第44話 チカクノ遺跡9
「はふー……」
体内に溜まった緊張感や疲労を体外に出すように大きく息を吐く。
ずるずると視線が下がり椅子に座る格好がだらしなくなるが、まだ人前だと思いのそのそと座り直した。
(どーも人前で話したり意見するの慣れないなぁ。プレゼンと思えば何とかなる気がしたから前もって言う事考えてたけど、やっぱり年上とのやりとりなんて全然――げふっ!?」
「おいおいおい、お前なんでいんだよー?」
急に後ろから首に手を回されそのまま軽く絞められる。
なんだと思い声の方に視線を向けるとそこにいるのは笑顔のダンだった。
「あ、皆さん」
「コロナちゃん、やほー!」
真っ先にこちらに寄って来たのは『風の爪』の面々だ。
ラムダンが最後に片手を軽く挙げながら自分の隣までやってくる。
「よぉ。お前達が俺らを呼んだ……でいいんだよな?」
「えぇ、希望叶ったようで良かったですよ」
あれ、なんで盛大にため息吐かれてるのだろうか。
自分としては仕事を回したようなものなのだが、もしかして迷惑だった?
彼らからすればEランクの自分から仕事を貰うのはプライドに触ったとか……いや、それなら彼と会った最初の依頼は断わるはず。うーん……?
「ほんとお前は色々やってくれるよな」
「あ、えーと……褒められて、ないですよね?」
ともあれ大体のことは先の話で済んでいる。
後は彼らを呼んだ理由の詳細を彼らに話す。とは言え呼んだ理由など信用できる冒険者なんて『風の爪』ぐらいしかいなかっただけだ。
下手に色々呼んであれこれ引っ掻き回されるぐらいなら、最初から見知った人が良いに決まってる。
それにラムダン自身がパーティーの手綱をしっかり握ってるから、他のメンバーが変に暴走する心配もない。
「……それだけか?」
「まぁそれだけですね。探索出来て見知ってて信用出来るのなんてラムダンさんしかいなかったですし」
あれ、今度は黙ってしまった。
実際のところ自分の交友関連がそこまで広くないから呼べそうな人員が限られてただけなのに。
「ヤマルぅ、流石に不倫で男口説くのはどうかあ痛ったぁ?!」
スーリの脳天に見事な拳骨が炸裂した。彼女は『おぉぉ……』と声を上げながらその場に蹲り頭を抑えている。
もちろん彼女にこんなことが出来るのは姉のフーレだ。
「スーリもバカなこと言ってるんじゃないの。まぁ正直ヤマルが部屋に入ってきたのはびっくりしたわよ。私らが呼ばれた理由分かったけど、まさか新しい入り口見つけたのが貴方なんだし」
「でも未踏破区域の遺跡探索に同行できる機会なんて滅多にあるものではないですから、私含め皆さん感謝してるんですよ。ありがとうございます」
ぺこり、と丁寧にお辞儀するユミネ。
こうして全員揃ってわいわいやっているのを見ると『風の爪』のいつも通りの光景だなぁと思う。彼らと過ごしたのは数日ではあるが何故か妙な安心感があった。
そんなことを思っているとふいに目の前が暗く……いや、大きな影がすぐ横に現れた。
「ヤマル、久しいな」
うぉ?!っと驚き手を離しては飛びのくダン。
現れたのは天井に頭がつきそうな……は言いすぎだが、それほど大きく見えるサイファスだ。
「ほんとお久しぶりですね、ここにいるのびっくりしましたよ」
「む、それはこちらもだ」
立ち上がり手を差し出し握手を交わす。
しかし本当にこの人は大きいな。握手されてる手すらまるで大人と子どものようなサイズ差である。握られるだけで手が潰れるんじゃないかこれ。
……うん、絶対潰れるな。この人はそんなことしないだろうけど。
「サイファス殿、お知り合いですか?」
「あぁ、
その後ろから現れたのは先ほど兵士隊の前で椅子に座ってた隊長格と思しき人だ。
サイファスの説明を受けた彼は即座に背筋を伸ばし左手を握り締めそのまま肘を曲げる。まるで盾を持ってるような格好だった。彼ら風の敬礼だろうか。
「……なるほど、分かりました。ヤマル殿、此度の隊長を任されてますシーオです」
「ちょ、待ってください! 自分そこまで敬礼されるような人間じゃないですよ!」
「そうなのですか?」
サイファスならいざ知らず自分は無条件で敬われるような人間では決してない。
慌てて彼の敬礼を止めさせるとシーオは不思議そうな顔をしていたが、それ以上は特に追求することも無く左手を降ろす。
「そうなのですよ。えーと、『風の軌跡』の古門 野丸です。こちらは仲間のコロナ。それと自分の要請で来て頂きました『風の爪』の方達です」
とりあえず隊長のシーオに挨拶しコロナと『風の爪』の面々を紹介する。
紹介されたラムダンらが個別に挨拶をしてる中、コロナがこちらの服の袖口を引っ張ってきた。
「ヤマル、この人って……」
「あぁ、知り合いのサイファスさん。ものすごく強い戦士だよ」
「やっぱり」
やっぱりと言うことはコロナ自身何か強さを感じるものでもあるのだろう。部屋に入ったときも自分の前に出ようとしてたし。
そんなコロナがサイファスを見つめていると、その視線に気づいたように彼女の方へと彼が向き直る。
「君がヤマルの仲間、だったか」
「はい。コロナ=マードッグです」
「サイファス=ロウだ。キミは強いな、これならヤマルを任せれそうだ」
二人の身長差がありすぎる為ややサイファスが腰を屈める様な体勢で二人は握手を交わす。
その様子を見ているとサイファスの後ろにいた兵士隊の人らがざわめき始めた。
「
「と言うことはあの獣人の少女は相当の手練れ?」
「先の古代のゴーレム退治の話も合わせればそれも納得か」
うんうん、うちのコロナは強いんだぞーすごいんだぞー。とドヤ顔したくなるのをぐっと抑えその話に耳を傾ける。
しかしサイファスは一体どのようなことをしてたんだろうか。一目置かれてるのは確かみたいだけど……。
「つまりあの少女と肩を並べるあの少年も相当の腕前と見て間違いないな」
「確かに。だが装備から見ると少年は後衛寄りだろう。純粋な力よりは多様な絡め手を使う線もある」
「いやそれは早計だ。先ほどサイファス殿が仰ってただろう、我々の知り合いだ、と。つまり……」
「なるほど! では彼の者も……」
んんん? 何か話がおかしな方向に進んでないか?
兵士隊の人らの自分を見る目が何か明らかに憧れの人を見るような視線へと変わってるような気がする。
流石にそこは是正しようと彼らの方に歩いていこうとすると、不意にラムダンに首根っこを捕まれる。
「ヤマル、今から戦闘班で打ち合わせだ。どこへ行くつもりだ?」
「いやあの兵士隊の人に少しお話を……」
「後にしろ後に。実際戦闘をしたのはお前らなんだから説明してもらわないと困る」
流石に逃げられそうに無かったので大人しく従うことにした。
ロボットの調査をもう始めていた学者の人らから一旦それを貸してもらう。
やや恨めしそうにされたがこっちは命に関わること。それはあちらも分かってるようで後で返してくれと念押しされつつ何とか場所を譲ってもらった。
と言うか確かこれ、一応現状は自分の所有物なんだけど……。
「ヤマル、こいつについての説明を頼む」
「あ、はい。わかりました。では皆さん、なるべく見える位置にお願いします」
学者組に兵士隊のメンバーの場所を譲ってもらい、戦闘班全員が何とか見えるようテーブルを囲む。
「このロボ……ゴーレムは見ての通り金属で作られてます。ただ材質は何かは現時点では分からないので、そこは学者の皆さんにお任せするつもりです」
場所を譲った学者組も話は聞きたいらしく後ろの方でこちらの話を聞いていた。
こちらの言葉が届いたらしく、任せろ!と力強い言葉が返ってくる。
「硬さとしてはうちのコロナの剣を受け止めれるレベルですね。あの剣をこの細い腕のこの部分で受け止めてるのは見ました」
「少し付け足しますけど私の剣は見ての通り斬るより叩き割る方になります。鋭い剣なら行けるかもしれないけど……」
「コロナさん、その剣を見せてもらっても?」
どうぞ、とコロナは鞘から剣を抜きロボットの隣に並べる。
剣を見て難しい顔をするのは兵士の面々にラムダンとフーレ。やはりあの
「あ、手荒に扱わなければゴーレムには触れても構いません。実際こちらでもぶっ飛ばしちゃいましたし。胸の陥没と頭が外れかかってるのはそのせいです」
「ヤマル殿、この左手部分ですが傷が真新しいような……」
「あー、そうですね。最初出てきたときに片目と片足の先は元々壊れてたんですが、左手は途中で吹き飛びまして……ちょっと待ってくださいね」
彼らに少しだけ待ってもらいカバンからペンを取り出すと、先ほどブロフェスから配られた資料の裏にロボットの左手の絵を書く。
「下手ですいませんが、当初左手はこの様な形状してました」
「右手とは同じ形状ではないのですね。これは一体……?」
「えーと、武器としては恐らく『銃』ってやつに分類されますね。簡単に言えば金属の礫を目に見えない程の速度で飛ばす武装です」
本日何度目かのざわめき。
それもそうだろう。目に見えない程の速度で放たれる武器を持つ相手だ。前線に立つ兵士隊には死活問題である。
「ではこの左手は君たちが……?!」
「いえ、多分暴発でしょうね。この武器は精密機械……まぁとても複雑な造りになってるんですよ。それが長年放置されてたことによる劣化で一発撃ったら壊れました。ただもし壊れてないゴーレムがいたら複数発飛ばせると思います、それも射出間隔はかなり短いですね」
あまりよろしくない情報に皆一様に黙りこくってしまう。
頭の中ではどのようにして対処すべきなのか各々思案を巡らせているのだろう。
そんな中、隊長格の一人が挙手をする。
「すまない、率直に聞こう。対処法はあるのかね?」
「実際撃たれてからの回避は困難と思います。また貫通力があるため生半可な防具では抜かれる可能性もありますね。ですので一番早いのは武器そのものを破壊することになるかと」
「言ってくれる……この様な飛び道具を持つ相手に飛び込めと言うことか?」
「こちらも遠距離で倒せるならそれに越したことはないんですけどね。ただここまで完全破壊しなくてもいいんですよ。例えばこの絵の先端の筒みたいな部分ありますよね? ここを歪めるだけでも中から礫を出すことができなくなります。他にも人間と同じように関節部がありますから、ここを重点的に叩くのもありですね」
「なるほど……ちなみに防御に回った場合はどのように?」
「正直なところ盾に身を隠すのが一番かと。ただし盾の正面から受けてはダメです。受け止めるではなく、盾の曲面で受け流すように斜めに構える方がよろしいかと」
だが所詮は現代知識を少し齧った程度の素人意見に過ぎない。
現状推測に推測を重ねてるようなものなので、こちらの意見も過信しないよう全員に釘は刺しておく。
すると兵士の中で鎧の上からローブを羽織ってる一人が徐に挙手をした。
「こちらの魔法兵に障壁を張ってもらうのは駄目なのですか?」
「うーん、申し訳ないですがわかりません。実際使ってみないとなんとも……。効果はあるとは思うんですが、現状過度な期待は禁物と思います」
魔法兵と思しき人がなるほど、と言い手を下ろすと、代わりに挙手をしたのは『風の爪』のダンだ。
「なぁヤマルー。俺やユミネでこの目の部分潰すのはどうだ?」
「ありだと思う。ただこのゴーレムは元々片方壊れてたから壊すまでにどれぐらいかかるか分からないのが……」
「とりあえず目を潰せばそのじゅうって武器で狙われることは無くなるってわけか」
「ただ耳があるからね、このゴーレム。音から判別する可能性もあるし、下手に銃撃たれたら跳弾……壁や床に跳ね返った礫が変な方向から飛んでくることがあるかもしれない」
「うへ、全く人騒がせなゴーレムだなぁ」
その後も戦闘班の会議は続く。特に話し合われたのは次のことだ。
まずロボットのプログラム上会話が可能であり、それをすれば時間制限付きだが最初は攻撃されないかもしれないと言う事。
コロナのような獣人だといきなり襲ってくるため、彼女には今回フード付きマントをつけてもらう事。また獣人のようなシルエットになる髪形や武装は控える事。
他にもロボット自体が複数出たときの対処法。またそのロボットの武装が目の前のようなタイプだけではないと言う可能性。
こちらとして出来ること、ありそうな可能性は全て提示し、基本的に戦術部分は兵士隊の人らに任せることにした。餅は餅屋、こと戦闘のプロの兵士隊の人に作戦は任せた方がいいだろう。
そんな彼らも自分らでは思いつかないような冒険者チームの意見を取り入れては柔軟に作戦を調整していく。
そして初日の行動方針、打ち合わせなどが大よそ決まったころにはすでに夜中になっていた。
◇
「疲れた……」
防具を適当に外し布団へと頭から突っ伏するように倒れこむ。初日は我慢出来たこの行為も今日は無理であった。
遺跡での数日間における暇との戦い。
その後の目上の人らに囲まれてのプレゼン、及び戦闘班との作戦会議。
実際遺跡発見者とロボットと戦ったのが自分らだけと言うこともありこちらの情報は重宝された。
もちろんこれらは大事なことだから手は抜かないし抜けない。実際命に関わる話だからだ。
その後戦闘班との会議が終わり、ようやく開放されたと思ったら今度は調査班に捕まった。
ロボットの話は戦闘班との会議で聞いてたが、それ以外のエレベーターやシャッター、古代文字について質問責めの嵐だった。
……なお非情なことに味方はいなかった。『風の爪』の面々はコロナとポチを連れて宿に戻ってしまったのだ。
自分以外やれることはもうないのと、護衛自体は兵士隊がローテーションで町を見回るためにそこまで必要が無くなったからとはスーリの弁。
そしてようやく開放されたのは深夜と言って差し支えないほどの時間だ。
スマホの時計を見ればあと一時間で一日が終わる。
ちなみにこの世界も二十四時間周期だった。単に同じなのか、もしかしたらスマホの方が不思議パワーで弄られてるのかもしれないが、ともかく普通に使えるのでそこはありがたく受け入れている。
なお悲しいことにお腹も空いたがもはや各種店舗はもちろん宿の食堂ですらやっていなかった。
学者との会話中に《生活の氷》で作った氷をかじってたが、あまり腹の足しになるものでもない。
なので今日はもう寝ることにした。
部屋にコロナやポチはいなかったが、まぁきっとスーリ達の部屋で女子トークに花を咲かせてるのだろう。
同業者に同性はあまりいないし、今のうちに伸ばせる羽は伸ばすべきだ。明日からはやることが更に多くなるし。
(そう言えば一人で寝るの久しぶりだな……)
そのうちコロナらも戻ってくるだろうけど、一人はポチと一緒になって以来か。
あの頃は色々といっぱいいっぱいで寂しいとか感じることも無かったのに、今はいないと物足りなく感じてしまう。
それだけ誰かと一緒にいることが当たり前になったと言うことなのかもしれない。
「ダメだ、寝よ……」
空腹と疲れにもはや抗うことも出来ず、もぞもぞと布団に潜り込んではそのまま意識を手放した。
◇
……ぐぅ。
(……お腹空いた)
空腹で目が覚めるとは思わなかった。何時間寝れたのだろうか。
目を開けると知らぬ間にポチが横で寝息を立てている。首を動かすと暗闇の中ベッドの上が膨らんでるのが見えた。コロナも帰ってきているようだ。
手を伸ばしスマホを手に取り時間を確認すると朝の五時前。まだ早い、もう一眠り……と目を瞑り再び寝ようとするが、昨夜と違い食欲が睡眠欲を上回ってしまい寝れそうに無かった。
仕方ないので《
魔法のお陰で自分が発する音が無くなってることに安心しつつバッグからタオルを一枚取り出すとそっと部屋を後にした。
(《
数日前ポチに使ったように発生音を大きくすることも、今みたいに消音にすることも出来る。
現状対象が物や人、それも一つしか出来ないのだが、それでも今のようにドアの開け閉め、廊下を歩く音や自分が踏んだことによる床の軋み音、衣擦れすら対象者が関わる音全て無音にしてしまう。
(……まぁ声すら消えるからこれを自分に使ってると会話が成り立たないんだけどね)
普通ならこの時間に階段を下りるのも迷惑になりそうなものだが、それを気にすることなく一階に降り外へ出る。
まだまだ早朝、太陽が昇りかけのためか辺りは薄暗い。そんな中日課のランニングを始める。
ラムダンに言われ始めた体力づくり。と言っても毎日出来るものではないので、街中でやれるときだけになってはいる。だがやらないよりは良いだろうと可能な範囲ではするようにしていた。
町の構造がまだよく分かってないため、大通りの街門と中心部の遺跡入り口付近を往復するコース。途中会った見回りの兵士に頭を下げて挨拶をしつつ、三十分ほどで宿へと戻った。
普段より起きるのが早くもう少ししても良かったが、流石に胃が空っぽではこれ以上はもちそうになかった。
宿に入り浴室と書かれてる一室へと入り使用中の札をかける。
(流石に暗いなぁ)
浴場とはあるが正確には使用者が自分でお湯を沸かせるタイプ……所謂五右衛門風呂に似たシステムだ。
王都の公衆浴場なら魔道具でお湯が出るのだが流石にここは水だけで手一杯らしい。
その為最初に誰が我慢出来ずに沸かし始めるかがこの宿の風物詩になっている。
(まぁこういうときの為の生活魔法ですよーっと)
だがそんな手間など自分にとっては関係無い。
《
もちろん《生活の音》は引き続き継続中につき水音は外には漏れ無い防音仕様だ。
我ながら完璧な風呂の溜め方だと思う。自分の仕事に満足しつつ浴室のドアを施錠……もといつっかえ棒を設置し服を脱ぐ。
朝のランニングもだが昨日は風呂も入らずに潰れてしまったのでどうしても体は洗いたかった。
起きた理由は空腹からだが、早起き出来たのは良かったと思う。
(ついでに服も洗うか)
どうせ時間はまだある。空腹を少しでもまぎらわせる為に洗濯も敢行。
こうしてたっぷりと三十分以上時間をかけゆっくりと入浴を済ませ外に出ると、宿の部屋の中から生活音が聞こえ始めた。
きっと皆起き始めたんだろう。もう必要ないと思い《生活の音》を解除して自室の前に戻りドアを開けようとしてふと、一瞬嫌な予感が頭をよぎる。
このまま開けたらとてもマズいことが起こる、そんな予感。
念のために部屋のドアを軽くノック。コロナが起きてるなら何かしら反応があるはずだ。
「コロ、起きてる?」
『あ、ヤマル?! ちょ、ちょっとだけ待ってて!』
中からドタバタと中々に騒がしい音が聞こえる。きっと着替え中だったんだろう。あのまま開けてたらどうなっていたことやら……と自分の予感に感謝する。
そして待つことしばし。
ドアが内側から開かれると中から息を切らしたコロナが現れた。
「お、お待たせ……」
「おはよ、着替え中だった? も少し待ってても良かったんだよ?」
よっぽど慌てて着替えたのか息を切らし微妙に着衣に乱れがある。
自分のために全力で準備してくれるのは嬉しいんだが、そこまで急ぐこともないだろうに。なんか髪の毛も跳ねてるし……。
「ううん、大丈夫大丈夫! あまり待たせちゃ悪いし……」
「ならいいけど……。あ、布団畳んでくれたんだ、ありがとね」
ポチが寝てたため出ていくときはそのままにしていたのだが、コロナが畳んでくれたのか部屋の隅っこで三つ折りになっていた。
ちなみにそのポチはと言うとコロナのベッドの上で二度寝中である。
「あ、うん。どういたしまして。それよりヤマルどこ行ってたの? 起きたらいないし……」
「ちょっとその辺軽く走ってお風呂にね」
そう説明しているとこちらのお腹がぐぅ、と本日何度目かの音を鳴らす。
「ヤマル、もしかして……」
「うん、昨日の夜から何も食べてないからお腹空きっぱなしでさ。もう朝ごはんやってるといいんだけど……」
空腹のせいか普段よりも鋭敏になってる嗅覚が朝食の匂いを嗅ぎとる。
だがまだ時間は早い。今行っても多分準備中だろう。
「その、ごめんなさい……。昨日置いてっちゃって」
「ん、いいよ。俺もそっちの立場ならそうしたかもだし。それよりご飯……よりも先に身支度か。コロの髪、寝癖で跳ねてるし直してあげるよ」
あそこまで見事に跳ねてると最早普通に梳くだけでは直しづらいだろう。
苦笑しつつ彼女を椅子に座らせると生活魔法を使い寝癖を直す。それからしっかりと身支度を調えさせてからポチを起こし食堂へと向かった。
ちなみに昨日の件で悪いと思ってたのか、同じ宿に泊まってた『風の爪』の面々とコロナから朝食のおかずが一品ずつ進呈されたので、それはありがたく自分の胃に納めることとなった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます