第43話 チカクノ遺跡8


 呼ばれた場所は町の役場の一室だった。チカクノ遺跡の町で一番人が入る場所がここだったらしい。

 室内に入ると中には大きな会議用の長方形のテーブルが一つ。ただ全員座るほどの椅子もスペースも無いようで、半数以上の人間が部屋の端の方で立っている。

 座っているのは各方面の上に立つ面々だろう。

 まず向かって左手側。

 手前に座っているのは『風の爪』のラムダンとフーレ。後ろにダン、ユミネ、スーリが立っていた。

 彼らは自分らが現れたのに心底驚いた様子で、『何でここにいるの』と言わんばかりの顔をしている。

 そんな彼らを呼んだのは自分である。冒険者として信用出来るのが彼らだったため、職員の人にお願いして人選にねじ込んでもらった。

 もちろん無理じゃなければと念押しはしていたが、ここにいると言うことはどうやら希望が叶ったようだ。


 そしてその奥にいるのが王国の兵士隊だろう。

 ここの見張りの兵士よりも屈強で精悍な兵士が直立不動で整列している。

 そして彼らの前で座っているのは他の兵士よりも年齢を重ねた体長格と思しき人が数名。着ている鎧の装飾が良いのが身分を証明しているようだ。

 そして一番奥に座るのはこの場で一番存在感のある大男。

 兵士隊と一線を画する漆黒の鎧。素人目でも一級品と分かるその鎧ですら、着ている男の前では彼を飾る装飾の一つでしかないようだ。


「ヤマル」


 彼の強さを読み取ったのか、コロナが前に出ようとするのを手で制す。

 その男はこちらを見ると小さく眉を動かしたような気がしたがそれだけだった。

 彼の名前はサイファス=ロウ。自分と同じ召喚者の一人である。

 正直彼がいるのは驚きだった。兵士隊と一緒にいると言うことは、今はそちらの方で色々やっているんだろう。


 そして逆の向かって右手側。

 こちらに座っているのは白衣を着た学者風の集団だ。

 研修生組も全員揃っており、彼らの上司と思しき老人を筆頭に十名以上の大人が加わっている。

 そんな学者組の奥に椅子が二脚空いていた。おそらく自分達の席と言うことだろう。


「すいません、お待たせしました」

「全くだ。一刻も早く調査をしたいのだから油を売っててもらっては困るな」


 謝罪に対して初手から辛辣な言葉が飛んでくる。

 言ったのは椅子に座った学者の一人。今にも遺跡へと飛び出したいと言わんばかりに組んだ腕を小刻みに動かしている。

 端的に言えば落ち着きが無い。悪い言い方ではあるがまるで餌を目の前におあずけをしてる犬のようだった。


「彼らは私の命で遺跡の見張りをしてもらって貰っていたのだ。彼らを責めるのであればその責は私にあると言うことになるが……?」

「む、失礼した」


 こちらを擁護してくれたのは丸太小屋にいた初老の職員。彼は議長とばかりにテーブルの一番奥の中央部分に一人腰掛けている。

 しかし一声で黙らせるとか本当に権力持ちだったのか……。何者なんだろう、あの人。

 ともあれいつまでもここに立っていては話が出来ないので、コロナと並ぶように用意された席に向かい椅子に座る。


「さて、それでは始めるとしよう。此度は召集に応じて頂き誠に感謝する。私が今回全体の指揮を取るブロフェスだ。皆も聞き及んでいるかもしれぬが先日このチカクノ遺跡にて新たなルートが発見された。発見者はそこの冒険者パーティー『風の軌跡』と王都の研修生らだ。ただ見ての通りまだまだ若人達である。そこで遺跡の安全確保及び調査として応援を呼んだ次第だ」


 ……なんか職員の人――ブロフェスの口調が昨日のテンション上がってたときと全然違う。

 それに顔つきもなんかこうキリッとしていると言うか凛々しくマジメなナイスミドル風になっている。外用の顔みたいなものなのかもしれない。


「今現在ここにいるメンバーが今回の調査に関わる全メンバーとなる。顔合わせも兼ねて全員詰めたため些か狭いがそこは我慢してもらいたい」


 立ってる人員も含めれば優に五十以上はいる。

 流石に一人一人と関わることはないだろうが、少なくともリーダー格の数名は覚えておかなくてはならないだろう。


「さて、各々の挨拶はまた後で行ってもらうことにしてまずは全員の情報共有といこう」


 ブロフェスがそう言うと彼の部下と思しき若い職員が資料を持ってくる。

 流石に人数分は用意出来なかったのだろう。A4サイズぐらいの紙面が椅子に座ったメンバーに配られる。

 更に残りの立っているメンバーの為に大型の木板に描かれた資料がブロフェスの背後の壁に飾られた。

 内容は同じではあるが紙面の方がやはり綺麗に仕上がっている。


「ではこちらに注目していただきたい。これはチカクノ遺跡の上面図だ。遺跡内部はこのような形になっており、大小様々な部屋が連なっておる」


 ブロフェスが立ち上がり全員に見えるよう木板を使って説明を開始する。

 その姿はまるで大学教授さながらといった感じだ。


「今回見つかった入り口はここだ。地下へ降りてすぐ折り返すような位置にあった。ここから小型のゴーレム……恐らくこの遺跡が見つかってすぐのときに出たと言われるものと同じものが現れた。おい、持ってきてくれ」


 再び若い職員が数名掛りで台に乗ったロボットを部屋に運び入れる。そのまま全員に見せるように乗せてた台ごとテーブルの上へと置いた。

 この遺跡発見時のロボットは遺物として厳重に保管されているため、この様に目にすることは滅多に無いのだろう。全員から感嘆の声が上がる。


「こいつに関してはその時その場に居合わせた『風の軌跡』によって討伐された」

「なっ!? 貴重な古代の遺物ですよ! なんてことを……!」

「あ? そういうのは自分でこいつを捕獲できるやつが言うべきものだ。少なくともほっといたら怪我人多数、場合によっちゃ死人が出ていた。……それでも傷つけずに捕獲するべきだ、と主張したいならそうしろ」

「ぐ……」


 流石にそれを言うことは明日以降目の前にいる兵士ら前線に出る人間全員に不利を強いることになる。

 しかし学者側からすれば古代の遺物が現存しなおかつ動いてるとなるとその価値は計り知れないのだろう。


「確かに今のは失言でした。しかし貴重な物に変わりはありません。無理強いは出来ませんが可能であれば捕獲を試みて頂けませんか」


 引き下がることは出来ないが自らの言葉に対して素直に謝罪を述べ、その上で改めてお願いを口にした。

 それを聞いたブロフェスが首を一度縦に振り、兵士隊の方へと視線を向ける。


「まぁそういうわけだ。自分も畑は一応学者こっちだから心情は分かってるつもりだ。下層に動いているやつがいて可能であればそのまま確保してきてもらいたい」

「……分かりました。善処はしますが過度な期待は……」

「あぁ、お互い部下を持つ身だからな。それで構わないさ。命張って前に出てくれるんだからそれを一番に考えてくれ。さて、話が少し逸れたが続けるぞ」


 そして次の資料、地下一階の上面図の隣に同じような上面図が描かれていた。

 下層の資料?と思ったがあまりにも地下一階と酷似している。


「昔の資料だがこれが発見当事のチカクノ遺跡の地図の覚書になる。仮にここから下がほぼ同じ構造の場合このようなことになっている可能性が高い。特に兵士隊と冒険者らは念入りに読んでおいてくれ」


 読むと土に足が取られる、ゴーレムがいきなり出てきた、倒れたら金属片やガラス片が床にあったため怪我をした等々……。

 つまるところ現状の地下一階のように綺麗に整っておらず、手付かずで何があるか分かったものではないと言う事だ。


「『風の軌跡』と『風の爪』の冒険者チームは特に地図作製を重点的に行ってもらいたい。危険箇所、注意事項や兵士隊からの報告。どんな瑣末なことでも構わない、気になった点は挙げていってほしい」

「了解した」

「わかりました」

「兵士隊の面々は安全を確保しながら何かあればすぐに冒険者チームと情報を共有してくれ。異なる視点から見れば安全なのか危険なのかも判断がつくかもしれない」

「はっ、了解しました」


 第一陣の実動隊の面々がそれぞれ了解を示す。

 次に、とブロフェスが顔を向けたのが学者勢の方だ。


「調査をするにしても安全確保してからになる。二日か三日か、場合によってはそれ以上になるやもしれん。そこで調査班はすぐに動けるように準備するのと並行して、そいつの調査を頼みたい」


 その言葉に一気にざわつく学者たち。

 目の前のロボットは彼らにとっては宝そのもの、それを調べられると言うのだから。

 ただし一点、気になる部分があったのか椅子に座ってた一人が手を挙げる。


「すいません、一つ。確か国の規定でこのような遺跡の発掘物の所有権は冒険者にあります。『風の軌跡』のお二人はどのようにお考えで?」


 一応現状ではこの辺りの手柄は全て『風の軌跡』のものとごり押せば通らなくも無い段階である。

 もちろん研修生らが手伝ってくれたため半分は彼らのものと自分は考えているが、彼らはあくまでここには研修目的でやってきて自分達の手伝いをした。

 言い方を変えれば彼らが欲しがる『成果』の為にこちらの補佐をしただけであり、主の部分は自分達にあると言えなくも無い。


「そうですね、その辺りの話しはこの後しようかと思ってましたがこの場でしても?」

「構わない。私らが証人になろう」

「では少しお時間頂きますね。まずこちらの希望としては何点かあります。今回の調査で出た発掘物の所有権は全て『風の軌跡』に頂きたいと思っています」

「な……!」


 思わず立ち上がりそうになった学者の一人を、今まで黙って聞いていた老人が手で制す。


「先生!?」

「続けなさい。まだ彼らが希望を述べてる段階だ。受け入れるにしても拒絶するにしても全て聞いてからにしよう」


 ありがとうございます、と老人に礼をいい言葉を続けさせてもらう。


「ですが自分らは見ての通り冒険者です。そこのロボ――ゴーレムですらおいそれと持ち運ぶことはままなりません。そこで皆さん……特に今回色々お世話になった研修生の方の為に調査権限全般を皆さんにお譲りしたいと思います」

「調査権全般、とは一体どういうことかね?」

「そのままですよ。あくまで発見された物の所有権は自分らですが、発掘品や遺跡調査権を全てあなた達にお渡ししますので好きに調べてください。もちろんその結果分かったことは皆さんの成果として発表してもらって構いません。あぁ、その際は一応自分らの名前だけでもどこかに入れてくれればありがたいですね」

「……君達はそれでいいのかね? 歴史の遺物なんて欲しがる好事家はたくさんいるぞ?」

「まぁ所有権ごと買い取って貰えるならそれでもいいんですが、これからどれだけ出るのか見当もつきませんし。それに発見出来たのは協力してくれた研修生の皆さんのお陰ですよ。調査権ぐらい渡さないなんてバチが当たっちゃいますよ」


 これから年単位の時間をかけてこの遺跡は調査されるだろう。発掘された遺物もだ。

 それを元に生活基盤を組み上げるならここで調査の仕事をしても良いが、自分には探さないといけないものがある。

 なので持っていけないものは全て預けてしまおうと言う考えだ。あのロボット一つにしても保管場所にすら困るし……。

 それに所有権ごと買い取ってもらえればお金にはなるが、出てきたもの全部買い取れとは現状は言えない。

 彼らにも予算はあるだろう。下手にザクザク発掘した暁にはそんなものは吹き飛んでしまう。

 それなら金銭が発生しないまま手元に置いて調べられるのであれば悪い話ではないはずだ。下手に好事家などに渡したらそれこそ調査どころではない。


「先生、どうしましょう?」

「まぁ君達の希望は分かった。概ねはそれでいいが後で詳細を詰めよう。ブロフェス殿もその際は同席してもらっても?」

「あぁ、了解だ。ヤマルくん、他にあれば今のうちにいいぞ」

「そうですね……あ、調査や発表にあたり研修生の皆さんもちゃんと入れてあげてください。これだけは譲れませんよ?」


 あれ、なんか皆にキョトンとされてしまった。そこまで変なことを言っただろうか。

 でも皆の前で念押ししておかないと手柄だけ横取りされては手伝ってくれた彼らもたまったものではないだろう。横取りするような人間かどうかは知らないが保険は打っておくべきだ。


「君は面白い冒険者だな」

「そうですか? まぁ……普通では無いんでしょうね、悪い意味でですが」


 老人の言葉に苦笑で返す。

 そもそも自分は基本貧弱だし冒険者の技能も心構えも無い。

 基本誰かに助けられてばかりだし。……あれ、俺もしかしなくても要介護者認定されそうだったりしないだろうか。


「ともかく自分の要望はこんなところですかね」

「ふむ、了解した。では全体的な顔合わせと情報共有はこんなところか。後は戦闘班と調査班に分かれて詳細を詰めてもらう事にしよう」


 では解散、とブロフェスが告げると静かだった室内に喧騒が訪れる。

 なんとかこの場を乗り切ったか、と大きく息を吐き全身から力が自然と抜けていくのを感じたのだった。

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