第27話 運命と自由意志と自殺について

ハヌが、黄金の粒子で出来た腕でモフタールを切りつけると、モフタールはそれを剣で捌き、ハヌへ迫った。

目の前の華奢な少女を見て黄金の粒子さえ避ければ余裕と踏んだモフタールは、剣を両手で持ち上段からハヌを切りつけた。すると、ハヌはそれを右手で剣を振って払い、左手でモフタールの腹を殴り付けた。


「ぐあッ!」


ハヌに腹を強打され、血を吐き出したモフタールにハヌは容赦無く緬甸刀びるまとうで顔を突き刺そうとした。モフタールは、それを背中の羽根で体を包む様にして避けた後に、羽ばたいて上空から漆黒の羽根を飛ばしハヌを攻撃した。すると、ハヌはその羽根を剣で軽く払い除け、左手に黄金の粒子で作った槍を出してモフタールに投げつけた。


「くらえッ!最高神の加護を受けし技能ブラフマーストラッ!」


モフタールは、高速で投げつけられた槍を剣で払おうとしたが、剣に触れると黄金の粒子で出来た槍ブラフマーストラが、剣を通り抜けモフタールの体を貫いた。


「かはッ!」


胸を貫かれたモフタールは、地上に落下しその落下したモフタールをハヌは、黄金の粒子で出来た腕に持った剣でバラバラに切り刻んだ。モフタールが、ミンチになった事を確認するとハヌは後ろを向いてクリエイターに微笑んだ。


「ご主人様、ご命令を遂行しました」


ハヌがそう言うと、クリエイターは、ハヌに


「良くやった」


と、言って頭を撫でるとマイスターの元まで歩いて言った。


「マイスター、先に戻って他の皆と聖を守っていてくれ

僕は、アイツらのボスに用事がある」


と、優しく言った。

すると、マイスターは今までのクリエイターとは明らかに違う様子を見て困惑したが、彼の真剣な目を見て


「わかった

気をつけろよ」


と、言うと魔法を発動して屋敷に帰って行った。

マイスターが、戻ったのと同時に今まで聖の傍にいたルベが、クリエイターの元へ現れた。


「ご主人様、ご命令通り他の能力者に聖様を任せ、ご用命に拝しました」


ルベは、眼鏡をクイッと上げながらそう言うと武装をして戦闘体勢に入った。


「では、行くとしようか」


クリエイターは、そう言うと異空間倉庫から、新しい玉座を出して腰掛けた。玉座は、金で縁取られた血が乾いた様な色をしており、背もたれの上部に蛇の頭、肘置きの左側に猿の頭、右側に犬の頭の装飾があり、足は無くソファの様に下が台になっている。クリエイターが腰掛けると台から蟹の様な藍色の甲羅を持つ蛸の様な足が生え、自動で歩き出した。三人のメイドは玉座の前に立つとクリエイターは、魔法でオサマ・ビン・ラディンの元へ向かった。


モニターでクリエイターが来るのを見ていたオサマ・ビン・ラディンは、立ち上がってクリエイターを迎えた。

突如、漆黒の羽根を吹き荒らしながら現れたクリエイターは、オサマ・ビン・ラディンを見ると、メイド達にこう命じた。


「三人とも、此方の客人に挨拶をしろ」


まるで吹雪の様な冷たく淡々と言い放たれたその言葉に三人のメイドは動きを揃えて礼をし


「「「かしこまりました、ご主人様」」」


と、応えると魔法を発動した。


「「「聴けッ!

この眼、この腕、この髪は、

主が与えた無償の愛

煉獄の神は高らかに

我の勝利を宣言し、

我、謹んでその命を果たす

確定した戦慄ワー・ベッフィエル」」」


三人が、同時に魔法を詠唱し、黄金の粒子で出来た巨大な犬の頭が三つと、凄まじく巨大な蛇が一匹、巨大な猿の腕が十本現れた。

それに驚いたムジャーヒディーン達は一斉に銃を構え、クリエイターの玉座に向かって四方八方から膨大な量の銃弾を浴びせた。

だが、最早メイド達は玉座を守る事もせずに敵をゴミを見るような目で見つめながら、主の指示を待っていた。


クリエイターの玉座に向かって放たれた銃弾は玉座の周りで謎のエネルギーで阻まれ、全ての弾が地に落ちた。

それを見て恐れを成した兵士達は、クリエイターに次々と弾を打ち続けたが、無意味だった。


「無駄だ

この玉座はメイド達の命と魔法で繋がっている

この三人を殺すまで僕を傷付ける事は出来ない」


クリエイターが、そう言いながら手を振って払う動作をすると、玉座から伸びた蛸の足が兵士達を振り払った。


「「「「「「うああああああッ!」」」」」」


巨大な蛸の足に吹き飛ばされた兵士達に見向きもせず、クリエイターは、オサマ・ビン・ラディンに話しかけた。


「お前の行動は仲間達の武装に付いたカメラで把握しているぞ

オサマ・ビン・ラディン

何の用でこの煉獄に足を踏み入れたかは知らないが

今すぐ出ていけ

さも無くば、お前を殺す」


クリエイターが、怒りに燃えた眼でビン・ラディンを睨みつけながら、氷の様に冷たい言葉を放つと、ビン・ラディンは、落ち着き払って


「煉獄の神よ、まずは

此度の勝手な侵入及び仲間への暴挙について私から正式に謝罪したい

本当に申し訳無い事をした

そして、我々がこの煉獄に来た理由については誠に勝手ながら我々には助力をして欲しいと言う物だ

我々が行った暴挙についてだが、それも理由がある

其方の力を確かめたかったんだ

どうか、ご理解頂きたい」


と言うと、クリエイターは激怒してこう言った。


「助力が欲しい?

力を試させて貰った?

ふざけるな!

そんな事で僕達を攻撃したのかッ!

お前らの仲間が僕達にやって来た事を水に流す理由がそれだけだと言うならば

今直ぐにお前を殺すッ!」


今までに見せた事が無いほどに怒り心頭なクリエイターにメイド達も怯えたが、ビン・ラディンは、それに怯まずに


「どうか、わかって欲しい

我々が其方の仲間を殺したのも其方の兵士が不死身と知った上でだ

それに、我々にはもっと崇高な理由があるんだ」


と言うと、クリエイターは、


「では、崇高な理由とは何なのか言ってみろ」


と言い放つと、ビン・ラディンは、


「我々の目的は辺獄にいる我らが同士達を救出し、

辺獄を訪れた地獄の主の目的を阻止する事だ」


と、言った。それに対しクリエイター


「地獄の主?

それに、お前達が辺獄にいた?

それは無い

お前達の生前を知っていれば誰でもわかる嘘だ

何故ならば、お前達は確実に地獄行きだからだ」


と、返すと、ビン・ラディンは


「確かにそうだ、我々は死後直ぐは地獄にいた

だが、君達も知っているだろう

生と死を司る神が我々を辺獄に送ったんだ」


と、言った。すると、クリエイターは、


「あの神が、どうしてお前らをわざわざ、辺獄に送るんだ

それも、嘘だ」


と、返すと、ビン・ラディンは、


「いや、嘘では無い

今の辺獄は君達が知るそれとは大きく変わってしまった

無神論者が極端に多い現在、

辺獄は、溢れかえり飽和した

そこで、生と死を司る神は辺獄を通常の死者の物では無く、歴史に残る程の功績を残したまたは、世界に名がしれた者を集め、死後の平穏を与える場所にした。」


と、ビン・ラディンが言うと、クリエイターは、


「では、その話が本当だとして、君達に何があった

そして、何故、僕の存在を知っている」


と、ビン・ラディンに尋ねた。すると、ビン・ラディンは、


「話を受け入れてくれて感謝する煉獄の神よ

それでは、話そう

ある日、我々の元に、我々も目的はわからなかったが、

地獄の主が訪れた

彼は、生と死を司る神と、天国の主の人間を扱う考えが間違っていると言い、

我々にその二人を倒す手伝いをしてくれと頼んできた

最初は、誰も気にも止めなかったが、

ある時、地獄の主が私達に聖遺物を持ってきて

この力を使えば、こんな場所で永久に過ごすよりももっと、良い事が出来ると言った

暇にうんざりしていた我々は、それに応じ力を求めてこの煉獄を襲い始める算段をし始めた

すると、そこに地獄の主がいない時を見計らい、生と死を司る神が辺獄を訪れた

すると、彼は地獄の主の考えが間違っている暴挙を止めてくれと、我々に頼み込んできた

二人の神から正反対の頼みを受けた我々は、各々、どちらに付くかを決めて別れた

私とアルカイダ、シャフリアールとシェヘラザード、マルコ・ポーロは生と死を司る神に付き、それ以前に君達を襲った奴ら全員が地獄の主に付いた

そこで、ここからが頼みだ

我々と共に生と死を司る神の側に付いた仲間達が、地獄の主の仲間の内、かなり強力な部類に入る者達に囚われている

君達には、それの救出を手伝って貰い、我々と一緒に地獄の主を倒して欲しい」


ビン・ラディンが、事情を全て説明すると、クリエイターは、最後に


「何故、僕を頼ったのかを聴いていないぞ」


と、言った。すると、ビン・ラディンは、微笑んで


「生と死を司る神が言ったんだ

煉獄に私の継承者がいる

彼らを頼ってくれ

私の継承者は、私が知る中で最も正しい人間だとね」


それに、クリエイターは、こう応えた。


「僕が、正しい人間だと彼は言っていたが、

僕は、いや、僕らは何も成し遂げていない自殺者だ

君達の様な人間の助けになるとは思えない」


と、クリエイターは、言った。するとビン・ラディンは、


「いいや、それは違う

君達、自殺者は、偉大な人間だという運命を用意されていた

神が君達を見込んだのだからその筈だ」


と、ビン・ラディンは、言った。だが、クリエイターはこう続けた。


「では、何故

僕らは惨めな人生を送ったんだッ!

勝手な事を言うな!」


と、激怒した。それに対しビン・ラディンは、諭す様にこう言った。


「確かに、君達は凄惨な日常を送ったのだろう

だが、それは運命では無い

ただ、間が悪かっただけだ」


と、応えた。それに対しクリエイターは、


「間が悪かった?

そんな事であの理不尽を納得出来るかッ!

神が、運命を与えるのならば、そんな回りくどい事はしない筈だ

偉大な人間になる為の運命ならば、僕らの人生は幸福に満ちていた筈だッ!」


と、怒鳴った。それに対しビン・ラディンは、再び諭す様に


「君達は、一つ勘違いをしている」


と言った。クリエイターは、それを


「なに?」


と、怪訝そうな顔で尋ねると、ビン・ラディンは、


「運命とは、神が与える物では無い

神は、運命を用意するだけだ

出なければ、我々の自由意志に意味は存在しなくなる

つまり、君達は用意された偉大な運命に辿り着けず

半ばで力尽きたんだ

そうだろう

偉大な人間の人生が生まれた時から、幸福何て考えは愚かだッ!

だが、君達の神が、君達の死後に、君達の運命を能力と言う形で君達に届けた

君達は、それに応えねばならないッ!

そうだろう

それが、私が君達の元に訪れた理由だ

さあ、君達の持つ偉大な運命を持って

共に地獄の主の暴挙を止めよう」


と、言った。僕は、それを少し考え

そして、玉座から降りてビン・ラディンに手を伸ばした。


「わかった

共に神の考えの正しさを証明しよう」


と、二人握手をし


「ありがとう

君達を頼った神の考えは間違いでは無かった」


と、ビン・ラディンが、感謝の言葉を述べ僕達は屋敷へ戻った。

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