第12話 魔法講習

 会議室での講義が終わり、マルティナと共に別室へとやってきた。

 ここは魔術師ギルド内の実習室。ギルド所属の魔術師が魔法の試射などを行う場らしい。

 中はかなり広く、日本の小学校の体育館並にありそうだった。

 後に分かったことだが魔術師ギルドの敷地はかなり広い。

 この様な実習室が複数あるのもそうだが、別の場所には魔道具開発・実験用の建物もあると言うことだった。


「ところで何でここに?」

「まぁ実際見せたほうが分かりやすいと思ったからね」


 よっこいせ、とマルティナがどこからか持ってきた木偶人形を部屋の奥のほうへと持っていく。

 更にこれまたどこからか取り出した円柱状の柱を床に取り付けると、木偶人形をその柱に縛り付けた。まるで今から処刑される者のようである。


「ほい、これは的ね?」

「的って……めっちゃ人型なんですけど……」

「魔法の中には精度を求められるのもあるからね。まぁ気にしちゃダメよ」


 マルティナがこちらに戻ってくると、処刑……もとい木偶人形へと向き直る。


「まずは実物見てもらうわね。【火球よ、敵を撃て】《ファイアボール》」


 マルティナが手を突き出し魔法名を言った瞬間、手の先からバレーボールサイズぐらいの火の玉が現れ木偶人形へと発射された。

 火球は寸分違わず木偶人形に着弾、その身が炎に包まれる。


「本物の魔法だ……」

「あら、実物を見るのは初めてだった?」


 首を思いっきり縦に振り肯定の意を示す。

 そう、これが自分が見たかったもの、憧れていたやつだ。同じものが使えないのが本当に悔しい。


「良い顔ねー、お姉さんそーゆーの嫌いじゃないわよ? さてさて、今見てもらったのが魔法だけど、魔法を使うのに必要な物は四つあるの。分かる?」

「四つですか」


 魔法を構成するモノ、そして先ほどのマルティナが魔法を使ったときを思い出す。


「『詠唱文』『魔力』『魔法名』ですかね。もう一つはちょっと……」

「うん正解。後は魔法の効果、この世界だと『魔術構文』って言われてるやつね。魔法の根幹部分に当たるわ」


 そう言うとマルティナは再び同じ手順でファイアボールを繰り出した。

 いつの間にか鎮火していた木偶人形が再び炎に包まれる。


「どんな魔法にも必ず根幹を成す『魔術構文』が存在するの。ファイアボールの魔術構文は『火の玉を撃つ』ね。今見せたのは基礎ベース部分よ。この構文に反しない限り、魔法は術者次第でアレンジが出来るの」


 例えば、と言うとマルティナが三度同じ手順でファイアボールを発動させる。

 だが今回は前の二回と決定的に違う部分があった。火の玉が三つに増えている。

 そのまま火球は異なる軌道を描き木偶人形に着弾。心なしか一発一発の威力が違うような気がする。


「こんな感じに魔術構文の『火の玉を撃つ』って部分を満たしていれば、数を増やしたり威力の増減をしたり軌道や速度を弄ったりとかね。逆に魔術構文とは違うアレンジは無理ってわけ。玉が槍になってたりとかそもそも撃たないとか」

「なるほど……」

「さっき言った威力を上げるのも上限があるわね。例えばもっと強いファイアボールを使いたいなら、魔術構文が『威力の高い炎の玉を撃つ』のような別の魔法が必要になるわ。ただこの構文になると今度は逆に弱い威力が使えなくなるのよ。詠唱文も長くなるし消費魔力も高くなる。基本的に魔法の効果の高さは魔術構文の詳細さに直結し、それゆえに限定的になる。まぁだから魔術師達わたしらは色々覚えて選択肢を増やすようにしてるんだけどね」


 うーん、奥が深い。

 つまり極端な話だと、『半径五百メートルの範囲の中を灼熱の炎で焼き尽くす』なんて魔術構文の魔法があれば、効果範囲も弄れないし焼き尽くすという効果も変えれない。と言うかそんな魔法なんて使いどころが限られすぎている。

 それなら確かにファイアボールのような簡単なのが汎用性は高い。

 まぁその分威力などは抑えられてるみたいだし、一長一短なのだろう。

 だから彼女の言うように魔術師達は様々な魔法を覚え、臨機応変に切り替えているということか。


「まぁ基本的なお話はここまでにしてお待ちかねの君の魔道書よ。ちなみにお値段はこれぐらいね」

「……あの、ちょっと高すぎませんか?」


 提示された金額に目を見張る。

 この値段はここ数日で使った金額とほぼ同額であった。


「魔道書ってのはそもそも高いものよ。例えばファイアボールの魔道書の値段はこれぐらいよ?」

「うぇ?! え、魔法ってそのぐらい……?」

「当たり前じゃない、開発した苦労もないのに一生物のやつ覚えるんだから。むしろ私の権限でここまでしてあげてるんだから感謝して欲しいぐらいよ?」


 むむ、確かに魔法を魔道書に封印するのは難易度が高いと言っていた。それに一度覚えたら一生物と言うのも間違っていない。

 ならばこの値段は確かに相応ぐらい……。


「や、ちょっと待ってください。これ確かマルティナさんでも扱いづらい魔法けっかんひんでしたよね?」

「う……」

「ぶっちゃけこれ在庫処分もいいとこなんじゃないですか? 表紙とか埃積もってたし」

「うぐ……でもでも! これぐらいしか君に使えそうな魔法も無いのよ?」

「むしろここで断られたら倉庫の肥やし継続じゃないですか。自分ぐらいしか使えないんですし」


 痛いところをついたらしく、マルティナがうぐぐ……と唸っている。

 とは言えこれ以上突っつくと今度はこちらがボロを出しかねない。何事も妥協点は必要なのだ。


「だからせめてこのぐらいで……」

「え、それこそちょっと足元見すぎでしょ。これぐらいがギルドとしての適正価格だと責任者として判断します!」

「最初より減ってるのに適正価格ってボる気満々じゃないですか!? ギルド長として懐の広さを見せて頂けると期待してこれぐらいで」

「ギルドを預かる身としては儲けは必要なんですー。はぁ……じゃぁこれぐらいでどう?」


 最初に提示された金額よりはそこそこ下がったし、ここらが引き時だろう。

 その値段に了解を示し支払いを済ませ、代わりに生活魔法の魔道書を受け取った。


「……これ、どうやって使うんです?」


 厚めのブックカバーに鍵付きの止め具。多分勝手に開けれないようにしているんだろうが、これでは自分も開けれない。

 するとマルティナが小さな鍵をポケットから取り出し説明を始める。


「まずはこの鍵を使って開錠します」

「ふむふむ」


 マルティナがその鍵を鍵穴に差込み右に回すと、カチリと音が鳴り本の止め具部分が外れた。


「次に表紙と裏表紙部分に手を置いてね。本を挟むような感じで」

「こうですか?」


 言われるように本を挟むように両手を置くと、手のひらに何やら吸い付くような感触を覚える。

 本から手が離れないというわけでは無さそうだが、初めての感覚でどうも落ち着かない。


「で、そのまま本を開く。ページはどこでもいいわよ」


 ゆっくり本を開くと何やら図形や文字が書かれたページだった。

 なんだろう、と思うも束の間。急に目の前が白く染まり、その図形や文字が本を抜け出し迫ってくる。

 避けようとするも体は動かず、なすがまま文字や図形が体を貫いていった。

 だが痛みは特に感じ無い。そのまま体を貫いた文字と図形が体内に吸い込まれるように消えていく。

 それが終われば別のページの文字が、更に終わればまた別のページの図形が、数式が、次々に飛んできては刺さり消えていく。


 そして魔道書の文字が全て体に吸い込まれると、徐々に意識も白く染まっていった。

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