと太ってる人間に『君はモデルのような人だね!』って言ってるようなもんだし。


「まぁエルフの感性だと信じられないかもしれないけどさ。人間とかだとエルフィリアさんみたいな体型の方が女性らしいって認識なんだよ」

「そう、なんですか?」

「うん、だから一緒に居ても別に気にならないし。趣味が悪い言われてもこういう感性だからとしか言いようがないからね」


 勿論エルフの感性が間違ってるわけじゃない、とはちゃんと伝えておく。

 あくまでエルフはエルフでそういう美的感覚を持ってるだけであると。

 そしてその感性なんて地域や個人で変わるものだから、絶対に正しい感性なんてどこにも無いと。


「まぁ強いて言うならその地域で大多数の人がそう思ってる感性がその地域では正しい、ぐらいかなぁ。だから俺は別にエルフィリアさんと一緒にいても全然平気だし。まぁこの森で暮らしてる以上なんも解決になってないけど、世の中はそういう考え方も割と多いと思うよ」


 こちらの言葉にじっと耳を傾けているエルフィリア。

 微動だにしないが、もし前髪の奥の彼女の目が見えていたら瞬かせていたかもしれない。


「……ありがとう、ございます。森の外はそんな感じなんですね」

「んー、自分の元いた世界だけかもだけど。でも少しぐらいは安心出来た?」

「はい、とても」

「ん、なら良かったよ」


 コンプレックスなんて早々解消出来るもんじゃない。

 今後彼女が何歳まで生きるのか分からないけど、少しでもこの事実で楽になってもらえたら嬉しいと思う。


「……そろそろ、行きましょうか。随分話し込んでしまいましたし」


 立ちあがりそう言う彼女に頷き返しては自分も腰をあげる。

 とりあえずは荷物、出来れば武器も返してもらえればなぁと思いつつ長の所へ向かうのだった。


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