第30話 Maifest-五月祭りのパレ-ドと舞踏会 その1

聖霊降臨祭というヨーロッパでは結構大事な祝日が続いた週末、うちの村は毎年恒例の五月祭りの大パーティで盛り上がっていた。

毎年大好きな五月祭りなのだが今回は我が家にとっても特別な日だった。なぜなら、うちの長男が五月祭りの主役の一人であったからだ。


通常五月祭りの際は、「五月の王様」「五月の女王様」が主役で、次に必ず「五月の伯爵」「五月の姫君」とこの四役がいつもセットで行動することになる。

うちの長男は今回この「五月の伯爵」だったのだ。お芝居で言うなら「二番手」と言えばわかりやすいだろうか。


これはうちの村だけではなくて、隣の村もその隣の村も、そのまた隣村にもこの四役が必ずいて、おつきのカップル軍団を引き連れて、男性はス-ツ、女性は結婚式のようなきれいな色とりどりのふわっとしたロングドレスで5月中は色々な村をパレードで練り歩く。


昨日はこの村での大パレードが最後の、そしてこの五月祭りの最大の見せ所であり、他の村からもたくさん見学者が集まり盛り上がりも最高潮を迎えて、そのまま全員が会場に入り「舞踏会」開始、となる。


会場には席が設けられ、「五月の王様」「五月の女王様」が奥の特上席で、「五月の伯爵」「五月の姫君」が隣りに、そしてお付きのカップル達が順番に座り、この四役の家族やおつきのカップル達の家族、その他この五月祭りの実行委員会の素敵な軍服のおじ様達が席に座り、昔の貴族のパーティーとはさもあらん、という風な舞踏会が始まるのだ。


鼓笛隊の大演奏会、軍人の掛け声、それに答えるお付きの若人達の歓声、五月の王様の挨拶の後、この四役の家族を中心に会場の真ん中へ皆が集まることを許され、

「五月の王様との女王様」が入場、その後を五月の伯爵と姫君」が続き、四人のワルツにて会の幕開けとなる。


ワルツはもちろん、普通のスローワルツではなくて、テンポの速いウィンナ・ワルツ(ウィーン風ワルツ)である。

四役が真ん中で皆が見守る中、きれいなキラキラ光る紙吹雪が降る中ウィーン風ワルツを踊る様子は、本当に美しく、今回私は「五月の伯爵」の母親ということだったので、夢のような美しさを間近で見る事ができた。


その後は、家族やお付きのカップル達、軍隊の兵士の服の紳士達もそれぞれのパートナーと一緒にワルツを踊りはじめる。

若いお嬢さんたちは色とりどりのドレスで、金髪にきれいな髪飾りをつけ、お花が咲いたのかと思うほど本当に美しい。

ヨ-ロッパではたまには、何故女優さんや俳優、あるいはモデルにならないんだろうというように美しい女の子も男の子もいるのだが、それとは対照的にとてもおデブちゃんも結構いるのだけれど、こんなパーティでは取りあえず、きれいなお嬢さんやカッコ良い青年だけを見ることにする。


私ももちろん息子達の横でうちの主人とワルツを踊り、昔学生時代に競技ダンスを少しかじっておいて、こんな所で役に立つとは思いもせず、息子に恥ずかしい思いをさせず良かったとつくづく思う。


でも逆に長男のダンスの仕方に口を挟みたくなったのだが、今は「5月の伯爵」の長男なので、今回はぐっと我慢する私で、まずは家に帰ったら一度息子とも特訓だな、と思う。


ドイツ人の主人のダンスもつっこみどころ満載だけれど、うちの主人もダンスパートナーが私のおかげでずい分上達はしたのだ。社交ダンスというものは上手なパートナーがいると自然とだんだん上手になっていくものなのだが、あまり上手ではない主人がダンスパートナーの私は、だんだん下手っぴになっていくようで心配な時がある。


とにかく主人と私のダンスレッスンについてはまた他の機会に書かせてもらうとして、この夢のような一夜は瞬く間に終わる。


いかんせんここは村で、ワルツは一曲で終わり、この曲が終わると同時に、ディスコ風若者パーティへと様変わりしていくからだ。


その上若人達はお昼くらいからお酒を飲んでいるため、この頃にはすでにすっかり出来上がっている青年達もいて、品の良い舞踏会から、村の集会所的なディスコパーティへと雰囲気も一変するのであるが、酔っ払った青少年達が、私の横を通ると

「ありがとう~今日の○○子(私の名前、ドイツでは若者でも子供でもおじさん、おばさんは近所の人なら呼び捨てである)のお寿司は本当に美味しかったよ~」と言ってくれてそれは嬉しかったので、酔っ払いでもよしとしよう。


パレード前の「五月の王様」主催の夕方の小パーティで私は海苔巻きを作って持って行ったのだが、実は私の海苔巻きはこの村、また町でも美味しいと評判で、うちの息子達の友達たちは実はみんな私の海苔巻きのファンなのである。


…と、なんだか手前味噌な話になってしまったけれど、この五月祭の四役についてのもう少し詳しい話は次回へ持ち越したいと思う。

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