第4章 人生の分岐点

4-1―人生の波―

 ―そして、六年後―。


 三年制の看護学科を卒業した根津珠樹は看護師国家試験に合格し、晴れて、看護師としての道を歩みはじめた。都内の伝統あるM病院に就職し、看護師として働く傍ら、専門の勉強を深めるために勉学も続け、一年後にはかねてから憧れだったS国際大学の看護学部学士3年次編入試験を突破した。そして、二年間、専門のコースに通い、卒業後は一流ホテルの専門クリニックで働きはじめた。


 その一方で、中二からの親友、桂木美咲との文通は続いていた。高校時代にはお互いの文化祭を訪ねたり、美咲が所属していた吹奏楽部の演奏会を聞きに行ったり、大学時代や社会人になってからも、時折り、映画鑑賞や美術館散策などに一緒に出掛けたり、かねてからの夢だった海外旅行を伴にしたりして、年月をかけた友情の絆を深めていった。そして、職場の上司からの紹介で出会った柳橋正之やなはしまさゆきと先にゴールインを決めた美咲の結婚式ではスピーチを行ったり、その後も美咲の出産後にはお祝いに美咲の婚家を訪ねたり、文通、電話、メールとお互いの忙しさや時代の変遷を受けながらも、転居先が変わっても連絡を取り合い、交流が続いた。


 一方、夏木笙とはその後、互いに連絡を取り合ったりすることもなく、成人式に参加した折りのクラス会でも談笑した程度で連絡先を交換し合ったりすることもなく、どこまでも中学時代の同級生としての延長線上の関係だった。


 ある時、珠樹は職場の伝手でテレビ企画の海外ボランティアに参加することになり、その企画のディレクターの一人として参加していた夏木圭と知り合った。圭が笙の兄であることは名刺を交換した時に珠樹の方から同じ苗字の同級生がいることを話題に出してすぐにわかったが、圭と笙は風貌がそれほど似ていなかったし、年齢も五歳以上、離れていることがすぐにわかった。それに圭は笙よりずっと気さくで話しやすく、どこか茶目っ気がある大人だった。企画を通して知り合った当初からそんな風に不思議な縁を感じながら一緒に行動するうちに珠樹と圭は次第に心の距離を縮めていった―。名刺だけでなく、携帯でも連絡先を交換し、海外ボランティア企画の終了後もふたりで会うようになった。

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