6-2―中二の夏に―

 そして平穏な日々に支えられるようにあっという間に一年の月日が流れた。時子は中学二年の夏休みを迎えようとしていた。一学期の終わりに担任から二学期には進路についてのアンケート調査を行うという話があったこともあって時子はすでに高校受験というひとつの選択について自分なりに意識しはじめていた。二年になってクラス替えがあって一年のとき仲良くしていたグループの中では町田恭子と一緒のクラスだった。恭子とは英語部にも一緒に所属していたこともあって二年になってからはますます親密な関係になっていった。そして夏休みには同じ塾の夏期講習にも一緒に通う約束をしたりしていた。


 男子生徒からの人気が高い恭子だったが、彼女の想い人は一年のとき英語部の部長だった先輩の石田克哉いしだかつやだった。バレンタインにはこっそりチョコレートを渡すほどの熱のあげようだったが、その頃受験本番だった石田からは儀礼的にホワイトデーなるお返しの品としてクッキーが郵便で届き、そこには―チョコレート、ありがとう。これからも英語部で頑張れ!―というありきたりのメッセージ以外は何も書かれていなかった。それでもクッキーを貰えただけで喜びを隠せない感じの恭子だったので、石田が卒業を迎えるとともに彼が入学した難関の都立N高校への入試を意識しはじめたようだった。


 時子も内心N高校を狙っていたので恭子を応援しながら、自分自身も入試に向けて気持ちが僅かに高鳴った。その頃、時子には意中の人は特にいなかった。相変わらず心の何処かで田坂光司の幻影を追いかけているようなところがあった。N高校で田坂光司と巡り合えたらなんてとりとめもない幻想に身を投じることもあった。そんなふたりだったから時子と恭子がふたりきりのときに想い人の話題になると意気投合し過ぎて思いもかけないような空想の果てに走るようなところがあった。まだまだ可憐で夢見がちなふたりだった。



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