第69話 良い悪巧み3


「ヤマル君、生きてるー?」

「……死んでます」


 屯所の一室にてテーブルに突っ伏しぐったりと死んだように身動ぎ一つせず体を休める。

 体中に纏わり着く倦怠感。力が入らず何もする気が起きない。


「まぁ魔法使い過ぎね。《生活魔法アレ》でこうなるってよっぽどよ」

「結構使いましたからね……」


 あれからのことを思い出すと安請け合いするんじゃなかったかなぁと若干反省。

 まぁ効率面考慮すれば一番良かったのは間違いなかったのだが……。



 ◇



「メムを使うって……掘ってくれるの?」

『いえ、私に搭載されてるエコー検査用の超音波機能を使ってみてはいかがでショウ』


 メムがこちらに提案したアイデア。元々医療サポートロボットとして製造されたため、その機能の一つであるエコーを使ったらどうかということだった。


「そんなものまで使えるんだ……あれって地面向けてでもいけるの?」

『確定ではありまセン。ですがそこまで深くなければ試す価値はあるカト』


 つまりこれを使えば地面を掘らずとも破損箇所が特定出来るかもしれない。実際に掘って埋めてを繰り返すよりは遥かにいいだろう。

 最終的には全検査はしたいところだが、急ぎ大きな損傷箇所を探すのであればこれ以上の手は無さそうだ。


「皆さん、自分はこの案は良いと思いますけど……」

「あ、その。『ちょうおんぱ』とか『えこーけんさ』とかよく分からないんだが……」


 職員の言葉にマルティナも同意するよう頷く。

 とりあえず詳しい説明は後回しにして、地面の下を見る目があるようなものがあるとだけ二人に伝えた。これがあれば態々掘って確認しなくても必要な部分だけで労力が済むとも付け加えておく。

 元々総当りで掘るしか手段が無かった為この案は即採用。成功するか不明だが、失敗しても結局従来の方法になるだけなので問題ないのも後押しとなった。


 そしてその後の行動は早かった。

 スマホで水路が埋まってる地図を写真に収めメムへ転送。こちらが行く前から調査だけは進めておくとのことで、兵隊に守られながら先行で街中を検査をしに行った。

 資材と人員を集め終えたこちらも早めに城を出発。メムが怪しいと判断した場所には人払いも兼ねて兵士が見張らせているらしく、手近な場所に行くと数名の兵士が立っていた。

 彼らに挨拶を交わし最初の目視調査へと移行する。


「怪しいという判断ですが壊れたと断定されたわけじゃありません。掘る際には細心の注意を以ってお願いします」


 シャベルやツルハシなどを持った職員や兵士、それに魔術師ギルドの面々にそう告げるのは先ほど城で対応してくれてた人だった。どうやらリーダー格の人だったらしい。

 足下にはガチガチに踏み固められた地面。この世界に重機は無いため人の手による方法でしかないため時間がかかりそうだった。


「マルティナさん、あの……」

「何、どしたの?」


 なので少しでも楽になればと思い、隣にいるマルティナに耳打ちして使えそうな手をこちらから提案する。


「そんなことできるの?」

「えぇ、でも勝手にやるのもあれですし……」

「いいわよ、ちょっと待ってなさい」


 マルティナがリーダーの下へ歩み寄り二、三言葉を交わすとOKが出たらしい。頭上で両手を使い大きく丸を現していた。

 それを確認すると現場を見張っている兵士の横を通り、怪しいと思われた場所から数歩離れた場所で肩膝を付きしゃがみこむ。

 周りの面々が何をするの?と注目する中、両手を地面に着け魔法を一つ使用した。


「《生活の土ライフ・アース》」


 現状一番使ってなかった《生活魔法》の一つ。

 効果は土を耕すだけの魔法。それも土以外には何の反応も無い。

 逆に言えば土以外の物体を避けて周囲の土を柔らかくする魔法でもある。

 怪しいと思われる箇所の周囲を立方状に範囲指定して発動。この魔法はパッと見が変わらないため効果の程が一見では窺えない。

 なので成功したか確認しようと硬いはずの地面に手を差し込むとサクリと指先が地面に埋まった。

 そのままかき出すように土を少し掘る。問題は無さそうだ。


「成功?」

「ですね。後はガンガン土を取り除けば良いと思いますよ」


 後ろから問いかけてきたマルティナが自分も試すように地面に指を突き立てると、柔らかくなった土が彼女の細い指を受け入れる。


「私が覚えたときこんな魔法無かったのに……」

「土いじりしたこと無いとかじゃないですかね?」


 生活環境依存なのだからその辺は仕方ないだろう。

 ともあれ作業が楽になったのは喜ばしいことである。後ろでポカンとしてた他の人らにリーダーが指示を送り作業が開始された。

 程なくして地面から石で出来た円柱状の石のパイプみたいなものが掘り当てられる。これが水道用の水路だろう。

 そしてそこには予想通り継ぎ目部分の止め具が壊れており、ずれた箇所から水が漏れ出していた。


「これなら交換ではなく修理ですね。担当者の方は集まってください!」


 修理担当のメンバーが集まり止め具部分を修理し始める。

 その間にこちらは次の場所へと移動。メムに指示を仰ぎ順路を辿るように移動すると再び数名の兵士たちが現場を囲うように立っていた。

 再び自分が《生活の土》を使い地面を耕し、他のメンバーが穴を掘り、損傷箇所をリーダーが確認し修理や交換を行う。

 もはやライン作業の如くシステム化された布陣のように次々と場を変え普及に努めていく。

 特に一番労力が必要な『破損箇所の特定』と『地面を掘る』の二項目の作業量が大幅に低減されたため、リーダー曰くありえない速さだと驚いていた。


 結果要所要所ではあったものの王都全域を突貫工事張りのペースで作業を終える。

 水道自体も何とか無事に出るようになり、メムのチェックに引っ掛からなかった残りの部分は時間をかけて調べていくそうだ。

 ちなみにこの間、全域の掘り作業の支援をしてたのは自分一人。いくら《生活魔法》とは言え普通一人で回しきれるものではなかったものの、特に時間との戦いでもあったため弱音吐けず……結局終わった瞬間倒れたのだった。



 ◇



「まぁ今日は休みなさい。明日まだ体がだるかったらうちに来るといいわ」

「分かりました……」

「それじゃコロナちゃん、ポチちゃん。ヤマル君しっかり運んであげてね」

「はーい。マルティナさん、おやすみなさい」

「わふ」


 何とかマルティナに片手を挙げて見送るとこちらも帰路につくことにした。

 まるで荷物のように戦狼状態のポチの背に抱きつくように寝転がる。


「人にあれだけ休憩のこと言っておいて無理しすぎだよ」

「事情あったとは言えその通りだね、面目ない……」


 しっかり休憩が出来たコロナとポチは疲労はまだ残ってるものの多少は回復したようで自分よりはずっと大丈夫そうだった。

 そのままポチの背で目を瞑るといつの間にか眠っていたらしく、次に気づいたときにはすでに宿の前。


「ヤマルー、お部屋行くよー」

「ん……」


 重い瞼を擦りながらポチからのそのそと降り、コロナに手を引かれるまま部屋へと直行する。

 翌朝女将さんに手の掛かる弟みたいだった、と言われる羽目になるとはこの時気づくはずもなく、部屋に入るとそのまま椅子に座らされた。


「ヤマル、はい両手上げてー」

「んー……?」


 力なく両手をあげるとコロナがこちらの防具を外し、続いて上着に手をかけ脱がしにかかり――


「ってストップ!」

「あ、起きた」


 寝ぼけた頭が一気に覚醒する。

 危なかった。いや、今も十二分にダメな気もするけど流石に服はもっとダメだろう。


「まぁ起きたなら寝る前に体洗った方がいいよ。今日は皆あちこち走り回ってるし」

「あー、そうだね……今日は体拭く程度にしておくよ」


 普段ならちゃちゃっとお湯張るところだが今日はもうそんな元気はない。

 休んでから明日朝一で入ることにする。


「なら私もそうしようかな。お湯出せる元気ありそう?」

「うん、それぐらいなら」

「じゃぁ桶持ってくるからちょっと待っててね」


 そう言うとコロナはパタパタと隣の部屋へ戻っていった。

 しかし本当に屯所から部屋付近までの記憶が曖昧である。なんか返事したりしてた気もするけど全然覚えてない……。


「わふ」

「……ポチも今日は大活躍だったね」


 ぐりぐりと頭を撫でるといつも通り気持ち良さそうに目を細めるポチ。

 しかし本当に今日は三人とも忙しかった。……何か途中からはあいつを困らせてやるって目的がなくなってた気もするけど、まぁ皆喜んでたし多分良かったのだろう。


「ヤマルー、取ってきたよ」

「んじゃすぐ入れるよ」


 戻ってきたコロナにお湯を出してあげるとあちらも疲れてるのか早々に戻っていく。

 こっちも今日はすぐに寝落ちしそうだったので、手早く体だけ拭き早々に床に着くことにした。



 ◇



「二日連続だね」

「予想以上に対応早いね。と言うか名指しで呼ぶとは思わなかったなぁ」


 昨日同様城より使いの兵が宿にやってきた。どうやらまた誰かが自分を呼んでいるらしい。

 違う点は使いの兵士が昨日の兵士ではないこと、メムを使わなかったため事前連絡が無かった事、馬車が使えるようになったことぐらいだろうか。

 ともあれ案内されるまま城の中へ入り昨日とほぼ同じ廊下を歩く。行き先は多分本来なら案内されるはずだった場所だろう。

 予想通りと言ったようにとある豪奢なドアの前で兵士が振り返り中に入るようにこちらを促す。

 ノックして中に入ると、部屋の中央に入り口から奥の方まで伸びる長いテーブル。そしてそれを囲うようにして座る貴族と思しき人が多数。

 殆ど見かけたことのない人ばかりだったが、よく見ると奥の方に国王代理とその隣にはスヴェルクの姿があった。

 そして彼らのテーブルを挟んで向かい側には昨日自分らを追い出したハゲ……えーと、ボールド?だったかそんな名前の貴族の姿もある。


「来たか。それでは始めるとしよう」


 まるで裁判所の裁判官のように進行をし始めるボールド。

 なおここに呼ばれた理由は何も聞いていない。

 多分昨日の事に関係するんだろうが、それならば兵隊長やマルティナ辺りもいても良さそうである。しかし二人の姿はどこにも見当たらなかった。


「ボールド殿、彼ですか?」

「あぁ。我々の呼び出しを無視し国の権威を故意に落としいれようとした男だ」


 ……こいつは何を言っているのだろう。

 隣を見るとコロナも同じようなこと考えてそうな顔をしていた。


「さて、何か弁明はあるかね?」

「……弁明も何も何の話ですか?」


 そう問い返した途端場の雰囲気が若干険悪になった印象を受ける。

 もし声に出すとしたらこいつは何も分かってないのか、もしくは平民の分際で何を言ってるのか分かってるのか、辺りだろうか。


「ボールド様、彼に本日呼んだ理由は話されましたか?」


 そんな中助け舟を出してきたのは同じ異世界人のスヴェルク。

 まさか自分に意見する人がいると思わなかったのか、ボールドは小さく舌打ちをする。


「あれだけのことをしておいてまさか知らないが通るとでも? そもそも呼んだのに現れる事がなかった彼を貴方は真っ先に糾弾する立場では?」

「ですが本当に知らない可能性もあります。どうでしょう皆様、今一度問題の確認のためにも彼が何故呼ばれたか話してもよろしいでしょうか」


 流石にそんな必要は無い、と表立って言える人物はいなかった。

 それを確認したスヴェルクが一つ頷くと、改めてこちらに向き直り説明を始める。


「昨日、地震がありその件で私がお呼びした件です。そちらは覚えてらっしゃいますか?」

「えぇ、勿論」


 その為に城に来たのに結局そこのボールドの指示で無駄足になってしまったのだ。忘れるはずが無い。


「しかしあなたは現れなかった。のみならずその日は城下で様々な人に目撃されてますな」


 どうも彼らはこちらの足取りを調べたらしい。

 その後屯所にいた事、街中を走り回ってたこと、魔術師ギルドと共同で水道用水路の修繕を手伝ってたこと等々。


「対応に当たった兵士や職員からは称賛が出ておりますな。地震に対する対応策に従来とは違う効率的な方法だったため大変助かったと」

「ありがとうございます」


 ここに来てちゃんと対応が正しかったことにホッとする。

 大丈夫とは思ってはいたが、やはり世界が違えば色々異なる部分もあるため不安だった。

 だがそれも杞憂に終わったらしい。


「しかし反面住人から国や貴族について不満が出ております。対応に当たったのは確かに国に使える者達ですがどれも現場の人間。上の人間は何をしていたんだ、と」

「上の教育がしっかりしていた、じゃダメなんですかね?」

「そうも取れますがしっかりしてないから下が勝手に動いた、と取る人間も中にはいるわけですよ」

「そのため基本各部署への指示伝達は我々からが望ましいのだが……貴様が本来ここで提供するはずだったその策や知識が現場レベルで最初から流れたために我々に対し不要な誤解が出ているわけだ。この始末、どうしてくれるのかね」


 あぁ、なるほど。

 つまり昨日自分たちが仕組んだ面目丸つぶれ云々に関してはちゃんと効いている訳だ。

 ただこのボールドは自分が追い返したことを無かったことにして、住人からの批判を貴族や国全域に広げようとしてる。

 そうすれば自分も被害者になれるのみならず他の多数の貴族達にも被害が及び、同じ被害者同士として仲間を集めやすくしてるのだろう。

 事実、ここにいる面々が一部を除きこちらに対して明らかに敵意を向けている。

 そのためにボールドは判断ミスの責任を、自分が現れなかったためにこうなったとしてこちらに押し付けようとしているわけだ。


「(ヤマル……)」

「(分かってるよ)」


 前回と同じ轍を踏まないためにも、コロナとポチには自分が物理的に害されない限り何もしないようにと言ってある。

 後どうするかは自分の役目だ。

 ……ただ大勢の貴族が並ぶこの部屋は正直胃が痛くなる威圧感がある。ボールドみたいなのもいるが、上に立つ人間のオーラとでも言えばいいだろうか。

 まるで社長や役員の前で平社員が何かをする感覚をもっと大きくした、そんな感覚に思わず尻込みしてしまいそうになる。


「事情は分かりました。一応こちらからの弁明の機会はあるのですよね?」

「良かろう」


 その言葉を機にようやく相手がこちらと同じ土俵に上がってきた。

 いや、あちらからすれば矮小な小物を叩き潰そうとわざわざあがってやったぞと言う感覚なんだろう。

 だがそれでもようやく声が届く範囲に来てくれたのだ。

 ここからは自分がしたこともない戦いになる。日本でもする人はするだろうが、自分みたいな一般人ではまずしない戦い。


「何故貴方は嘘をつくんですか?」


 舌戦の開始だ。


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