第24話 再会(CとSR)1
コロナと別れた翌日。
彼女と一緒にやろうとしてたことは一応あったが当面は保留となった。
となれば今日からは通常の仕事を再開である。
幸い昨日コロナと分かれた後に武具屋と道具屋に寄ったところ防具とカバンの修理が終わっていた。
つまり今日はやれそうな通常依頼が無くても外に出て常設依頼をこなすことができる。
「あれ?」
そう思いながら通常依頼板を見るとポツンとひとつ残されている依頼書があった。
内容を見ると商店からの運搬の仕事のようだが、中身がそこまで重要なものでないのか金額が低い。
(……これぐらいなら冒険者使わなくてもいいのになぁ)
正直この値段と内容なら自分とこの商店の誰かに使いを出してもよさそうなのに。
とてもこちらに依頼を回すほどの仕事とは思えなかった。
「……ま、いっか」
あちらにどのような意図があるか分からないが仕事は仕事。
単独で通常依頼が出来る機会なんてもうないかもしれない。コロナが合流したら出来ることが増えるだろうし。
依頼書に手を伸ばしそれを剥がして受付へと持っていく。
普段いない人物が依頼書を持ってきたことに受付の職員は驚いていたものの、中身を見て納得されてしまった。
とりあえず依頼の受注の受付を済ませ、荷物がある商店へ向かうことにした。
◇
「いやー、助かりましたよ。正直誰も来なかったら明日こちらで行くつもりでしたので」
ややお腹にお肉を蓄えた中年の商店主がにこやかな笑顔を向けてくる。
その顔からはとても怪しい感じはしないが、念のために聞くことはだけは聞いておこう。
「念のために聞きますけど危ない品物とか変な裏取引とかではないですよね……?」
「そんなとんでもない! 中身も取引も真っ当なものですよ! ただ届け先がちょっと……」
どうもこの商店主が言うには荷物の届け先は今回が初めてではないらしい。
なんと王城所縁の人物のところらしく、最初依頼を受けたときは繋がりが出来ると皆で喜んだそうだ。
ところがいざ届けてみるとその人はちょっと変わり者。まだ仕事が残っている店員を中々帰してくれないらしい。
こちらとしても早々に帰りたいところではあるが、いかんせん相手の背後にいるのが王城だ。下手に逆らうなどできるはずもない。
そこで今回は冒険者に頼みこむことにしたそうだ。もし捕まって時間を食うようなら別途補償金も出してくれるとのこと。
「気前いいですね」
「まぁうちの者が捕まっては仕事に支障がでますからね。それならば貴方に支払いこちらで仕事した方が損害が少ないのですよ。……あ、この事は内緒でお願いしますよ?」
分かりました、と苦笑し目的の物を預かる。
これをその例の人物に届け、中身を確認してもらい伝票にサインを貰ってくるのが今回の仕事だ。
最初荷運びで物の大きさを確認せずに焦ったが、幸い荷物は片手で抱える程度。両手で持っていけば落とすことも無いだろう。
何より箱の大きさに反して軽いのが良かった。
「それでは行って来ますね」
行き先を確認してはその変わり者の家へと向かうことにした。
◇
その家は王都の中でもかなり端の方に建っていた。
この辺りになると大通りまでの距離もあるため、住居はまばら、空いている土地すらある。
そんな中で更に目立ちにくそうな道を掻き分けやってきたのがここだ。パッと見はこじんまりとした一軒家であるが……。
「くぅん……」
「ん、どうし……あー……」
ポチが妙な鳴き声を挙げ怪訝に思うも、すぐに理由が判明する。
何か鼻にツンと来るような臭いがこの家の中から発せられていた。
刺激臭ではないが独特なこの香り。日本ならば病院や薬局に近いかもしれない。
「ポチ、辛そうならその辺で待っててもいいよ。後で迎えに来るから。あ、危なくなったらちゃんと吼えるんだよ」
「わん!」
一吼えするとポチは近くの空き地に向かって駆け出していく。
まぁ見た目は普通の子犬だし一応マルティナから貰った首輪もある。何かあってもすぐにいけるだろう。
気を取り直しその家の玄関まで足を運び呼び鈴……がどこにも見当たらないためドアを三回程ノックをする。
「すいませんー! お届け物をお持ちしましたー!」
しかし中から反応は無い、留守だろうか。
その場合は一度戻って店主にどうするか確認するしかない。無駄足になってしまったがまぁそういうこともあると割り切るしか……。
『開いてるよ、勝手に入っといで!』
中からしゃがれた女性の声がした。どうやら件の人物は老婆のようだ。
お邪魔します、と断りを入れ中に入ると一層強い薬品の臭いが漂っている。何かの研究をしているのかもしれない。
研究者だから普通の人と違うのかなぁ、とやや失礼なことを思いつつ廊下を歩き奥へと進んでいく。
「すいません、荷物はどこに……」
「適当に置いてちょっとこっちに……」
そして人の気配があった部屋に入ると件の人物とばったり遭遇した。
その老婆を見た瞬間、互いに動きが止まり目を瞬かせる。
「ローズマリーさん!?」
「ヤマルじゃないか! 久しぶりだねぇ、元気にしていたかい?」
これぞ魔女、と言った具合の風体の彼女はシルビア=ローズマリー。
この人も自分と同じで異世界からの召喚者なのだが何故こんなところにいるのだろうか。セレスみたいな護衛も周りにいなさそうだし……。
「最後に会ってから何日かねぇ。全く、勝手に呼んでおいて追い出すとか酷い事するもんだよ」
「いえ、まぁ実際役に立てないのはその通りでしたし……」
「それでも上手く使うってのが上に立つもんの仕事じゃないのさ。あの国王代理とその周辺はまだいいよ。他の貴族ときたらまぁ……」
よっぽど腹に据えかねてたのか、その貴族に対して恨み節を重ねるローズマリー。
それも一通り言い切れば落ち着いたのか、ようやく本題に入ることができた。
「とりあえずこちらにサインいいです? 今日は仕事で来てまして……」
「おや、商店にでも就職したのかい?」
サラサラと達筆な筆捌きで伝票にサインをする彼女の質問に対し、これまでのことを大まかに話す。
「と言うかローズマリーさんはここで何を? お城でお仕事してたんじゃ?」
確か彼女は前の世界では薬師だったはず。
あちらの知識があればこっちには無い新薬とか開発できそうなもんだがうまくいかなかったのだろうか。
「城だと堅っ苦しいからこっちに移ったのさ。今は自由気ままに薬の実験ってとこかね」
カラカラと笑うが何か怪しい。
少しジト目をしつつ念のために聞いてみる。
「……本当は?」
「激務で忙しいから頭がスッキリする薬を寄越せとのたまって来た例の貴族に脱毛剤プレゼントしただけさ」
確かにスッキリしただろうが意味合いが全く違う。まぁ目の前の老婆がスッキリした顔をしてるので多分これはこれで良かったのだろう。
ともあれ結果ここに飛ばされたというわけか。いや、本人は気にしてないのでむしろ願ったり叶ったりといったところか。
「しかし脱毛剤とかよくばれずに使わせましたね。むしろこっちにあったんですね」
「いや、無かったので作ったんじゃよ。まぁ製法は秘密じゃがな」
うわぁ、中々悪い笑顔をしてらっしゃるなこのおばあちゃんは。
しかし素材からして違うだろう異世界で思ったとおりの効能を作れるのはやはり一流と言わざるを得ない。
薬師としての知恵か経験か……もしかしたらセレスの治癒魔法みたいに何か特別な力があるのかもしれない。
「まぁ折角来たんじゃ。老いぼれ婆にちと付き合ってくれんかの」
「いいですけど手伝えそうなことありますかね?」
「なぁに、製薬に手が足りんことなぞままあるからの。物を持ってくれるだけでも助かるもんじゃよ」
なるほど、あの商店の店員もこんな感じで捕まってしまったと言うことか。
ともあれローズマリーの実験室にて数時間ほど研究を手伝うことになった。
よく見る薬草から見慣れぬ葉、根や茎から良く分からない粉末などを調合していくのを見るのは中々楽しい。
その中でやはり目を引いたのはポーションの作製だろう。身近な品だけに出来たてのポーションを見るのは少し感慨深いものがある。
そんなこちらの気持ちに気づいたのか、ローズマリーがある提案をしてきた。
「ヤマルもポーション作ってみるかい?」
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