第52話 生き抜くために


「…………」


 宿の自室のテーブルの上に並べた物をじっと見つめる。

 置いてあるのは自分の短剣とスリングショットだ。双方手入れはしてあるため今のところ不調を起こしたことはない。

 そもそも使用する機会があまり無いため損耗もそこまでないのだ。よっぽど変な扱いでもしない限り壊れることは無いだろう。


(どうしたもんかなぁ……)


 何度目かのため息をつき無い頭を捻って考える。

 現在自分の最大の悩み。前々から分かってはいたが自分の戦闘力の無さがここ最近浮き彫りになってきた。

 きっかけはチカクノ遺跡での一連のことだ。

 コロナは一人で汎用ロボットを打ち倒したし、サイファスは無双モード、『風の爪』は見事な連携で怪我人を出すことなく捕縛した。

 もちろん自分と彼らを比べること自体ナンセンスだ。才能、センス、努力した時間、生まれた環境。何もかもが違う。

 ただどうしても思ってしまうのだ。もう少し戦えたら、と。

 男として生まれたからには誰だってヒーロー願望の一つや二つあるだろう。今でこそ現実が分かってるからそのようなものはもう持ってないが、十年ぐらい前までは自分だって人並みにあった。

 力を得て悪人を懲らしめ女の子にモテる。そんな妄想を描いた事だって一度や二度ではない。

 ただ現実はやはりそううまくはいかないものだ。妄想の産物でありそうな異世界にいるものの、力は無いし悪人もいない……いや、いても多分こてんぱんにされるだろう。

 そんな情け無い人間が女の子にどうしてモテようか。そもそもこれまで異性と関わることが殆ど無かった自分がかっこいい言動など取れるはずが無い。


(いかん、考えがずれた……)


 頭を振りモテるモテないの話題を追い出す。今はそちらより強さの方だ。

 改めて現在の自身の強さを自己分析する。

 身体性能は日本基準なら中の下辺り、ただし異世界ここでは最下層に近い。

 剣術などの武術の心得は無く、魔法も魔力が無いため《生活魔法》以外は使用することが出来ない。

 RPGならば魔法の使えない魔法使いぐらいのステータスになってそうだな、と苦笑しつつ問題点の抽出に入る。

 そもそも戦いにおける『強さ』とはなんだろうか。

 素人考えだがこれは三つの事柄ではないかと思う。『敵を打ち倒す力』、『敵から身を守る術』、『敵を翻弄する技術』。

 打ち倒す力はそのまま攻撃力と見ればいいだろう。知ってる人間ならコロナやサイファス、フーレなどはここに該当するはずだ。

 敵を倒せば危険が消え自ずと自らの身を守ることに繋がる。

 では自分が持っているものからそれらは何か、と問われれば目の前にある短剣とスリングショットだろう。

 残念ながら《生活魔法》には敵を倒す力は無い。戦狼やラッシュボアを倒したのは《生活魔法》だが、あれはこの魔法の強さではなくそのときの周囲の環境のお陰だ。

 常時発揮出来ない以上これは違うだろう。


 さて、その短剣だが鞘から抜刀し眺めてみる。

 刃こぼれ一つ無い刃。値段の割には質の良い物をあてがってくれた店主に感謝する一振り。

 自分の中では一番殺傷能力が高いのがこの短剣だろう。

 だがこれで敵を打ち倒せるかと言われたら……難しいと返さざるを得ない。


「まぁ武器のせいじゃないんだけどね」


 これが伝説の聖剣だったとしても自分が強くなれるかと言えばNOだろう。

 実際短剣でも聖剣でも使い手が自分ではお話にならないのだ。武器そのものの攻撃力があっても当てる技術がなければお察しである。


(武器自体を強くするって方向性は間違ってはないんだけど……)


 本人が強くなりにくいなら他から補填するしかない。

 そして一番簡単で効果的なのが武器であり防具であり道具である。

 ただ現状自分の能力での最適解がこの短剣でありスリングショットなのだ。あまり重い物を持てない以上どうしようもない。


 重い物と言えば防具にも制限はかかっている。

 『身を守る術』ではやはり防具に頼るべきところも大きい。この間の重装兵士の大盾に助けられたこともあった。

 でも冒険者にとって重量のかかる防具は基本NGだ。更に自分の貧弱さがそれに拍車をかけている。

 何か軽く丈夫な物……ゲームなら魔法の布で作った物なんてあるが、その様な話は聞いたことが無い。

 あってもきっと目玉が出るぐらい高価な物なのだろう。最近は金銭的に余裕が出てきたが、さりとてお金持ちと言えるレベルではないのだ。

 防具に期待を見出せない以上他の手段で考えてみる。

 例えばコロナやダンは持ち前の足で回避している。これも立派な身の守り方だ。

 スーリの氷の魔法で作った壁もだろう。手段は違えど全部身を守る術である。

 ……問題は自分では参考にならないのだ。足は遅いし魔法は使えない。《生活魔法》もあっさり消し飛ばされるほどの威力しかない。

 現状最低限の備えはあるが、逆に言えば最低限しかない。

 接近されたら基本終わりだ。敵を打ち倒す力も自分を守る力も弱いのだから。


 ではどうするかと言えば最後の『敵を翻弄する技術』だ。要するに相手の行動を制限するのである。

 三つの中では自分で一番秀でてるのはここだろう。どんぐりの背比べもいいところではあるが。

 索敵なんかもここに入ると思っている。制限はかけてないが相手の行動を知りその後に繋がるからだ。

 でもやはり感づかれたら基本詰みである。

 スリングショットを使っても魔法を使っても短剣を振り回してもさほど脅威にはなりえない。

 今後あの汎用ロボットのような相手が出てきたら本当に何も出来なくなる。

 攻撃は弾かれるし銃は避けれない。近づいてもあんな金属オンリーの体で殴られたら痛いじゃ済まない。


 まぁなんだかんだ考えた結果、やはりこの結論に達する。

 詰みだ、と。


(あ~……どうするどうするどうしよう……)


 ベッドに飛び込みゴロゴロと右に左に転がるがそんなことで良いアイデアなど出るはずも無い。

 いい加減疲れたためうつ伏せで止まると頭の所にポチがやってきた。

 顔を上げるとどことなく心配そうにこちらを見ている。ただ先程の行動が奇行に見えたのか、普段より半歩遠かった。


「……コロに相談するか」


 彼女に相談すれば『自分が頑張るからヤマルは気にしないでいいよ』なんて言いそうだったから自分だけで考えていたのだが、これ以上一人で考えても良いアイデアは浮かびそうに無かった。



 ◇



 明けて翌朝。


「私が頑張るからヤマルは気にしないでいいよ」


 朝食を取りつつ相談を持ちかけたところ予想通りの言葉を返されてしまった。

 まぁコロナの立場ではそうなるだろう。護衛として仲間にいるのだから、その仕事を彼女が頑張るのは普通である。


「でもなぁ、少しだけでもなんとかしたいんだよね」


 そうは言うものの俺だって頭では分かっているのだ。自分の強化に回す分があるのならコロナを強化した方が合理的だと。

 彼女が強くなることは自分の身の安全に直結している。さらに言えば効率面もだ。

 しかし、でも、とつい考えてしまう。

 もしコロナと分断されるようなことがあったら?

 もし今後また一人に戻るようなことがあったら?

 先のことなんて誰にも分からないのだが、それでも打てる手は打っておきたいのだ。

 敵を倒せなくても良い。十秒でも耐えれればコロナが駆けつけてくれる確率がぐっと上がるのだから。


「う~ん……普通に考えたら武器か魔法なんだろうけど……」


 やっぱりコロナも同じ考えらしい。

 ただ最後に『けど』って言ってることは行き着いた答えも同じなんだろう。


「戦闘力の伸び代が無いのが痛すぎなんだよなぁ……」


 がっくりとテーブルに突っ伏して幾度と導き出された結論を吐き出す。


「そんなこと……」

「あー、大丈夫。凹んでるけど諦めるつもり無いから」


 何とか否定しようにも言葉が続かないコロナを見ているとやはり言ってることは間違いではないと実感する。

 もちろんこのまま止まるつもりは無い。結局生きるためにももがいて進むしかないのは分かり切っているんだから。

 先程伸び代が無いとぼやいたが正確には全く無いわけではない。これでもここに来た当初に比べたら体力は間違いなくついている。

 ただ特訓や経験を重ねてもこの世界の住人レベルにはなれないのだ。頑張って鍛え続ければ数年後になら一般村人程度にはなるかもしれないが、そこで打ち止めである。


「結局他の人と同じことしても多分ダメだと思うんだよ」


 鍛えることが無駄になるとは思ってない。しかし他の人と同じことをしたところで、結局地力で負けてる以上基本勝てるわけがない。

 なら違う部分から攻めるのは必然であり定石でもある。

 問題はその違う部分の選択範囲が恐ろしく狭く打てる手がないのだ。


「うーん……じゃぁやっぱり武器を手に入れるのがいいんじゃないかな」

「でも強化したところで結果は……」

「ううん、違うの。全く新しい武器を作ってもらうのはどうかな。ほら、ヤマルって私達が知らないことたくさん知ってるよね。その中で合う物を作ってもらうの」


 確かに武器でなんでもありならもちろん欲しいものはある。

 先日のチカクノ遺跡で汎用ロボットが使っていた『銃』だ。もちろん腕ごと銃になってるようなごついのではなく小型の拳銃サイズのやつ。

 ただこの世界では銃は知られてないし作られていない。


「確かに皆が知らないような武器のアイデアはあるよ」

「うん、それでいこうよ。皆が知らない武器は対処法が決まってないから優勢取りやすいよ」

「ただ作り方知らないんだよね……」


 銃の構造は詳しくは知らない。ふわっとした感じでこういう理論で弾が飛んでいるぐらいだ。

 そんな大雑把な知識では自作は元より専門家ですら銃なんて作れるはずも無い。


「そこで提案なんだけど……ドワーフの職人さんに作ってもらうのはどうかな?」

「ドワーフ? 作れたりするの?」


 物語で聞くドワーフは職人気質で手先が器用、そして大酒飲みのイメージだ。

 ただ作るものは剣や鎧のイメージがあり、近代武器は門外漢ではないかと思う。


「うーん、聞いてみないとなんとも。ただ挑戦心は人一倍だし新しいものは取り入れたりするから可能性はあるかも」

「ふむぅ……」


 なるほど、知識欲もかなりあるわけか。そんなドワーフなら銃をこちらのイメージから作り上げるかもしれない。

 いや、銃が理想だがボウガンが無難か? 構造的に銃よりはずっと単純だし……。

 ただ前にラムダンとボウガンについて話したときの整備性の無さが懸念される。

 新しい武器とは即ちワンオフなのだ。整備性考慮しないとすぐに使えなくなってしまう。

 まぁ出来る出来ないはそのドワーフらに聞くしかないだろう。


「で、そのドワーフってどこにいるの?」

「国外だね。獣亜連合国の山間の街だよ」


 位置的には王都からずっと北。ただコロナの故郷の獣人の町よりは手前にあるらしい。

 獣亜連合国は大体亜人種が西側に、獣人種が東側に多いそうだ。


「……結構遠いよね?」

「うん、まぁそこそこ……」


 まぁ国外だからそうだよな。チカクノ遺跡みたいに一日かけて程度じゃ済まないんだろう。

 そうなるとやっぱりお金もいるよなぁ。旅費もそうだがもし武器を作ってもらうのであればそちらの費用も念頭に置かなければならない。


「行くなら私が街までなら案内できるけど……」

「う~ん、ちょっと保留かな。今すぐには決めれないかも」


 流石に小旅行程度の距離ではないだろう。目的地往復するだけで月単位かかるかもしれない。

 行くにしてもやっぱり念入りに準備はするべきだし。


「ただまぁ……ドワーフのところにはどこかで行くつもりではあったんだけどね」

「そうなの?」

「うん。これとは別件だけどね」


 日々に追われてたまに忘れそうになる本来の目的である召喚石の入手。

 その召喚石の台座部分はドワーフの細工職人から作ってもらってるのだそうだ。

 ただ国宝と呼ばれるぐらいの物である。その目的で行くにしても、もっとお金を貯めた後だと思っていた。


「あっち行くならもう少し足伸ばしてコロの里帰りもする? ずっとこっちだったし、ご両親居るなら顔見せてもいいんじゃない?」

「あ、うん……物凄く怒られそうだけど……」


 当時の怪我のせいで居た堪れなくなって逃げるようにこっちに来たコロナ。

 本人としても気にはしてるんだろうが踏ん切りが中々つかないといったところか。


「でもま、会える内はちゃんと顔見せて会っておいた方がいいよ」


 自分にももちろん両親はいるし存命である。ただこちらに来てもう少なくない日数が流れている。

 日本ではどうなってるか分からないが多分心配してるだろう。

 もはや二度と会えない可能性だってあるわけだし……。


「……ヤマル?」

「ん、なんでもないよ。ともかく怪我は治ったんだし気持ちの整理ついたら一度帰った方が良いと思う」

「うん……」


 まぁきっとコロナも頭では分かってるはずだ。

 ともあれ彼女の里帰りの件は一旦横に置いておく。


「とにかくもう少し他の人に話聞いてみるよ。情報は何より大事だからね」


 有益な情報を得れそうな人の顔を浮べつつ、まずは残りの朝食を胃に収めることにした。


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