第2話 〈でも確かに共通点〉


2019年

年が明けてすぐ

俺の地域では雨が降った。

豪雨中の豪雨。

とても強い雨であった。

車を走らせれば、ワイパーがあっても前が見えないくらいの豪雨。

冬なのに…と、俺は少々残念がっている。

今日は2月9日、土曜日

休日の家、スマホとにらめっこする俺は、何もすることのない午後を静かに過ごしていた。

もう夕方

大切な休日を無駄にした気分だ。


そうである。

この後、インターホンが鳴るのだが、今思っても大切な休日を無駄にした気分である。

そう、【アイツ】が来るのである。



ピンポ-ン!



ナツメ「ん?誰だ?宅配なわけないし……」


俺はゆっくり起き上がり、玄関へゆっくり歩いて行った。

そっと玄関を開けると、そこには子供が一人。

傘もささずに、ずぶ濡れで俯いて

ブカブカの服を着て、旅行鞄のようなものを持っている。

白髪の前髪で目が隠れている。


俺は戸惑った。


ナツメ「……どちら様でしょうか…?」


子供は黙っている。


……胸がでかい…

こいつ…大人か?

これくらい大きい人なんかそうそういないぞ

太ってるってわけでもなさそうだし

女の子なんだろうな

俺の下心が少し疼く


いかんいかん、相手は多分幼女。

連れ帰るところを誰かに見られてみろ、お察しだ。

だが、このまま外に放置するのもな…


俺の大きな善意が疼き始めた。


ナツメ「あー……うちに用事があるなら、入りますか?」


子供は俯く顔を素早く上げ


子供「すまん、住まわせてくれ」


突然だった。

ドアを開け、子供が立ってると思ったら急に住まわしてくれ。


ナツメ「えーと……何言ってるかわかりません……」


すると子供は膝をつき、綺麗な土下座を披露した。


ナツメ「ちょちょ!!」


子供「この通りだ。最悪1日だけでもいい。だから私を……」


ナツメ「ちょっと…!こんなところ見られたら……!」


子供は頭をあげ、地面に強くぶつける。


子供「マジで、困ってるんだ。本当、なんでもするから」


ナツメ「ちょいちょい!」


子供は再び顔を上げ、再び地面にぶつける。


ナツメ「わわわわかったから!!とりあえず、そんなことやめろ!泊めるから!」


子供「本当か!?」


子供は素早く顔を上げる。

額には血が流れ、痛々しくて見てられない。


ナツメ「ああ本当だから……!はやく…!見られたらまずい…!」


俺は近所の目を気にし、子供を中に入れた。

入れるとすぐにドアをしめてひとまず安心。


ナツメ「バスタオルと絆創膏持ってくるから、部屋行って待ってて」


子供「かたじけない」


子供はドアを開け、部屋に入っていく

俺は洗濯機の上に積まれたバスタオルと洗濯機の横の棚に入っている絆創膏を持って部屋に行く。

子供にバスタオルを渡すと、子供は自分の髪を拭き始めた。


子供「部屋を濡らしてしまってすまないな」


ナツメ「大丈夫……じゃないが、お前、名前は?一体何者?」


子供「名前はわからん。何者かを聞かれたら【人間】と答えるが、いいか?」


ナツメ「マジでなんなんだお前…」


子供「言っただろう、わからないと」


ナツメ「わからないって……」


すると子供は急に服を脱ぎ始めた。


ナツメ「はっ!?ちょっと!」


俺はとっさに顔を伏せる。


子供「なんだ?まさかお前、6歳児の体に欲情したわけではないな?」


ナツメ「6歳!?」


チャックを開ける音が聞こえたのち、服を漁るような音が聞こえた。


子供「もう見てもいいぞ」


俺はゆっくりと顔を上げる。


ナツメ「なんじゃ…そのコスプレみたいな服は…」


白いロングコートにホットパンツ……?


子供「わからない、気づけば持っていた」


俺はベットの上に座る。


ナツメ「なんで何もかもわからんのよ?親は?」


子供「いない」


ナツメ「亡くなったか何かか?」


子供「いや、いない」


ナツメ「いない?」


子供「存在がいない、多分」


ナツメ「そんなわけがないだろ?絶対いる、なんのドッキリだ?」


子供「本当だ、気づいたら家がなくて、帰る場所もなかった。気まぐれでここにきたんだ」


ナツメ「はぁ…?」


俺は呆れながら子供に絆創膏を渡す。

子供は困りながら俺に絆創膏を返す。


子供「ん」


子供は前髪をたくし上げた。

俺はため息をつき、絆創膏を一つ取り出す。


ナツメ「自分でやれないのか……」


俺は立ち上がり、子供の額に絆創膏を貼る。

再びベットの上に戻る。


ナツメ「ほれ、終わったぞ」


子供は前髪を下す。

子供はしばらく絆創膏を抑え


子供「暖かいな」


ナツメ「今日は寒いほうだぞ」


子供「お前の手の話だ」


ナツメ「俺の手?」


子供「そうだ、なんかわからないが……意味のわからない暖かさがあった」


子供は額に貼られた絆創膏に手を添える。


子供「さっきも言ったが、私には親がいない…怪我をしても、癒してくれる人なんていない……だから、さっきの暖かさがわからないんだ…」


ナツメ「暖かい……か……」


俺は黙り込んでしまった。

何か、俺もわからない。

こいつの正体は多分、【わからない】が正解なんだろう。

ただ、こいつから感じる冷たい風

これがわからない。

いつか冷やした自分の心を煽るような。

そんな冷たい風。


子供「お前……泣いてるぞ?」


ナツメ「え?」


俺は目の下を軽くこする。

量は少ないが確かに涙を流していた。


子供「だ…大丈夫か……?」


子供は手を伸ばし俺の目の下に触れる。


暖かかった。

わけもわからない。

さっきまで雨に濡れてた幼女の手が異常に暖かい。


ナツメ「な…なんでもないから離れろ…!」




ああ、わかった。


色んなこと、きっと孤独だからだ。


こいつも孤独、俺も孤独

急に押しかけて、住まわせろやら、親は存在しないやら


でも、確かに共通点だ。


こいつが俺の手を暖かく感じたのも、俺がこいつの手を暖かく感じたのも

孤独だから。


なんで泣いていた?


答えは簡単、あの時が蘇ったから。

父のうるさいほどの笑い声、母の静かな笑い声

賑やかな、暖かいあの空間

あの空気に似た今が、俺の涙腺を緩くした。


子供「ぷっ……」


子供が笑った。


子供「お前、名前は?」


ナツメ「ナツメ……だけど……」


子供「じゃあ、ナツメ、私の名前は?」


ナツメ「は?」


子供「気に入ったんだ。私の名前を決めてくれないか?どうせすぐ別れる。この先ずっと使う名前だ」


急に命名をしろとせまられた。

わけがわからない。

ペットじゃあるまいし、真面目にしないとと言う真面目な感情と

なんだこいつ、急にと言う疑問の感情が入り混じった。

その答えは何故かすぐにでた。


ナツメ「……ミミ……とか……?」


そう、この名前である。


子供「……ミミ?意外だな…何故この名前なんだ?」


ナツメ「最近……ミミズクにハマってるから……」


理由はペットみたいだが、これには俺の決意が込められてる。

疑問と決断の最中、俺が最も優先にした感情は【家族】


家族と言う、一つの感情を優先した。


家族と言う感情?

わからないか、そうだろう

きっと、人はこれを【信用】というだろう。


俺には友が何人もいる。

俺がミミズクにハマってることはその友の誰にも知られていない。

今初めて、こいつに明かした。


昔、父が言っていた。


「ナツメ、家族に隠し事をしてはいけないぞ」


俺は問う


「なんでしちゃいけないの?」


父は即答だった。


「バレた時、怒らないといけないからな」


父も母も、俺を信用して愛してくれた。

隠し事をすることはそれを叱らず、あるはずの怒りを無くし、偽りの愛を与えること。

それは親としても子としても、【家族】としても


だから俺は隠さなかった。

俺はミミズクが好き

この前はフクロウカフェに一人で行った。

マスクをしていたから変な目で見られた。


ミミ「ふふ……可愛い名だな……嬉しいぞ…」


こいつも隠してない。

きっと、俺への感情を

だから隠さない。

俺自身の想いを


ナツメ「な……なぁ!」


ミミ「ん?どうした?」


ナツメ「俺さ…住むの、別に今日だけとか言ってないし……」


ミミは口を開け、ポカーンとしている。


ナツメ「親もいないし家族もいないし…子供一人じゃ危ないし…変な奴の家行って変なことされたら嫌だろ……?」


ミミ「ナツメ……」


ミミも察したのか、俺の名前をつぶやく


ナツメ「だからさ……」


俺も本当は嫌なんだ。

恥ずかしい

わからないやつにここまで言うのは

だけど、それじゃさっきの決心は嘘になる。

もう一度決心を固める。





ナツメ「俺がお前の家族になる……その代わりにお前が俺の家族になってくれないか……?」





ミミは笑顔になる。

俺の決心を快く受け取ったのか。

ミミは俺に抱きつく

俺は多少動揺してしまったが、素直に抱き返す。




ミミ「ああ……勿論だナツメ…」




マジで初めてだ。

こんなに、ほぼ初対面の赤の他人にここまでの感情を持ったのは

こんなくさいセリフ言ったのも初めてだ。

なんか、本当に懐かしい気分になる。

ああ、きっと父もこんな時こういうんだな……



ナツメ「髪めっちゃ濡れてるんだけど」


ミミ「絆創膏自分で貼れないんだから頭も自分で拭けないことくらい察せろ」



俺はミミをそっと離し、言った。



ナツメ「ちゃんと言えボケナス」


ミミ「なんだこのちんちくりん」



そう、

ここの家族は隠し事をしない。

ただし、とんでもないくらい正直である。



第3話へ続く……

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