第52話 聖なる三人の王様の祝日

ドイツでは1月6日の「聖なる三人の王様」の日は祝日のため、中でもカトリック色の強い我がNRW州(ノルトライン・ヴェストファーレン州)では、必ずお休みの日になる。


ちなみにこの前後の日はカトリック教徒の子供達の1年の活動の中でもとても大切な日である。

なにをするのかと言えば、クリスチャンの子供達が「三人の王様」の仮装して、町や村の家々をまわって玄関で歌を披露し、恵まれない人達のための募金を集めをするという、1年の中でも積極的にボランティア活動に参加できる重要な任務をおびた日なのだ。


そう、つまりこの日は教会の貧しい人のための大々的なボランティア募金活動の日なのだ。


なので仮装してお菓子をもらいに来るハロウィ-ンとは違って、ズバリ募金をしてほしいという理由で各家々をまわっているので、もし募金してもいいと思われるようならできればお菓子ではなく、小銭を募金箱の中に入れてあげる日でもある。


たいていはチャイムを鳴らし、ドアを開けると三人の王様に扮した子供達と従者達がいて、歌を披露してくれる。

募金をすると玄関の入り口に細長いシ-ルを貼ってくれるのだ。

そのシ-ルには必ず年号と共に CMB とアルファベットが書かれている。


一体この暗号みたいなものは何だろうか?


知らないと不思議な暗号としか思えないが、実はこれは三人の王様の名前ということで、Cはカスパール (Casper) 、Mはメルキオール (Melchior)、Bはバルタザール (Balthasar)とこの三博士の名前なのである。


ドイツでは「三人の王様」という名前だが、日本ではこの「三博士」あるいは「三賢者」の方が聞いたことがあるという方は多いのではないか。

そう、イエズス様が馬小屋でお生まれになった際に駆けつけたと言われる、「三博士」がこの「三人の王様」なのである。


で、この聖なる三人の王様達はイエズス様にそれぞれプレゼントを持ってきたのだが、

没薬を持ってきたカスパール は、将来の受難である死の象徴で青年の姿、

黄金を捧げたメルキオール は王権の象徴で老人の姿、

そして乳香を持参したバルタザールは神性の象徴ということで壮年の姿、

ということで、またこの三人は三大陸ーヨーロッパ、アフリカ、アジア-の象徴なのだとか。


なので、この三人のうちの一人は必ず褐色の肌の方がいて、特別に

「Der könig der Mohr(有色の肌を持つ王)」という別の呼び名が特別にあるのだ。


それで、一番わからないことは誰がこの褐色の肌を持つ王なんだろうということなのだが、色々と調べてはいるのだが、相変わらずよくわからない。


カスパ-ルはラテン語の名前ではあるが、ペルシャ語では「財務官」の意味だから、彼は中東から来た人なのだろうという説からか、中世時代にはカスパールは肌が褐色に描かれていたのだが、後世ではバルタザールが黒人になる時もあり、というようなこともあるようだ。


(ちなみにメルキオールとバルタザールは典型的な当時の人々のヘブライ語系の名前なのだそうだ)


またドイツの教会系の冊子の説明のうちの1つには、カスパ-ルはペルシャ語の意味を持った名前だと書いてあるのにも関わらずアフリカ人とされているものもあり、そこではメルキオールはヨーロッパ人、バルタザールはアジア人と明記されていて、本当に諸説色々で、これは調べれば調べるほどはっきりと断言できなくなっていく。

でも老人らしい顔立ちの方はヨ-ロッパ人のようで、彼がやはりメルキオールなのではないかと思われる。



ただ面白いことに、「三人の王様」が祝われるようになった6世紀頃はアフリカ人というのはエチオピア人くらいまでであり、肌は黒くても「褐色の肌を持つ王」は現代の私達が想像するアフリカ人という感じではなく、少し精悍な顔立ちで描かれている。


アジア人もやはりイラン人くらいのことを指していたといわれるせいなのか、少なくとも東洋人の顔立ちではないことが多い。


なので先程の話に戻れば、カスパ-ルがペルシャ語の意味を持った名前というのであれば、イラン人の可能性が強いカスパ-ルがアジア人なのではないかと推測したくなるのだが、ドイツではカスパ-ルがアフリカ人の「褐色の肌を持つ王」だと解説されていることが圧倒的に多い。


この件、ご存知の方がいたら是非教えてほしい、よろしくお願いします。


補足だが、この三人の賢者の贈り物で「黄金」はとてもわかり易いのだが「没薬」と「乳香」とはなんのことかご存知だろうか。

「没薬」とはミルラと呼ばれる、当時死者の身体に塗られた防腐剤で、「乳香」とは乳香という樹液から作られるミサのときに焚かれる高価で貴重なお香なのだということだ。


それで実はうちの近郊の有名なケルン大聖堂で、長年巡礼者が目指してきていたのがこの「聖なる三人の王様」の聖遺骨であり、12世紀後半にババロッサと呼ばれる赤ひげの神聖ローマ皇帝フリードリヒ1世がイタリアのミラノから奪い取って来たものである。


この他にも「ミラノのマリア」像も盗んできたのだが、他国から奪い取ったものが巡礼者の聖遺物となり、今でも大聖堂一番の聖なるものとして有名なわけだから、たまに不思議な気持ちになる。


ミラノも長年よく返してくれと言わなかったものだと、その度量の方に感心してしまう。


もしケルン大聖堂に寄られた際は、是非この「三人の王様」の聖棺も忘れずに見学してほしい。聖棺は黄金色に輝いていて景気のいい気分も味わえる。

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