第39話 競い咲く情熱と勇猛

ドレイクは、船の周りを炎の壁で覆うと懐から何やら手榴弾の様な物を取り出して、役小角の後ろにいる前鬼達三人に向けて投げつけた。手榴弾は、空中で炸裂すると硝子の様な見た目の素材で出来た六角形の板が飛び出し、それがパズルの様にくっついて前鬼達を捕らえた。役小角は、それを見ると


「てめえッ!

人質のつもりか?」


と、ドレイクを睨みつけると、それに対しドレイクは


「おいおい、俺はそのお嬢ちゃん達の安全の為にやったんだぜ?

その中にいる限り、お嬢ちゃん達に攻撃が通る事は無い

安心して、俺もお前を攻撃できるって寸法さ」


と、言うと、役小角は前鬼達を見た。すると、後鬼が、


「心配しないで、私達は大丈夫

さっさと彼奴を倒しちゃって」


と、役小角に笑いかけた。

すると、役小角は、微笑み刀を抜くと


「そうか、それじゃあ俺も思いっきり戦える

残念だが、もうこれでお前に勝ち目は無いぜ」


と、余裕の表情で言い放った。

すると、役小角は船を包む炎の壁を竜巻で払い、津波を起こして船を沖へと押しやった。荒波で揺れる船にドレイクは、微笑み


「おいおい、こんな事して大丈夫なのか?

言っておくが、俺達は他の船とは連携して戦わないぜ?

お前の仲間が援護しにくくなっただけだ」


と、役小角を笑うと、役小角は、ギヒッ!と力強く敵意を剥き出しにして微笑み


「いや、これで良いんだ

俺の能力は、本気を出すと仲間を巻き込んじまう

これが俺の実力を全て発揮出来る最善手だ

行くぞ

これが真の神怒伏死・草薙剣たたり・くさなぎのつるぎだッ!」


と、役小角が刀を抜いて叫ぶと、船が大きく揺れた。ドレイクがそれに驚くと、船の下から巨大な水で出来た龍が船に巻き付くように出現していた。さらに、龍の出現を確認すると、船と龍の周りを囲むように幾つもの巨大な竜巻が現れ、空は灰色になり豪雨が降り注いだ。


「はははははッ!

おもしれえッ!

だが、俺も嵐の王ワイルド・ハントと呼ばれた男だ!

これくらい通常運転さ!」


と、ドレイクが高らかに叫ぶと、そこへ突如落雷が降り注いだ。ドレイクは、白い光に包まれて消滅したように見えた。


「俺の真の能力を思い知ったかッ!」


ドレイクが、雷に打たれるのを見ると、役小角は、得意げにそう叫んだ。だが、ドレイクは、落雷を吸収する様に元の形に収束し超高熱の熱波を放つ人型の怪物となった。


「どうしたッ!

こんなもんじゃ俺は倒せねえぞ!」


そう言ってドレイクは、自らの体を纏う炎を悪魔の様な形に変え、役小角に炎のブレスを吐いた。すると、役小角は、船を包む巨大な龍から高圧で水を射出させ、それにぶつけた。二人の攻撃はお互いに反発しあい、船は強力な水蒸気爆発の水蒸気に包まれた。攻撃をもろに受けた二人は、お互いに無事では無いと思われたが、役小角は、自らに風を纏わせても防ぎ、ドレイクは、実体の無い炎となって水蒸気を受け流した。そして、二人は同時に剣を構え、血走った眼でお互いに向かって走って行った。


「「うおおおおおおッ!」」


ドレイクのカトラスが、役小角の刀にぶつかり役小角の刀を折らんばかりの衝撃を与えると、役小角は、刀を強く握り離さないように必死で耐えた。すると、そこをドレイクは役小角の膝を蹴りつけて役小角の体制を崩そうとした。だが、役小角はそれを風で防ぎ、ドレイクの左肩の前に刀と同じくらいの大きさの氷柱を出して、ドレイクに突き刺そうとした。だが、ドレイクは、それを炎で蒸発させた。すると、役小角は、自分の体を霜で覆い自分の背中に追い風を起こし、ドレイク接近してドレイクの顔に頭突きをくらわした。すると、ドレイクはそれに対し、口から炎を吐いて押し返そうとした。だが、役小角は、さらに追い風を強くしドレイクの顔面に頭突きをヒットさせた。そして、怯んだドレイクに向かって刀から雷を放って後方へ吹き飛ばした。


「ぐああああッ!」


ドレイクは、後方に吹き飛ぶとカトラスを右手で持ち、左手を懐に入れると拳銃型のレーザーを取り出し、炎の翼を大きくはためかせてバランスを取りながら役小角に向かってレーザーを放った。役小角はそれを自らの目の前に小さな竜巻を発生させて、そらせると曇天からドレイクに向けて巨大な雷を落とした。すると、役小角は、武装のギミックを発動しその巨大な稲妻を刀の形にすると、巨大な剣と化させ、ドレイクを切りつけた。


「くたばりやがれェッ!」


役小角の懇親の一撃にドレイクは、自らの出せる最大出力の炎を剣の様に噴射し巨大な稲妻の剣を受け止めた。すると、ドレイクは、炎の翼をはためかせ、レーザーを連射しながらカトラスを役小角へ向けて急速に突進した。それに対し役小角は自らの眼前に竜巻を起こしレーザーを弾くと、そのまま竜巻をドレイクにぶつけた。


「ぐおおおッ!」


ドレイクが、竜巻で再び吹き飛ぶと役小角は、刀から樹木の枝が伸びるように複数の切っ先を持った雷をドレイクに放った。その後、さらに追い打ちで刀と同じ大きさの氷柱大量に作り出し、ドレイクへと射出しドレイクに突き刺した。


「うああああああッ!」


ドレイクは、役小角の圧倒的な力を前に為す術無く、雷と氷柱に体を貫かれる。


ドレイクは、満身創痍で膝を着き全身血だらけで、カトラスを杖の様に船に突き刺して、役小角を睨んだ。役小角は、それに対し冷徹に


「お前のチンケな能力では俺を倒す事は出来ない

諦めて、聖遺物を渡せ」


と、言い上空の曇天からゴロゴロと稲妻を見せながら、ドレイクを脅した。すると、ドレイクはコートのポケットに入れた聖遺物を掴み取り出した。役小角は、それに対し


「早くそれを渡せッ!」


と、叫んだ。ドレイクは、その役小角の怒声に震えると、聖遺物を前に投げようとした。そこへ


「もう良いわドレイク

貴方は、そこで休んでいなさい」


と、先程の茶髪の美少女が突如ドレイクの前に現れ、レイピアを持って勇ましくドレイクを庇うと、ドレイクは、それに驚き


「何をしてるんだッ!

隠れてろッ!」


と、叫んだ。すると、茶髪の美少女はそれを聞いてため息をつき、ドレイクに近寄ると、ドレイクの頭を撫で


「はあ、

ねえ、ドレイク

貴方は、私の為に充分戦ってくれたわ

彼に勝てなかったのは、しょうがない事よ

でもね、私は貴方とは違うの

私は、テューダー朝最後の君主

エリザベス一世よ

私は、目の前で国民が無残にやられている所をただ震えて見ている訳にはいかないの

目の前で国民が傷ついたら、その盾となる責任があるの

だから、命令よ

そこで休んでいなさいッ!」


エリザベス一世は、そう言うと役小角を睨みつけ、レイピアを振りかざし黄金の粒子を纏うと、ドレスに甲冑が付与された様な服装みなり


「さあ、私が相手よ

かかってきなさい!」


と、勇ましく叫んだ。すると、エリザベス一世の叫びに呼応する様に、雲が晴れ、見た事が無いほど巨大な太陽が顔を出すと、船を包む龍の体が崩れた。


「この私は、無敵艦隊を滅ぼした腐敗の女王

太陽を落とした女よ?

貴方如きでは、勝てる見込みは無いわ」


エリザベス一世は、そう言うとレイピアを役小角に向けた。すると、空に浮かぶ巨大な太陽から無数の熱線が役小角に降り注いだ。

すると、役小角は、それを防げぬと思い


「中鬼、頼む!」


と、叫んだ。すると、中鬼は


「任せてください!」


と、能力を発動させて、役小角を熱線から守った。すると、エリザベス一世はそれを見て


「セシル、彼女らを退席させなさい」


と、言った。すると、突如男の声がして


「かしこまりました女王陛下」


と、言うと前鬼達の姿が消え始めた。役小角は、それに驚きエリザベス一世に向かって走り刀で斬りかかった。だが、エリザベス一世は、レイピアを片手で持ち、刀を受けると強く踏み込んで役小角の顔面を殴りつけた。役小角は、その一撃で吹き飛んだが、すぐ様風を纏い体制を立て直すと、再びエリザベス一世にきりこんだ。だが、エリザベス一世は華麗に役小角の刀を払い、今度はそのまま役小角の腹にレイピアを突き刺した。


「ガハッ!」


役小角は、俯いて血を吐くとエリザベス一世は、役小角の横腹を思い切り蹴って船の外まで吹き飛ばした。

役小角は、船の外まで吹き飛ぶと津波を起こし、クッションにして衝撃を殺すと、そのまま津波と共にエリザベス一世の元まで迫った。だが、エリザベス一世は、太陽から熱線を放ち津波を蒸発させ、役小角を熱線で貫いた。


「ああぁっ!

ぐっ、あっ...」


役小角は、体に大穴を開けられ、そのまま息絶えた。


役小角は、屋敷の復活場所で目覚めると、己の無力さに絶望し慟哭した。


クリエイターは、屋敷復活場所でそんな役小角の姿を見ると、聖と繋いでいる手をぎゅっと握り、力強く役小角にこういった。


「君は、今まで彼女たちの為に必死で戦ってきた

その度に君は憤怒し、敵に立ち向かった

今回もそうだ

だが、君は罪である憤怒を未だ発揮仕切ってはいない

それは、己で自らに内に眠る怪物を押さえ込んでいるからだ。

君が生前に何をし、何を思って彼女達を必死で守るかは、僕は知らない

だが、君は己の中の正義を決して曲げない

だから、僕は君には何も言わない

君は、自らに既に戒めを与えている

今は、その戒めを破る時だ

決断しろ

己を奮い立たせる為に!」


僕が、そう言うと役小角は、少し考え込み頭を抱えた。そして


「俺は無力だ

お前は前々から俺の実力を買って俺にグラスホッパーと同じ様に最前線で戦う事を命じた

だが、何度も見て来てわかるだろ

俺は、ただの役立たずなんだって

俺は、生前から何も変わってない

何も変えられないんだ!」


と、強く慟哭した。

すると、クリエイターは、


「いや、変わったさ

君は、頼れる者を得た

それは僕だ

君は、生前恐らくは、誰も頼れなかったのだと思う

だが、今は僕がいる

それは、絶対に変わる事は無い

君がどんな状態であろうと

僕は、君を見守り続ける

その印に右手を見ろ」


と、言った。すると、役小角は、自らの右手のグロリオサの刺青を見た。


「それは、僕が君達に与えた

無謬の信頼だ

君は、その信頼に応えられる

さあ、立ち上がれ!」


クリエイターが、そう言うと役小角は、力無く立ち上がり、こう呟いた。


「聴けッ!

右手に刻むは己の写し身

醜い柳と勇猛さ

かざ

憧れ焦がれた炎の華ドアスト・グロリオサッ!」


役小角が、そう叫ぶと右手の刺青が真紅に輝き、紅に咲き誇るグロリオサの花が浮かび上がって役小角を包むと、役小角の武装が変形しシンプルな体にフィットする形の漆黒の鎧の武装へと変わった。その武装の胸には、纏わり付く様にグロリオサの紋様が現れ、輝いた。すると、クリエイターは、


「行け

己の憤怒を解放しろ

それこそが君の唯一出来る贖いだ」


と、言うとグラスホッパーを呼びつけて、役小角を元いた船へと戻した。


船へ戻ると役小角は、漆黒に変色した刀をエリザベス一世へ向け、鋭く睨みつけ


「俺は、憤怒の悪魔

誹謗する者 サタンだ

俺は、生前の怒りをお前に向け

全精神を持ってお前を糾弾する

さあ、弁明しろ

エリザベス一世

腐敗する精神に膝を着いた女王よ

お前は、国民を守り切れなかったッ!」


役小角が、そういうと、エリザベス一世は、曇り無き眼で役小角を見つめレイピアを向けると


「私は、弁明などしません

あの拭い難い憂鬱は真に人を思ってこそ

だから、私はこう応えます

私の生涯は救済に使い果たした

ですから私は、貴方には負けません

己の正しさを貫く為に!

国民の笑顔を後世纏わり付く汚泥で汚さない為にッ!」


エリザベス一世は、そう宣言するとレイピアを構え、役小角は、それに迫った。

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