3-3―すれ違う思い―
次の日珠樹は学校へ登校すると教室の入り口のところで窓際で戯れていた笙と早速目が合った。笙の瞳は「やあ!」と語りかけてくるような優しい視線をさりげなく投げ掛けている。その瞬間、昨日の満里菜との電話のことが脳裏を巡り、珠樹は笙の視線に気付きながらもさっと目を逸らした。
―その時―
「笙君、おはよう」
と背後から満里菜の快活な声が響いた。珠樹が振り返る間もなく、満里菜は笙の方に駆け寄るように声のトーンを上げた。
「以前から笙君に聞きたいことがあったんだ!」
「はい、なんでしょうか?」
笙は特に驚いた様子もなく、満里菜の方に顔を向けると少しからかうような口調で満里菜に返事を返した。
「笙君の志望校ってどこ?」
「おお!志望校ですか。Oh My God!まだ決まっていなかったりして」
「え?そうなの?まだ決まっていないの?」
「そうだなぁ。行けそうな候補はね、いくつかあるけどね」
「え!どこどこ?」
「ないしょです」
「ねえ!教えて!」
「じゃあ、君は?」
「私は私立のK高校が第一志望よ」
「じゃあ、俺が受験しようとしている私立とは月とすっぽん。もちろん、君の高校が月ね。俺のがスッポン。俺は私立はあくまで滑り止めだからね。公立が第一志望だよ」
「あはは、笙君、面白い!そっか。第一志望は公立なんだ。残念だな。笙君と受験する高校が同じだったらいいなって思ってたんだけど」
「君が志望校をすでに決めているんだからしかたがないことでしょ。君は公立も受けるの?」
「え、もし志望校受かっちゃったら、もちろん受けないけどね」
「ほら、そういうことでしょ」
「まあ、そういうことだけど、でも残念だなって思って」
その時チャイムが鳴った。珠樹は机に座ると鞄から教科書を出しながら、背後から聞こえてくるふたりの会話に気を留めていた。
「あ、チャイムが鳴ったね。笙君ありがとう」
「どういたしまして」
皆がそれぞれに席につく気配を感じながら、珠樹は思わず笙の席の方へと振り向いて、ちらっと目を向けた。笙はちょうど席に座ったところで俯きながら教科書をおもむろに取り出しているところだった。満里菜の方へもちらっと目を向けると満里菜はとても満足した表情で黒板の方を向いている。珠樹はその生き生きとした顔を見て気持ちがふっと和み、心の中で言い聞かせた。
―これでいいんだ―。
そう思った途端、笙のことが自分の意識の中から消えていくのが感じられた。
―これでいいのよ。満里菜だって笙君のことが好きなんだし―。
珠樹はもう一度心の中で言い聞かせながら、積極的な満里菜の行動に自分が助けられた気がした。やがて担任の先生が教室に入り、授業がはじまった。
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