第34話 鶴岡八幡宮へ行こう

 僕は恋結びの宿の美味しい魚や野菜がメインの朝ご飯を優香さんと堪能して二人でしばらく部屋で話し込んだ。

 他愛もない話。

 今日はどこへ行こうかとか。

 自分たちの地元の話とか。


 二人で鶴岡八幡宮に行こうと話が決まった。


 恋結びの宿は一日一日の精算だった。

 出掛けに優香さんの犬のチワワのリルを預けがてら宿のあるじのおばあちゃんに優香さんがまだ支度をしているうちにふた部屋分のお金を払う。


「今夜から二人で一部屋でも良いんだよ」

「えっ?!」

 僕はびっくりした。

 宿の主人のおばあちゃんは屈託なく笑っていた。

「仲良くなったんだから別によくあることだ」

「ちょっ…ちょっと。そんなんじゃないですよ」

 僕は慌てた。だって出会ったばかりだ。そりゃあ優香さんのことは本気で好きになってしまったけど。

「見てりゃあ分かるさ。こちらは構わないから二人で話し合えば良いよ」

 おばあちゃんの顔はにこにことしながら僕を見ていた。

 おばあちゃんは昔話を少しした。

「私はここに旅行に来て漁師だったじいさんに恋をして。そのまま結婚したんだよ。

 結婚するまでたったの一か月だったね。じいさんが死ぬまで62年間ずっと好きだった」

 そうか。

 そんな熱くて純粋な恋愛していたなんて素敵だ。

 おばあちゃんはいくつなんだろう。

 ふと思ってしまった。


 間もなく薄く化粧をした優香さんがふわっとしたシフォン素材のスカートを履いて階段から降りてきた。

 スカートからは細い脚をのぞかせていて僕は恥ずかしくなった。


 暖かい陽気だ。

 僕は優香さんが差し出した宿泊代は受け取らずに「さあ行こうか」と優香さんの手を引っ張った。


 今日は僕の車で観光しようと提案していた。


 時々吹くそよ風が顔を撫でて心地良い。

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