第26話 《薬草殺し》の実力1

「さて、今回の収支報告はこんなところだな」


 自宅のリビングでパーティーメンバーに今回の仕事の成果報告を行う。

 『風の爪』は大きな仕事を行った後はリーダーである自分の家で細かく報告しあうことになっていた。


義兄貴アニキ、お疲れさん。んで次はどーするんだ?」


 テーブルを囲み椅子に座るのは『風の爪』のメンバーだ。

 自分のことを義兄貴と呼ぶのはパーティの遊撃役のダン。そして自分の妻の弟でもある。


「そうだな、大きいのは少し間を空けて何か近隣の依頼でも……」

「あ、ラムダンさん。そろそろギルドからいつもの依頼来る頃ですけど」


 ダンの隣。彼の彼女であるユミネに言われ、もうそんな時期なんだと思い出す。

 彼女はダンとペアを組みよく偵察を行ってもらっている。弓を使ったサポートも得意であり、このパーティになくてはならない存在だ。


「もうそんな時期だったか。今回はどうする? 俺としては参加で良いと思うんだが」

「賛成ー! ギルドへの貢献度は上げれるときに上げておいた方がいいもんね」


 もろ手挙げて賛成しているのはこのパーティで唯一魔法が使えるスーリ。ダンの妹である彼女はつまり俺の義妹でもある。

 他のメンバーの顔も見るが満場一致の賛成だった。次はギルドからの定期依頼に決定する。

 そしてもう一人の義妹、俺と一緒に前衛として活躍するフーレが当然の質問をする。


「それで組むとこ決まってるの? あんま変なところは正直断わりたいんだけど……」

「あー、フー姉ぇ前回変なのに絡まれてたもんなぁ。そいつぶっ飛ばしたのは流石に笑ったけど」

「アンタも笑い事じゃないわよ? 少し目を放した隙にユミネちゃんが、なんて可能性だってあるんだからね」


 そう、ギルドの定期依頼は他のパーティを引き入れて何か仕事をすることだ。

 しかもこの依頼はギルド直々に決められた依頼である。

 半人前とされるDランク以下のパーティをCランク以上のパーティに組み込み共同で仕事に当たるというもの。

 下位のパーティは上位パーティを見て様々な見聞を広めると同時、上位パーティの仕事を間近で見ることで経験を得ることができる。

 そして上位パーティはギルド直々の依頼であるため、ギルドへの貢献度が従来の依頼より高く設定されているのだ。

 この貢献度は冒険者間で話されている度合いであり公的な名称ではない。しかし多ければ多いほど良い依頼を紹介されたり上位のランクに上がりやすいと言われている。


 さて、そんなギルドからの依頼だがここで一つ問題がある。いや、正確には女性冒険者がいるパーティだと問題が出やすいが正しいか。

 冒険者は独身の男の割合がかなり高い。そんな中既婚者が一人、カップルが一組、女性二人で構成される『風の爪』はかなり珍しい編成だ。

 問題はこの特定の相手が現在いない女性二人である。もちろん彼女ら自身に問題があるわけではない。

 しかし彼女ら狙いで寄ってくる男性冒険者は山ほどいる。普段は俺やダンがいたりするためそうそう接触はないのだが、このように合同で仕事に当たる場合はその限りではない。

 事実、前回の時には変なところと組んでしまったため大変なことになった。主に向こう側がだが。


「確か少し前にDに上がった女だけのパーティあったよな。あそこに頼むんじゃダメなのか?」

「バカね。いくら既婚者にいさん彼女持ちアンタとは言え男がいるパーティなのよ。多分『華の衝撃』あたりの女性だけの方に行くわよ」

「ではいっそのことEランクのパーティならどうでしょうか。流石に実力差が明らかに離れているのでしたら変な事はしてこないかと」

「でも実力離れすぎてるのが多過ぎるとこっちのフォロー大変だよ。せめてEの人数は一人か二人ぐらいに納まってないとキツいんじゃないかなぁ」

「一番無難なのがDが二人、Eが一人か二人ぐらいの混成か。……いたか、そんなパーティ?」


 全員がうーんと首を捻るが誰も心当たりはないらしい。

 そもそも個々のランクが異なるパーティはあまりいない。低いランクに合わせどうしても仕事の制限がかかってしまうことがままあるからだ。


「あら、それならあの子がいいんじゃない?」


 そんな中、台所から飲み物を持ってきた妻のイーチェの言葉に全員が顔を向ける。

 元々イーチェは『風の爪』のメンバーだったが、俺との結婚を機に引退してもらい現在は家を守ってもらっている。


「お姉ちゃん、そんな良さそうなパーティいるの?」

「うーん、ちょっと違うかな? パーティじゃなくて個人なんだけど……ほら、前にあなたが言ってた子がいるじゃない」

「あぁ、ヤマルのことか」


 少し前に冒険者の基礎を伝授した少年のことを思い出す。

 今は確かソロで細々とやってたはずだ。まぁ少し前とんでもないことやらかしていたが、本人があまり言わないのとあの場にいた者もあまり触れたくないのか、戦狼バトルウルフの話はあれ以降ピタリと聞かなくなった。


「やまる……ヤマル……。あ、分かった! 《薬草殺しハーブスレイヤー》の人でしょ!」

「……なんだ、その《薬草殺し》って」

「あれ、お義兄にいちゃん知らないの? 薬草ばかり採取して依頼こなしてないから《薬草殺し》なんだって」

「あー、俺も聞いたことあるわ。なんかとんでもなく弱っちぃやつだっけか」


 何か知らぬ間に妙な二つ名がつけられていた。

 確かに言ってることは間違ってはないのだろうが、それでいいのかヤマル……。


「その《薬草殺し》の子と義兄にいさんが知り合いだったのは初耳ね」

「あぁ、前にちょっとな。アイツがギルドに入った直後ぐらいに少し手ほどきしたんだ」


 そのときのことを一応掻い摘んで話しておく。

 もちろん依頼金のことは伏せておいてだ。いらぬ誤解と問題は与えるものではない。


「ね、その子ならソロだし二人とも安心できるんじゃない? それにあなたの知ってる子でもあるし」

「まぁあいつは確かに手を出すようなやつじゃないな。むしろ手を出したら間違いなく手折たおられる側だ」

「でもそんな弱いの二、三日抱えることになるんだろ。大丈夫か?」

「まぁ戦力面は不安なのは分かるが……少なくとも一人ならば俺ら五人がフォローすればそれぞれの負担も少なくて済むだろう」


 結局他に目ぼしい下位パーティが思いつかなかったため、とりあえずこの案で行くことになった。

 ともあれこれはあくまでヤマルが了解すればの話だ。なので彼にこの話を持ちかけに行くことにする。

 多分今から行けばギルドにいるだろう。最悪言伝を職員に頼んでおけばなんらかのアクションがあるはずだ。


「じゃぁとりあえず今日は解散だ。俺は今からギルドに行ってヤマルを探してこよう」


 だが普段いるはずのヤマルが何故か数日もギルドに姿を見せてないと言う事はこのときは思いもつかなかった。

 結局あいつに話が通ったのは三日後、つまり出発の前日の夕方だった。

 妙に薬品臭い状態でギルドにいたところを捕まえ、彼にギルド依頼のことを説明。

 そのまま二つ返事をもらえたため今回必要そうなものを念のために教え、こちらも翌日からの仕事に備えることにした。



 ◇



「共同で仕事ですか?」


 ローズマリー宅への配達が済んだその夜。ギルドに報告に戻るとラムダンが自分にその依頼を持ちかけてきた。

 出発は明日と急な話だが、どうもここ最近自分を探してくれていたらしい。

 コロナの件でセレスへの面会などの準備で色々出回っていたため、ギルドに寄る事が無かったせいで行き違いになっていたようだ。

 仕事内容自体はラムダンら『風の爪』メンバーがいればそう難しくはないとのこと。

 後は進捗次第だが日は確実に跨ぐためそちらの準備もして欲しいとのことだったが……。


「今回はかなり急になってしまったからな。お前一人だけだしキャンプ関連の準備はこちらでやっておくつもりだが……どうだ?」

「そうですね……分かりました、是非お願いします。外で一夜を明かすのもどこかでやらなきゃと思ってましたし、ラムダンさんがいれば心強いです」


 コロナが戻るまでにそちらの経験を積むのは願ってもないことだ。

 彼女も他国からこちらに来たためその知識や経験があるだろうが、どうせならせめて足手まといにならない程度には自分も知っておきたい。


「では明日、そうだな……いつもお前が来るぐらいの時間に東の街門でいいか?」

「わかりました。それではその時間までに着くようにしておきますね」


 彼も明日の準備があるためそう告げると今日はもう帰っていった。

 さて、自分の方も少し準備しなきゃいけないだろう。とりあえず女将さんにはもしいない間にコロナが帰ってきたときの言伝はしておかなくてはいけない。

 後はいつも通りの準備ぐらいか。食料は……用意してくれると言っているが少し持っていくべきか。女将さんに日持ちしそうなのあるかついでに聞いてみよう。


「とりあえず帰って荷物まとめだなぁ」


 しかしこの十分後。薬品臭さに女将さんに風呂に入ってこいと追い出される羽目になるとはまだこの時は知る由もなかった。



 ◇



「あ、おはようございます」

「あぁ、待たせたか?」

「いえ、少し余裕持って来たので大丈夫ですよ」


 流石に立場が下の人間が上を待たせるわけにはいかないため今日は余裕を持って宿を出てきた。

 待ってる間はポチを撫でたりして遊んでいたので、時間自体は潰せていたから特に問題はない。


「そちらの皆さんが?」

「あぁ、俺のパーティーメンバーだ。道すがら紹介しよう」

「『風の爪』って六人パーティーですか。結構大所帯ですね」


 あれ、なんかラムダンが妙な顔をしている。声に出すとしたら『え、六人?』と言ったところか?

 でもラムダンの後ろには五人いるから彼を入れて六人なのでは……?


「イーチェ?! お前いつの間に!」

「あら、噂の子をちょっと見たくなっただけよ。はじめまして、ラムダンの妻のイーチェです」

「え、結婚してたんですか!?」


 全然知らなかった、びっくりだ。

 目の前の女性イーチェは確かに良く見ると装備品は何もつけてない。ほんわかとした雰囲気を出している彼女は中々母性に満ちている。


「あ、すいません。古門 野丸です。ラムダンさんにはお世話になってまして……」

「ふふ、礼儀正しい子ね。今日は不慣れなこと色々あると思うけど頑張ってね」

「あ、はい。ありがとうございます」


 いってらっしゃい、とイーチェに見送られ『風の爪』のメンバーと共に街の外に出る。

 彼らの後を追うように街道を歩きながら自己紹介タイムとなった。

 『風の爪』のメンバーはイーチェの家族でほぼ構成されているメンバーだった。

 長女のイーチェとその旦那のラムダン。次女のフーレに長男のダンとその彼女のユミネ。そして末妹のスーリ。

 珍しいと話したらやはりこのような繋がりでのパーティは珍しいらしい。


「まぁアンタのその、連れも珍しいよな?」

「ポチのことですか?」


 自分の足元で並走するポチを抱き上げてみせる。

 まぁ確かに冒険者で動物を連れている人はいない。この子は中身は戦狼だが現状子犬にしか見えないし。


「その犬は前は居なかったよな?」

「えぇ、少し前からですね。……えーと、抱きます?」

「うん!」


 以前の魔術師ギルドの受付嬢と同じ顔をしていたスーリにポチを手渡す。

 すると彼女はやはり受付嬢と同じようにポチをモフり始めた。

 やっぱり女の子が小動物と戯れるのはとてもいい光景だ。心がほっこりしてくる。

 その隣ではフーレとユミネが次は自分と言わんばかりに待機していた。ユミネは割とスーリにぐいぐいと抱かせて欲しいと言っているが、フーレはそわそわと中々言い出せないようだ。

 見ている分には丸分かりなのだが、多分身に纏う凛とした雰囲気のせいで中々素直になれないといったところか。


「あー、女の子だ」


 ポチを宙ぶらりん状態に持ちながらなんか確認するスーリ。そうか、ポチ女の子だったか……知らなかった。あんまりその辺気にしてなかったし……。

 そのまま他愛のない話をしつつ街道を歩くこと数時間。

 流石に人の往来がある街道沿いでは魔物に遭うことも無く順調に道程を消化していく。

 そして小高い丘の上に来たところで一度休憩を取ることになった。


「ヤマル、あそこに山が見えるだろ? 今回の目的地はあそこだ」


 地面に座り息を整えていると、ラムダンが目的地である山を指差す。

 生い茂る木々に覆われた山はここからではその外観しか窺うことができない。ここからは街道を外れ山に向かって進むそうだ。


「依頼は規定値の魔物の素材とかの採取になるな。大物ならすぐに終わるがそうそういないからな。多分何戦かするだろう」

「うーん、視界不良のとこで戦うの初めてですね……」

「ま、だいじょーぶだいじょーぶ。俺達がルーキー守ってやるからドーンと構えてりゃいいぜ」

「おーおー先輩風吹かせちゃってー。後輩君にイイトコ見せたい?」

「うっせ! とにかくまずは何もしなくてもいいぜ。場慣れすることも立派な経験だからな」


 ダンの言葉にありがとうと言うと、彼はどこか照れくさそうにそっぽを向いた。

 周りの姉妹はその姿を微笑ましそうに見ているが、多分フーレが言ったように先輩としていいとこ見せたかったのだろう。

 ダンも姉弟内じゃ年齢もあって下に位置づけられてるし、頼られることに憧れているのかもしれない。


「そう言えば前んときに魔法使ったみたいなこと言ってたな。あれから覚えたんだな」

「あ、はい。ラムダンさんと別れた翌日に早速魔術師ギルド行ってきました」

「おー、じゃぁ《薬草殺し》君は私と同じで魔法使えるんだ? ね、見せて見せて!」

「あの、そんな大した魔法では……」


 いいからいいから!とスーリに押し切られ仕方なく見せることにする。

 この興味津々な表情が数秒後に落胆に変わると思うと心が痛い。


「ではまぁ分かりやすいので……《生活の火ライフ・ファイア》」


 座ったまま手を伸ばし人差し指を突き出して魔法を発動させる。

 指の先から小さな火が出現するが……以上、これだけだ。残念ながら高速で飛んだり大きくなったりはしない。


「……え、これだけ?」

「そう、これだけ。魔力が他の人より全然無いので……」

「あー、その。……ごめんね?」


 何か謝られた。

 まぁこの世界での魔法の最低基準はファイアボールあたりだろうし、それに比べたらどう足掻いても見劣りはする。

 そもそも戦闘用の魔法ではないし……。


「いえ、大丈夫ですよ。それより魔法戦期待してますからね。何せ見たことありませんので」

「あ、うん! 任せて! ドーンと凄いの撃っちゃうから!」


 あまり無い胸を叩きつつ、スーリが自信満々に宣言する。

 まぁ魔法戦もだが実際のところパーティー戦は是非見てみたい。

 今後はコロナが前衛になってくれるはずだし、後衛に回ったときの動きや連携はきっと参考になるだろう。


「よし、そろそろ出発するか。ここからは辺りを注意して進むぞ」


 注意、と言う言葉に一層の気を引き締めつつ、『風の爪』と一緒に山の中へと入っていった。

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