第50話 ドイツのサンタは聖ニコラウスとクリスキンド

うちの村では「聖ニコラス」の12月6日の1日前の12月5日に、必ず家にお客様が来られる。

従者を何人か従えた「聖ニコラス」で、子供のいる家庭にお菓子やリンゴ、胡桃や木の実がたくさん入った大きな包みのプレゼントを持ってきてくれるのだ。

13歳までの子供がいる家庭に持ってきてくれるので、我が家はこの20年の間は毎年来てもらっている。

長男が12歳くらいの頃は、次男が9歳、三男が4歳という感じで、長男がトランペットを吹いて、「聖ニコラス」をお迎えしたというようなこともあった。

子供達も小さい頃はその日にもらえるたくさんのお菓子、そして「ベックマン」という大きい人形の形の少し甘い味のするパンをもらうことをそれは楽しみにしていたものだ。

なので、ここの子供達は生まれて数年は間違いなく、「聖ニコラス」は本当にいると信じているに違いない。


実はサンタクロ-スはこの聖ニコラウスがオリジナルだということなのだが、この方は正式名は「ミラ・リキヤの大主教奇蹟者聖ニコライ」という非常に立派なお名前の、随分昔から伝説の聖人だったらしい。

ギリシャ生まれで3~4世紀に生きていたということで、ミラ(現在のトルコ、当時はロ-マ帝国の小さな町)の司教だった彼がなぜ聖人になったのかと言えば、ひとつはローマのキリスト教「大迫害」の時代に決して屈せず信仰を捨てなかったことだという。


また、船から落ちて死んだ水夫を助けたり、三人の善良な市民が処刑されそうになった際は冤罪から救ったり、また迫害で自分も投獄されていたのに、他の受刑者達を励ましたりと、苦しむ人達を身を挺して守ろうという気持ちの強い方だったようで、それが人々の心に深く染み入り、彼の業績を称えることになったらしい。


そして彼がプレゼントをくれたり、あるいは子供達を守る守護聖人と位置づけられた大きな理由は2つあった。

1つ目は貧しい家の3人の娘が売春をして家計を助けなければならなくなった際に、窓(あるいは煙突)から3度お金が入った袋を投げて、その娘たちを助けたこと。

2つ目は残酷な肉屋に誘拐されて食肉用として殺された上、7年間塩漬けにされていた3人の子供達を生き返らせたこと。


3人姉妹の少女達の家へお金を放り込んだ際、たまたま暖炉脇にかけてあった靴下にそのお金が入ったらしい、という伝説が゛サンタクロースと靴下゛の起源となったのだとか。


聖ニコラウスは西暦350年前後の12月6日に亡くなられたという記録があるらしく、そういうわけでドイツでは毎年12月6日は「聖ニコラウスの日」であり、この日は朝起きると通常枕もとの靴下の中にプレゼントが入っていることになっている。


ヨーロッパでは1200年から1500年ごろまでの間には、聖ニコラウスは贈り物をもたらす大切な存在となっていたらしい。


ベルギーでは以前は子供達はクリスマスではなく、この12月6日の「聖ニコラウスの日」にプレゼントをもらう習慣があったということで、ドイツも昔はそうだったらしいが、世界的に今ではクリスマスの方が大きなお祭りになっているので、最近はベルギーやドイツでも子供達もクリスマスの方が大きいプレゼントをもらう家庭の方が多いのではないだろうか。


「聖ニコラウス」がヨーロッパからアメリカに渡り、そしてアメリカにてクリスマスの真っ赤なお鼻のトナカイさんとプレゼントを配るサンタクロースに変化して、逆輸入し、このサンタさんが確立したのは19世紀後半のことだったらしい。

コカコーラがサンタさんのイメ-ジを作ったという説もあるそうで、私も長らく信じていたのだが、というのも、あの真っ赤な服のサンタクロースがあまりにもアメリカ的と思ったからなのだけれど、その噂を広めたのは実はコカコーラ自身で、宣伝の戦略だったということだ。

「聖ニコラウス」も赤い服を着ているようだが、あの丸い人の良さそうな現在の

サンタクロースはやはりアメリカンドリームで変化したのだろう。


また聖ニコラウスがサンタクロース伝説の本人であると言われる大きな証拠は、オックスフォード大学にて研究者らが、聖ニコラウスのものと言われている遺骨の年代測定を行ったところ、その死亡時期がサンタクロース伝説と一致したからということらしい。


ドイツにはまた他に「クリスキンド」というプレゼントを運んでくる天使(金髪の巻き毛の女性で白と金の服に時々羽もつけている)がいて、(前回妖精と書いたのだが容貌は゛天使゛の方が近い)、でも「クリスキンド」とはドイツ語ではそもそも「幼いキリスト」の意味である。

実は16世紀に宗教改革が起こり、聖ニコラウスの権威が薄れた時代というのがあったらしく、プロテスタントの影響でプレゼントを持ってくる役割が「幼いキリスト」になった時期があったのだとか。

ただし乳飲み子にはプレゼントは運べず、聖ニコラウスの祝日12月6日から24日にプレゼントの日も移行し、色々な経緯から、天使の容貌の「クリスキンド」も生まれて、そんなわけでドイツには

「聖ニコラウス」「クリスキンド」「サンタクロース」とサンタの役割の三聖人(本当に聖人ではないけれど)が存在しているということだ。

ただドイツの家庭では「サンタクロース」の存在は非常に小さくて、彼の名前が出てくることはほとんどなく、

12月6日は「聖ニコラウス」

12月24日は 「クリスキンド」 がプレゼントを持ってくるものと認識されているのである。


またドイツでは24日が一番大切なイブ聖夜で、ベルギ-になると25日が大切なクリスマスということで、ヨーロッパ国内でもクリスマスの祝い方、捉え方色々諸説があるのだとか。


ヨーロッパのクリスマス事情は、結構複雑なのである。





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る