第48話 チカクノ遺跡 その後


 チカクノ遺跡職員記録  著 ブロフェス



 遺跡下層への調査が始まってから三日が経った。

 現状の進捗と問題点を中間報告とし、ここに記しておく。


 まずなんと言っても第一陣が初日で安全面を確保することに成功したのが大きいだろう。おかげで現在遺跡の調査や補修、清掃が急ピッチで進められている。

 中でもゴーレム……いや、ロボットと呼ばれるゴーレムと似て非なる存在を確保できたのは大きい。

 現在我々の監視下にあるが、マスターと認定された冒険者の指示の下、彼らも色々と作業をしてくれている。


 さて、そのロボットだが大変興味深い。

 ゴーレムと構造自体は似通った見た目だが、なんと言っても会話をし意思疏通が取れるのは目を見張る物がある。

 先走った学者の一人が解体しようとし逆に解体されかけたのも戒めとしてここに記しておこう。私だって我慢していると言うのになんと情けないことか。

 ただしそのロボット、現状分かってる範囲内でメリットとデメリットが特に顕著だ。


 メリットはまず古代の情報をその身に宿し、当時を知る貴重な存在だと言う事。

 特にその中でも医療介護ロボットのメムは他のロボットのリーダー格として自ら考え発言をする。まるで人のように意志が宿っているかのようだ。

 また疲れしらずで力もあり土砂を次々と地下から運んでくる。それも文句一つ言わないで、だ。古代人はなんと優秀なものを作ったのだろうか。


 だがデメリットが現状多いのが目下の悩みの種でもある。

 まず数が少ない。そもそも動いているのがいるだけでもありがたいのだが、それでも分かってるだけで五体ほど倒してしまったのは悔やまれる。

 現場の話を聞くと仕方ないと言うのは分かっているのだが、それでも中々割り切れないものなのだ。

 現行動いているのはメムを含め五体。これでも動いてなかったのを何とか直してやっとである。

 直したのはもちろんメム。直し方が分からず、説明されても何を言っているのかさっぱり理解出来なかった。

 つまり現在の我々では再現はおろか、メムが動かなくなった時点で全てのロボットが全滅することを意味する。

 そのメムですらロボットだ。何らかの拍子で動かなくなる可能性もあるため早急な解析が求められる。

 よく分からないまでもこちらの技術で何か代用出来ないか、と申し出たが、外装はともかく中身に関しては無理らしい。

 見た目を似せるだけではダメだそうだ。メムにも『例エバ目ヤ腕ニ似セタ物ヲ作ッテ人ニ使エマスカ』と言われてしまった。


 動かなくなる可能性は他にもある。燃料切れと言うものだそうだ。

 人間で言うところの食料に相当するこれも現代では再現不可能な代物である。

 古代から生き続けたロボットが今更必要かと思ったが必要らしい。そもそも長い年代を超えれたのはその間動かなかった、いわば仮死みたいな状態で消耗がかなり抑えられてたからだそうだ。

 普通に動いていると消費し、そのまま動かなくなる。

 折角見つけた古代の遺産が動かなくなるなど許容出来るはずも無い。何とかならないかと懇願したところ、多少ならばなんとかなる方法があった。

 それは最下層の更に奥。メムに案内された先にはよく分からない物としか言いようの無い物が置いてあった。

 一見すると柱のようであるが、半透明だったり古代文字らしきものが書かれた板があったりと奇怪な形状をしていた。

 メムの説明によればこれは彼らの非常用の燃料を作るものらしい。大気中にある魔素を吸収して作っているらしいのだが、あくまで非常用のため大量には作れずロボットを長時間動かすには不向きなようだ。また一体分ずつしか出来ないのも欠点と言える。

 本来の燃料はこれまた説明がよく分からなかったが、結論だけ言えばどこかでまとめて作られて地面に流れてるとかなんとか……。その流れとやらが以前はここまで届いていたのだが現在はそれが無いとのこと。ロボットが動かなくなったのはそれが原因のようだ。

 今一つ理解に苦しんでいるとメムの主である冒険者が例えて説明してくれた。要は木の様なものだと。

 根の部分が燃料を作り、幹と枝経由で先端まで伝わっていたのだが、枝がどこかでぽっきり折れてしまい届かなくなった。

 しかしその流れ自体はどこか途中までは来ているはずだからそれを探せば良いらしい。そこまでいけば何もせずとも勝手に自分らで補給してくれるそうだ。やや自信無さげではあったがとりあえずは理解出来たと思う。

 問題はそれがどこなのか分からない上に肝心の燃料が見えない物だという点だ。現在『風の爪』に動いているロボットを一体貸与し街の外を歩いて確認してもらっている。


 他にもある。あのロボットの立ち位置だ。

 学術的に計り知れない程の価値を持つあのロボットらだが、現在一介の冒険者の下についている。

 ただその冒険者――ヤマル君は持て余し気味にしているのが実情だ。流石にロボット達を連れてはいけないのは自覚しているらしい。

 かといって放り出すわけにもいかずどうしたものかと結論を保留中である。こちらにも相談しに来たので今夜またそのことについて話し合う予定だ。


 さて、実はこのヤマル君には個人的に中々興味が沸く人物だ。

 書類上では王都所属のEランク冒険者。彼の知り合いや仲間にもどのような人物かと聞いてみたが、能力面では秀でた部分も無くむしろ下手な村民よりも劣っている。

 冒険者にしては真面目でマメな性格、総じて『良い人』と言ったところだ。

 仕事のスタイルとしては特に危険からは遠ざかり安全を求める傾向にある。

 集めた情報からすれば平々凡々の並どころか平均よりも劣ってると見做すべきだろう。


 だが現在彼は遺跡内部での清掃や調査に大活躍をしている。

 聞いた話では魔法を駆使し色々と重宝されているらしい。

 明かりを灯し視界を確保、硬くなった土を耕して運搬しやすくする、風を操り地下の空気と地上の空気を入れ替える、水を出す等々。

 当人は瓦礫の撤去や清掃などの直接的な仕事はしていないものの、現場環境の改善をほぼ一手に引き受けてくれている。学者達や兵士隊からは仕事がやりやすくなったと大変好評だ。

 だがそれより目を引くのは遺跡内部のことを知ってたかのように話したことだろう。

 古代の文字が読めたりエレベーターやシャッターなるものの存在を知っていたのが最たる例だ。そのお陰で下層への入り口を見つけることが出来たのだから。

 彼が実は古代の人間の生き残り、などと夢物語も考えたものだが、メムとの会話でも彼は内容を理解することに苦しんでいた。我々よりは分かっていたようだが、少なくともあの様子では生き残りなどと言う線は無さそうだろう。

 何故知っていたのか問いただしてもはぐらかされてしまったが、身元自体は兵士隊隊長のシーオが保障してくれた。怪しい人物ではないということは分かったが、さりとて謎は深まるばかりである。


 そういえば先日神殿側から司祭や修道女がやってきた。シーオが要請したとのこと。

 内部探索中に古代人の遺体を見つけたからだ。

 不謹慎と分かりつつも調査したいと願い出るものも居たが結局それは却下された。

 死者を辱める倫理観の点もあるが、何よりメムが古代人と現代人の骨格にさほど違いは無いと学術的な見解を示したからだ。

 遺体は町のはずれにある墓地の一角に丁寧に埋葬された。ヤマル君の指示で一日一回ロボットが墓を清掃しに行っているそうだ。

 

 古代人と現代人に違いは無い、と先程書いたがこれはあくまで骨格や体格部分のことである。

 実は先日面白い話をメムから聞くことが出来た。

 それは深層調査の初日。兵士隊や冒険者らがメムと対峙しているときのことだ。

 ヤマル君の仲間である獣人の少女に武器を向けた際、『風の爪』によって攻撃しようとしたロボットが捕縛されたときのこと。

 メムはそのとき『風の爪』の冒険者の一人が魔法を使ったことに対しとても驚いたそうだ。

 なんと古代人は魔法が使えなかったらしい。

 魔素の存在は知っていたしそれを応用した様々な技術、道具を生み出したが当人らは誰一人使うことが出来なかったそうだ。

 もちろんメムが全てを知っているわけではないが、少なくとも知る限りその様な情報は無かったとのこと。

 ただし魔法の存在自体はあったようで、魔石人間マジカロイドなる人間と異なる種族が使うということは知っていた。

 この魔石人間のことを聞いてみたところ、特徴からして現在の魔族のことと思われる。現にメムは獣人のことを動物人間アニマロイドと呼んでいた。

 昔と今で呼び方が違っているというのも新事実だ。今後の考古学会のことを思うと年甲斐も無くわくわくが止まらない。


 魔法関連と言えば魔法薬であるポーション類も無かったのも意外と言える。

 メムが重装歩兵の一人が何故かピンピンしているのが理解出来ないと言ったのだ。兵士隊に話を聞くと、メムとの戦闘中に怪我をしたがその後ポーションで治癒されている。

 そのことを教えるとどことなく落胆したような様子であった。当事この薬があればどれだけ良かったかと思い返していたそうだ。

 医療介護の名を冠するだけあり製作法を教えてもらおうとしていたが、残念ながらこの場に薬師はいないため聞けない――と返したところ意外なところから返答があった。

 なんとヤマル君はポーションが作れるらしい。薬師ではないので一番簡単な物だけだそうだが、それでも製作出来るのは驚きである。

 メムも彼に製法を聞いていたが、ロボットでは作れないことに再度落胆をしていたようだ。

 なおポーションではロボットの損傷などは直せないことをここに付随しておく。




(こんなところか……)


 執筆を終え一息つき本を閉じる。

 ここ数日は本当にめまぐるしく一日一日が過ぎていく。だが悪い気分ではない。

 そう、自分は……いや、自分以外の人間も今とても充実している。

 考古学など普段日の目を見ない分野だ。だが極稀に過去の遺物など世間を騒がせることがある。

 まさに今がそのときだ。それに携われることが出来たこの幸運に感謝するしかない。

 そんな多幸感に包まれていると不意に部屋のドアを誰かがノックしてきた。


「ブロフェス様、そろそろ本日の打ち合わせの時間です」

「そうか。すぐに向かおう」


 さぁ、今日はどのような発見があったか早く聞かせて欲しい。

 逸る気持ちをぐっと抑えつつも自然と足早になってしまうのは学者の性分だろう。なるべく感づかれないようにと思いながらいつもの会議室へと上機嫌で向かうことにした。



 ◇



「お世話になりました」


 馬車の中から見送りのブロフェスに頭を下げる。

 今自分は王都行きの馬車の中。調査が一段落したためようやく帰れる目処がついたのだ。


「なぁに、こちらこそ大いに楽しませてもらった。後のことは任せてそっちも頑張るようにな」

「はい。何かありましたら連絡しますので」


 それでは、と頭を下げると馬車がゆっくりと動き出す。

 下層の入り口を見つけて一週間。ようやく大掛かりな作業も大体終わり、遺跡内部の必要な物も大よそ運び出すことが出来た。

 今後はブロフェスの指揮の下で詳しく調査されるらしい。学者組もいくらかの人員はここに常駐させておくそうだ。


「マスター、二体置いてきて良かったのデスカ?」

「まぁ人が多くなると見回りも大変だしね。命令はしっかり変更したんでしょ?」

「それはモウ」


 馬車の中、目の前にいるメムがはっきりとそう答える。

 汎用ロボットは二体ほどこの地に置いておく事になった。細かい部分はブロフェスの指示になるが、遺跡見回りや片付けに従事させる予定だ。

 二体ほどなら地下の非常用の発電機っぽいので賄えるらしい。一応良からぬことを企む人間が居ないとも限らないため、危害を加えたら反撃するようには命令を付け加えておいた。


「メムさん、喋り方少し良くなった?」

「えぇ、医療用のメモリーを圧縮して会話の方へリソースを割きマシタ。マスターもこちらの方が良いと好評を頂いてイマス」


 そう、コロナが指摘したとおりメムの喋り方だが大幅に改善された。

 元々片言音声ボイスのようなものだったために聞き取りづらい部分もあった。なのでどうにかならないかと訊ねたところこのように変更してくれた。

 代わりに現代ではメムの医療技術をあまり生かせない為そちらを一時的に封印してるようだ。無くなったわけではないため、必要になったらまた復活させれるらしい。


「マスター、私がご一緒しなくても宜しいのでショウカ」

「うん。メムはメムの出来ることをやって欲しいかなって。自分達と歩くには色々制限あるしね」


 当初メムは他のロボットと一緒についていくみたいなことを言っていたがそこは丁重に断わった。

 確かにメムらがいれば自分の安全率はぐっと高まるだろう。だけど問題が多すぎる。


 まず何と言っても移動だろう。

 メムの足は二足歩行ではないため荒地に向いていない。多少の段差は越えれるがそれでも移動に制限が掛かってしまう。

 現にこの馬車へメムを運んだのは汎用ロボットだ。二体がかりで持ち上げて積み込まれていた。

 また燃料の問題もある。

 実は燃料に関してはラムダンたち『風の爪』が探索してくれたお陰で目処がついたのだ。話によると王都の方へ行くとロボットの燃料が補充されたとある。

 詳しい位置を地図に書き込むと王都からチカクノ遺跡に行く途中にある渓谷で途切れているそうだ。

 行くときは研修生らと半ば勝負してたため気づかなかったが、渓谷にかかる橋を境に同伴したロボットが燃料を補充しだしたらしい。

 ただ現状どこまでいけるのか不明なためメムたちロボットは遠出が出来ない。

 後は目立ちすぎる、修理をどうするか、学者らに連れて行くなとマジ泣きされた等様々な理由により、結局メムらは研修生らの場所で働かせることになったのだ。

 元々遺物類は彼らに預け調べてもらう予定だったのもあるし無難なところで落ち着いたと言えよう。


「まぁ危害加えられない限りは仲良くしてね?」

「分かりマシタ。ところでマスター、連絡はどうしまショウ」

「あー……そっか。どうしようかな」


 メムらは今後王城の敷地内の専用研究室行きになっている。

 研修生含めた学者らは元々街に研究室はあったのだが、物が物だけに今回専用の離れを与えられたそうだ。

 メムらの価値を考えると当然の処置とも取れるが、王城内となると今度は何かあったときにお互い連絡が取りづらくなってしまっている。

 メムらの行動の最終決定権は一応自分にあるため有事の際に素早い連絡が取れないのは問題なのだ。

 だけど自分やコロナも常に王都にいるわけでもない。下手したら今回みたく遠出することも……。


「マスター、私に一案がありマス。マスターのすまほを少し貸してもらえないでショウカ」

「スマホ? 良いけど壊さないでね」


 カバンからスマホを取り出しメムへと渡す。


「まだまだ原始的構造デスネ。改良点が少なくとも三十五箇所……いえ、これでしたら問題無さそうデス」


 割と最新機種のはずなんだが、メムにとってはそれでも構造が原始的らしい。

 もし日本に帰れる目処がついたらメムに改良点を挙げてもらうか。メーカーに提出したら金一封ぐらいはもらえるかもしれないし。

 ともあれ何をするんだろうと様子を見ていると不意にメムの目が光りだした。

 同時に自分のスマホが反応するかのようにバックライトが点灯。大丈夫か不安になり止めようかと思っていたらその光が収まっていく。


「終わりマシタ。お返しシマス」

「あ、うん。何したの?」

「常駐アプリケーションとして私の一部をコピーしまシタ。そのすまほには通信機能がありましたので、今後は私とのやり取りが可能デス」


 マジか、と思いスマホを見ると見慣れぬアイコンが一つあった。それはメムの顔をデフォルメしたような絵であり、試しに押してみると待つことなく通信経路が確立される。


「「動作テストデスカ。問題無く稼動してマス」」 


 目の前の本人とスマホから同時にメムの声。本当に通話が出来るようになったようだ。

 剣と魔法のファンタジー異世界に慣れてきたと思ったところだったのに、このような未来SFロボのやることに動揺を隠せない。


(いや、もう深く考えるのはよそう。異世界だの一言で済ませればいいじゃないか)


 普通ではないんだろうがメムはこの世界にあったものだ。

 自分達の世界だってあったじゃないか。マヤ文明しかり、ムー大陸しかり。それと同じものと思えばいいだけのことだ。

 ……ただあちらと違ってこっちは存在が確認されているのだが。


「ヤマル、どうしたの?」

「いや、世界は広いなぁって思ってさ……」


 こうして『風の軌跡』の初めての旅は当初数日だった予定を大幅に超過し約十日と言う期間を経て終了する。

 そして馬車の後ろから見えるチカクノ遺跡の町が徐々にその姿を小さくしていった。

 今回の旅で得た物、知識、発覚した問題点など色々浮き彫りになったが、それでも何とか無事に帰れたことに今は胸を撫で下ろすだけだった。


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