第2章 小さな変化

2-1―ささやかな思い―

 風邪が治ると同時に珠樹の図書室通いがはじまった。彩菜も何か楽しいことがあったら、報告を楽しみにしているとひとごとながらも有頂天な様子だった。


 目が見えない彩菜にとって珠樹の話はどんな風に捉えられているのだろうか?生まれつき目が見えない彩菜はどちらかというと物静かで何をするのもスローペースだったが、ひとつひとつ丁寧に物事を捉えていくタイプだった。そのため、盲学校での先生たちからの評価も高く、いろいろと責任のある仕事も与えられ、信頼も厚い様子だった。珠樹も何度か彩菜の学校にボランティアで通ったことがあったせいか、以前から看護師や福祉関係の仕事についてみたいと漠然と思うようになっていた。それは盲学校の生徒たちの純粋さに触発される思いもあったからかもしれない。そして日常生活の中で視的障害により外界から閉鎖されつつも開放的な世界を一途に求める彩菜の無垢な言動に心が洗われ、珠樹の気持ちは安らいでもいくのだった。


 自分が社会の役に立つとしたら、病に負けずに闘い続ける人たちのお手伝いをするといったかたちで道を定められるかもしれない。そのためにも今はひとつひとつの学業をおろそかにできない。―そんなささやかな思いに包まれるとき、珠樹は夢や希望についてとりとめもない話しをしながら美咲と歩いたひとときを思い出していた。


 

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