3-8―よぎる不安―
やがて訪れた冬休みはクリスマスもお正月も気もそぞろに過ぎ去り、三学期に入ると同時に三学年全体が受験シーズンに入り、毎日がどこか緊迫したムードに包まれた。毎朝、教室を訪れる生徒数もそれぞれの試験日程に従ってまばらになり、授業も自習時間が増え、ときには午前中で授業が切り上げられる日もあった。
珠樹と日頃仲良くしている四人グループの中では珠樹以外は私立の受験を二、三校控え、次々に試験の日程を迎えていった。そして次々と合否通知が知らされていく中で私立が第一志望だった満里菜がグループの中では一番乗りで進学する高校を決めた。笙も滑り止めの私立は受かったという知らせを教室に届けてくれた。珠樹は合格の知らせが届く度にまるで自分のことのように嬉しくなって、皆の喜ぶ様子を見つめていた。
そして遂に公立高校の前期試験の日が訪れた。珠樹は合格確実と言われる線で受験校を決めていたし、その日も万全の体調で試験に望んだ。五課目の試験科目を終えたあとは、幾分疲れは残ったものの、やっと終えたという充実感でいっぱいだった。難しい問題もいくつかあったが、なんとかなっただろうと気持ちを強くもって家路についた。次の日の面接も精一杯の笑顔で面接官からの質問に答えた。
そして、合格発表の日―。
当日は試験結果を見に行ったあと、合否に関わらずすぐに学校に向かうことになっていた。優理とも睦ともそれぞれ受験校がちがったので、珠樹はその日はひとりで発表を見に行くことになっていた。
当日になるとさすがにもし落ちていたらと不安が過った。優理も美都子も私立ですでに合格を決めているのが羨ましかった。珠樹の場合、滑り止めの私立を受けていないので、前期試験でもし落ちていたら、後期試験は志望校のレベルを落とさなければならない。そういった意味で合格発表を見るまで受験のプレッシャーで押し潰されそうな思いで一杯だった。珠樹と同じように公立一本で絞っている人は皆、そういった不安はきっと抱えているのだろう。
「もし、落ちていたら、また試験を受けなければいけないけれどしかたないよね」
珠樹は朝の食卓で冴えない顔で呟いた。
「珠樹ったら、今更そんな自信なさげなこと言ってるの?頑張ったんじゃないかったの?」
「頑張ったんだけどね。見直ししたら、明らかな間違えの他にも不安な箇所がいくつかあって……ぎりぎりの線で不合格なんてこともあり得そうで……」
「そうねえ、落ちたときはしかたないし、また頑張って後期試験を受けなさいね」
「まあ、そうだけど……」
「しっかりしてよね。こんなことなら安心料としてだけでも私立を受けておけばよかったかしら?」
「うん。だけど私立は受かったとしても行けないんだし」
「お姉ちゃん、受かってるといいね」
それまで黙っていた彩菜が突然口を挟んだ。
「お姉ちゃんが受かっていますように……」
彩菜の一言で沈黙が不意に流れた。
「とにかく落ちても怒らないでね」
「そんなことで怒らないわよ。また次を頑張ってもらわなきゃいけなくなるんだから……」
「うん。そうだよね。受かったとしても落ちたとしてもまだまだ先は長い……」
「そうよ、珠樹は看護師になるんでしょ。まだまだこれからでしょ」
「もう、そんなにプレッシャーかけなくても……」
「とにかく受かっても落ちても、目標を見失わずにね」
母は珠樹の不安を振り払うように呟くと珠樹をそっと抱き寄せた。
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