第51話 閑話・冒険者達の恋愛事情


 冒険者となってまだまだ日が浅いものの、毎日通っていると色々分かることがある。

 今日はその中から冒険者の恋愛事情について考察してみることにした。


 まず一つの事実として女性の冒険者はあまりいない。

 全くいないと言うわけではないのだが見ることが殆ど無い。

 この世界において女性の人権云々ではなく、そもそも危険なところに行かなくても嫁げるし他に仕事があるのが主な理由だ。


 そしてそんな希少な女性冒険者も組んでいるメンバーによって様々だ。

 例えば特定の相手がいない女性の場合は大体二通りに分かれる。

 一つは女性だけでパーティーを組むパターン。

 やはり外で寝食を共にすることもままある冒険者にとっては、男女がそんな状態になるのはあまりよくないと考えているのだろう。

 ただでさえ少ない女性冒険者が一組でまとまって行動しているため、どうしても目にする機会が少なくなっている。

 もう一つは出会い目的と言っては悪いかもしれないが、優良株の男性冒険者のところに転がり込むパターンだ。

 この場合元々組んでたパーティが瓦解することがそれなりにあるらしい。やはりお金と異性はどの世界でも取り扱い注意と言うことなのだろう。


 逆に特定の相手がいる場合も分かりやすい。

 一番分かるのは男女のペアだろう。ただこの状態だと新規のメンバーを集めるのが難しいというのは聞いたことがある。

 発展型としては男女が二人ずつだ。お互いに決まった相手がいるため男女混合型のパーティとしては理想なんだとか。


 他にも男ばかりのパーティだけど実は既婚者で子どももいる、なんて人も中にはいる。


 今挙げたのは言うまでもなく極少数だ。

 基本的に冒険者は独り身が多い。

 これはいつ死ぬか分からない、収入が安定しない、そもそも粗暴な人が多い等々マイナスイメージがついてるためだ。

 そして実際のところそれは割と当たっている。例外はいるものの、大体そのイメージだろう。



 さて、そういった面々が集まりやすい環境が出来上がっているのが冒険者ギルドである。


「……何やってるんですか、アレ」

「まぁいつもの儀式だな。あいつに彼女が出来たんだとよ」


 朝いつもの時間にギルドに顔を出すとホールの一角に独り身集団の輪が出来上がっていた。

 ただしその中心には一人の男性冒険者が涙を流して……いや、周囲の全員も涙を流していた。正直不気味すぎて怖い。

 あまりの光景に男性職員に尋ねたところ、返ってきたのが彼に恋人が出来たとのことだった。


「おー、いいことじゃないですか。何か問題でも?」

「まぁあいつらはあいつらで事情があるんだよ」


 よく分からないので訝しげに聞き耳を立てていると彼らの会話が聞こえてくる。


『すまねぇ、俺は今日でここを脱退する……!』

『この野郎! 俺達はアンナちゃんを見守ることに全てを奉げると誓ったんじゃないのか?!』

『分かっている……だがそれでも俺は、俺は……!』

『一人だけ幸せになれると思って……』

『やめろ、こいつの決心は固いはずだ。我らアンナ親衛隊の掟、抜けるということがどういうことなのか知らないわけではないだろう?』

『あぁ、そうだ……。これは俺のケジメだ!』

『よし、分かった。歯ぁ食いしばれ。お前ぇらも思いの丈ぶつけてやれ!』

『『『おう!!!』』』


 そして次々と男達が彼女持ちの男性の顔を殴り始める。


『ちゃんと幸せにしてやりやがれ!』

『ごふっ!』

『てめぇの面なんざ二度と見たかねぇ! とっとと彼女んとこに行っちまえ!』

『がはっ!』

『うらやましいぞこんちくしょう! あ、彼女さんに誰か紹介するよう頼むわ』

『げふぉ!?』


 等々と激励なのか嫉妬なのかよく分からない言葉をかけられつつも耐えていた。

 ちなみにアンナと言うのはここのギルドの女性職員だ。

 歳は今年で二十一で赤みがかったロングヘアーがトレードマーク。

 いつも笑顔を振りまくその姿は冒険者ギルドのオアシスと言って差し支えないだろう。

 そんな彼女に心奪われた男性冒険者は数知れず、いつしか親衛隊とは名ばかりのストーカー集団が形成されていた。

 当人に実害が無いのが救いだが、彼女に近づこうとする男性は軒並み路地裏で男同士の熱い会話を強要されるらしい。

 ……ちなみに自分もその被害者の一人である。

 その時はたまたま男性職員が別件で他の冒険者と話してたので薬草の買取を彼女に頼んだのだ。

 とは言え特に何かしたわけでもない。事務的な内容に二、三言他愛ない会話をした程度。

 その程度ですら彼らにとってはダメだったのであろう。いきなり首根っこ掴まれてギルドの裏手に連れてかれたときはマジで泣きそうになった。

 そして強面冒険者集団に彼女の素晴らしさを懇々と説かれ、何かしようものなら明日は魔物の腹の中と釘を刺された。

 ちなみに彼女との会話は親衛隊によるローテーションが組まれているらしく、不可抗力以外で話そうものなら他のメンバーからきつい仕置きがあるらしい。


「バカなことやってるわねぇ……」


 たまたまいた女性冒険者パーティの一人が呆れた顔でそう漏らすが全くその通りだと思う。

 自分も彼女いない歴は割と長いので、あぁはなるまいと心に固く誓う。

 ともあれ今日はあの集団に絡まれることは避けるべきだろう。下手したら酒場に連れ込まれ愚痴を聞かされかねない。

 とっとと仕事を見つけこの場から離れるが吉だ。


「……とりあえず何か依頼無いか見てき」

「あ、いたいた!」


 そんな最中、聞き覚えのある声に振り向くと入り口にコロナが立っていた。

 桃色の髪から生えた犬耳がぴこぴこと自己主張するかのように小さく動いている。


「あれ、今日休みって伝えたよね?」

「うん、でもここに行ったって聞いたから慌てて用意してたの。どこか行くなら私が必要でしょ?」


 こちらまでやってきては見上げてくるように話しかけるコロナ。

 毎度のことだが身長差のせいで彼女が隣に来るとその犬耳が目の前に見えるため、どうしてもそちらに目が行ってしまう。


「あー、態々気を利かせてくれたんだ。ありがとね。まぁ簡単な依頼あったら程度だったんだけど……」

「それでもいいよ、一緒の方がすぐに済むし。ね、ポチちゃん?」

「わうっ!」


 頭上から元気の良いポチの声。

 相変わらず自分の頭の上がお気に入りの場所になっているためもはや定位置と化していた。


「んじゃとりあえず依頼板とこに――」

「ヤマルはっけーーーーん!!」


 バァン!と勢い良く扉が開き、ギルドに居た全員が一斉にそちらを向く。

 現れたのは踊り子風の女の子と修道女風の女の子の二人組。とても冒険者ギルドこんなとこで会うことは無さそうな凸凹コンビだった。

 そして彼女らには見覚えがある。と言うか片方は少し前に会ったばかりだ。


「セレスと……ルーシュ?」

「はーい、ルーシュさんですよー! 元気してた? お、冒険者の格好ってそんなんなんだねー、似合ってるじゃない!」


 室内の注目を一身に浴びてるにも関わらず特に気にした様子もないルーシュ。さすが元旅芸座の踊り子と言った所か、場慣れ感が物凄かった。

 反対にセレスは注目を浴びてかなり縮こまっている。ルーシュの後ろに回りこちらを窺っていた。

 この場にいる面々の大半の顔が強面なのも理由であろう。

 二人はこちらに近づくとギルドの職員に軽く挨拶を交わす。


「まぁこっちは程々に元気……ってか揃ってどうしたの? もしかして何かあった?」

「んにゃ、なんもないよー。たまたまセレスと休み一緒になってね。どうしよっかって話してたらこの間ヤマルと会ったって言うから、それなら私もーって流れで」

「あ、お仕事中でしたよね……? すいません急に……」

「あぁ、大丈夫大丈夫。今日は元々休みだったし、ここ来たのもやることなかったからだし。ね、コロ? ……コロ?」


 呼んでも反応が無かったのでコロナの方を向くと、彼女はどこかぼーっとした表情をしていた。その視線の先にはルーシュの姿……というより彼女の格好を見ているようである。

 とりあえず目の前で軽く手を振るとはっとしたようにこちらへ向き直る。


「あ、えぇ! 今日は休日ですはい!」

「何か口調変になってないか……? まぁそんなわけで特に用事があったわけでもないから気にしなくていいよ」


 その言葉にほっとしたようにセレスが胸を撫で下ろす。


「でさ、私らあんまし街まだ回れてないのよね。どうせならヤマルに案内してもらいたいなーって思ってるんだけど」

「それはいいけど俺もそこまで詳しい訳じゃないよ?」

「うん、それでも良いよ。色々話したいこともあるし。これでも心配してたんだぞー?」


 真正面からそんなこと言われて思わず目を背けてしまう。

 それでも何とかありがとうとだけ言うと、ルーシュは『照れちゃって可愛いー』と頬を突いてきた。

 嫌いではないがどうもこのように押しの強い女性には逆らえない傾向にあるような気がする。


「んー、とりあえずどこに行こ……」


 行こうか、と言おうとした矢先冷たいものが背中に刺さる。

 ゾクリと言うことすら生易しいぐらいの寒気。いや、これは……


(殺気?!)


 鈍感な自分ですらありありと感じ取れるほどの気配。

 あまり見たくないがそっとホールの一角、アンナ親衛隊の方を見ると血涙を流しかねない勢いで泣き、その身を怒りで震わせていた。

 誰も口を開いていないのに『嫉妬で人が殺せたらあぁぁあぁぁ……!!』なんて怨嗟の声が聞こえてくるのは多分気のせいではないだろう。

 迂闊だった。もちろん目の前の女の子三人が集まったのはたまたまだが、そんなことを言ったところで信じるような連中ではない。

 ここに留まっては間違いなく殺される。

 そんな確信めいた予感に動かされるように早々に三人を外に連れ出そうとしたときだった。


「さぁヤマル君! 仕事片したから私と語らってもらうわよ!!」


 スパーン!と小気味いい音と共に三度開け放たれる扉。

 そこには魔術師ギルドマスターことマルティナがとても良い笑顔で登場していた。

 言うまでもないことだが彼女も美人さんである。

 更に言うと彼女は立場なども相まってかなりの人が知ってるほどの有名人だ。


 さて、ここにそれぞれタイプの違う女性が四人も俺を訪ねて来たことになる。

 犬耳剣士コロナ、魅惑の踊り子ルーシュ、聖女セレス、美人魔術師マルティナ。

 そんな彼女らが一斉に自分を訪ねてやってくる。

 そこから導き出される答えはもはや一つしか無かった。


「ヤマルよぉ、ちょいと俺達と男の熱い語らいでもしないか……?」

「へっへっへ、なぁにすぐ済むさ……」

「お前にはまだそっちの道は早い、俺はそう思うね。と言うかこっちに来いよぉ……」


 ゆらりとまるでゾンビのようににじり寄ってくる男性独り身冒険者軍団。

 あまりの様子に頭上のポチは全身の毛を逆立てて威嚇しているが全く効果は無い。

 セレスに至ってはどうしてこうなってるのか分からないらしく、あわあわと戸惑っていた。


「アレ、マズいタイミングだった?」

「えぇ、もうこれ以上無いぐらいですよ……」


 ガックリと肩を落としそう答える。

 別にマルティナが悪いわけではないのだが、よりによってなぜこのタイミングに、と思ってしまうのは仕方ないことだろう。


「それは悪かったわねー。まぁここでヤマル君持ってかれると私も困るし……」


 何せやっと仕事終わったんだしね、と懐からマルティナがボールのような魔道具を取り出す。


「逃げるわよ!!」


 それをそのまま床にたたきつけると、魔道具が割れ中から灰色の煙が一気に広がり全員の視界を奪っていく。

 それを期に五人(+一匹)が冒険者ギルドから脱出すると、その後を追いかけるように男性冒険者達も表へと姿を現した。

 そのまま雪崩込んでくる姿はもはや魔物の氾濫スタンピードさながらである。


「ヤマルさん、なんですかこれーー?!」

「あっちに聞いてよ! バイ○ハザードみたいで洒落にならんってーー!!」

「あははー、ヤマル人気者だねー?」




 かくして王都を舞台とした(主に野丸の)命を懸けた鬼ごっこの幕が開かれることになる。

 最終的には駆けつけた衛兵隊とコロナの剣、そしてマルティナの魔法やセレスの加護や防壁によって男性冒険者全員が鎮圧されることになる。

 しかしその対応に午前中丸まる時間を費やすことになるのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます