第8話 彼の賢者はこう言った全ての物は毒だとそれは、愛もか

「誰か、誰か

助けて!」


と咲が天に向かって叫ぶが何も起きるはずは無く、

吉備津彦命は、咲を殺そうと寸前まで迫る。


咲は、怯え切った表情で逃げる事も出来ず震えていると


「では、これで終いか」


と吉備津彦命は、つまらなそうに咲に刀を振り下ろそうとした時


「クソッ!

もう、見ていられない!

おい、お前!

咲から離れろ!」


と叫び声がした。


吉備津彦命が、驚いて振り返ると

そこには、白衣を着た男が立っていた。


「聡?...

なんで?...」


と咲が、驚いて震えながら尋ねると


「実はその...

君をつけていたんだ

...

まあ、話は後でしよう

今は、此奴を倒す

そこで、見ていてくれ!」


とバツが悪そうに言う

ピキニ・カイカイに


「なんだ、まだ仲間がいたのか

面白い

さあ、この俺を倒して見せよ!」


と吉備津彦命は、嬉嬉として刀をピキニ・カイカイに向けた。


ピキニ・カイカイは、ポケットからクリエイターから貰った武装を取り出して胸に取り付けると武装のギミックを発動した。


胸に着いた武装からナノマシンが飛び出して、

ピキニ・カイカイの体を包むと

中世の甲冑をベースにした武装された鎧に鉄仮面を付け、

腰には、弾納の様なポーチを幾つもついており、上から緑と金のコートを羽織り、フードを被った姿となった。


その姿に変身すると、ピキニ・カイカイは、コートの袖からベレッタ92拳銃を一丁取り出して、吉備津彦命に向け銃弾を放った。


吉備津彦命は、銃弾を刀で切り裂き、

ほくそ笑むと

銃弾の内部から飛び散った液体が吉備津彦命の手に触れ吉備津彦命の手の表面を溶かし、骨を顕にした。


「うああッ!」


吉備津彦命は、骨が見えた手を抑えて叫ぶと

ピキニ・カイカイは、続けて三発の銃弾を吉備津彦命の体に命中させた。


「ああああッ!」


吉備津彦命の鱗を溶かし、体に染み込んだ銃弾は、吉備津彦命の体を徐々に溶かして行った。


「貴様、何をした!」


体に染み渡る今まで経験した事の無い痛みに耐えながら、

吉備津彦命は、叫ぶと


「クリエイターが作ってくれた王水入りの銃弾さ、

当たるとただじゃ済まないぞ!」


ピキニ・カイカイは、そう言うと得意げに銃弾を放ち続けた。


「小癪な!

そんな玩具なんぞで俺を倒せると思ったか!」


吉備津彦命は、そう言うと体を炎で覆い、

体に触れる前に銃弾を蒸発させた。

だが、ピキニ・カイカイは、そのまま銃弾を弾が切れるまで打ち続けた。


「無駄だと言っておろうが...」


景気良く銃弾を蒸発させた吉備津彦命は、

突如、強烈な目眩に襲われ、酷い立ちくらみを起こした。


それを、見たピキニ・カイカイは、笑いながら


「ははは!

流石は、科学の発展が乏しい時代の人間だ

何が起きているかわからないだろう?

お前が、今燃やしている薬品は気体にすると、二酸化窒素に変化する

まあ、二酸化窒素も知らないだろうが、

要するに、お前の肺と血液にダメージを与える毒に変わるんだよ!

そのまま、窒息しろ!」


とピキニ・カイカイが笑うと

吉備津彦命は、顔を真っ赤にして悪鬼の様な表情になると


「ぐぬぬ

何処までも、俺を馬鹿にしおって

許さん!

貴様は、許さんぞ!

神聖な決闘に毒物を持ち込む様な外道を生かしてはおけん!」


と叫ぶと、急に体調が良くなった様に、

立ち直り、ピキニ・カイカイを睨みつけた。


「そうか、辺獄に帰ったら文永の役で戦った

モンゴル人にそう言ってやれ」


と負けじと見下し、

ピストルに弾を込めた。


「そんな口を叩けるのも今のうちだ!」


そう言うと、吉備津彦命は、翼で低空飛行し、炎を纏った状態でピキニ・カイカイに突進した。


それを見たピキニ・カイカイは、腰についているポーチを自動で開かせ中のカプセルを地面に落とした。

そのカプセルは、金属質の銀色をしたスライムになると、

吉備津彦命の動きを止めるために吉備津彦命に張り付いた。


「うあ!

なんだ、これは!

貴様、また卑怯な手を」


そう言って、吉備津彦命はスライムを振りほどこうとするが、スライムが、動く程にまとわりつき、全身を覆って動けない。


ピキニ・カイカイは、その隙にコートの袖から消火ボールを取り出すと、吉備津彦命に投げつけて、周りの炎を消火した。

すると


「ははは!

どうした手も足も出ないか?

お侍様〜

早く、倒して下さいよ!」


とピキニ・カイカイは、全力で吉備津彦命を挑発した。


「ぬああああああッ!

貴様、許せん!

絶対に許さんぞ!

そこに直れッ!」


と叫びながら、吉備津彦命は、必死に前に進もうとするが、スライムが絡まりすぎて足を前に出す事も出来ない。


「それ、もう終わりにしよう

そいつを串刺しにしろ

シェイプシフター!」


とピキニ・カイカイが、スライムの名を叫ぶと、

スライムから、硬化した無数の棘が飛び出し、

吉備津彦命を串刺しにした。


「がはッ!」


と吉備津彦命が、吐血すると


「それ、お代わりだ!」


とピキニ・カイカイは、ポーチからもう一体シェイプシフターを取り出すと吉備津彦命の口に向けて放った。


「あがあああ、

ああああ、

おおおおああッ!」


口の中から、体内に侵入しようとするシェイプシフターを必死で口を閉じて防ごうとする吉備津彦命だが、シェイプシフターは、鼻や、耳、終いには、目を貫通して体に侵入した為、無駄だった。

シェイプシフターが、体内を這い回り、苦しみ藻掻く吉備津彦命を見ながら、ピキニ・カイカイは、無情に


「やれ、シェイプシフター!」


と叫ぶと、シェイプシフターが、体内で無数の硬化した棘を飛び出させ、吉備津彦命は弾けた。


ピキニ・カイカイは、それを見ると急いで咲に向かって駆け寄った。


「大丈夫か?」


と優しく微笑んで手を差し伸べるピキニ・カイカイに咲は、その手を振り払い


「な、何!?

どうして...

どうしてもっと早く出てこなかったの!?

それに、私をつけてた?

最低っ!

貴方は、自分の事しか考えられないクズよ!

貴方が、

貴方がもっと早く来ていたら

みんな、死なずに済んだのに!

離れてよ!

この化け物!」


と咲は、涙を流しながらピキニ・カイカイを睨みつけて怒鳴った。


ピキニ・カイカイは、それに


「もし、私がもっと早く出ていたら

私も一緒に殺されていた

私が、彼奴に勝てたのは、他の奴が彼奴と戦っていた所を冷静に観察していたからだ!

君は、まだ子供だから大きな目で物事を捉えられないだけで、私の判断は正しい!

死んで言った奴らも全滅するよりも、

私と君が助かる方を選ぶはずだ!」


と顔を赤くして怒鳴った。

それを、見た咲は、


「貴方は、私を拉致して違法な人体実験をした怪物じゃない

そんな人が、目の前で味方がやられている所を見ていたと言って

誰が、それを正しい行いだって言うのよ!

貴方なんかに助けられるくらいなら、

いっそ殺された方が良かったわ!」


と咲が、怒鳴り返すと

ピキニ・カイカイは、目を瞑り、深呼吸をしてから

まだ、少し怒りの色は見えつつも、

落ち着いて彼女を諭す様にこう言った。


「聞いてくれ、

僕が、君だけを助けたのは

君を愛しているからだ

それは、今も昔も変わらない

それは、君もわかっているだろう?

だから、君がこれを受け容れるには厳しいかもしれないが、あえてこう言う

私は、いや、人は、

窮地に陥った時、助けるのは愛する物だけだ

君が、何と言おうと私は君を苦しみから救う為に全力を尽くす

私が、クリエイターの屋敷に来てから君は、

私を少し避けつつも歩み寄ろうとしてくれた

私は、それが何よりも嬉しかった

だから、君が何と言おうと私は、君の命を最優先させる!

好かれて君が、死ぬよりも、

憎まれながらも生きている方が良い!」


それを、聞いた咲は


「最低ね

人間のクズよ

貴方なんかを愛する人は、

精神状態のイカれた無知な子供しかいないわ

私は、もう違う!」


と突き放す様にそう言った。


それを聞いたピキニ・カイカイは、

酷く哀しそうに


「そうか、

だが、私の気持ちは伝えたぞ」


と言った。


それを、聞いた咲がピキニ・カイカイを罵倒しようと

すると、顔が恐怖の色に染まった。


「どうした?

私を見て怯えているのか?」


とピキニ・カイカイが、呆れて言うと


「違う...

後ろ...」


と咲が、指を指してそう言うと


「なんだ?

貴様ら恋仲だったのか

だが、残念

振られてしまったな

ならば、男は引き下がるのみだよ

こんな風になァッ!」


金色の粒子を体に纏った吉備津彦命が、後ろからピキニ・カイカイの首を掴んで後方に、振り向いて放り投げた。


「聡ッ!」


驚いて咲が叫ぶと

ピキニ・カイカイは、シェイプシフターをクッションにして着地した。


「安心しなさい

何があっても君だけは助けるよ」


ピキニ・カイカイは、起き上がってそう言うと

ピストルを構え、シェイプシフターを吉備津彦命にけしかけて


「何度、復活しようと

同じ様に倒すだけだ

私に、遊びは無いぞ」


ピキニ・カイカイが、険しい顔でそう言うと


「遊びが無いのは当然だろう

真剣勝負だからな

だから、俺も全力で行かせて貰う

やっと君に私の能力を見せてやろう」


と少し笑って吉備津彦命は、言った。


「何?

その姿は能力では無いのか!?」


とピキニ・カイカイが、動揺すると


「ああ、これは生前から出来る事さ

私のの威力は絵物語の武勇を現実に起こす能力

相手に勝利する能力だ!」


そう言うと、吉備津彦命は、シェイプシフターを切り裂いた。


「馬鹿め

切った所で無意味だ」


ピキニ・カイカイが、嗤笑すると


「それは、どうかな」


と吉備津彦命が言い

シェイプシフターが、溶ける様に崩れた。


「何だと!?」


ピキニ・カイカイが、驚いているのを許さず、

吉備津彦命は、ピキニ・カイカイに鋭く斬り込む。


「さあ、この俺に打ち勝って見せよ!」


と吉備津彦命は、ピキニ・カイカイの胴体を一刀した。


「ぐふっ!」


とピキニ・カイカイは、怯んだが、

ポーチからシェイプシフターを取り出して、

吉備津彦命に這わせ、動きを封じた。


「こんな手に何度も引っかかるか!」


とピキニ・カイカイは、

右腕でピキニ・カイカイの首を掴んで前に放ると

体から炎を出してシェイプシフターを焼いた。


ピキニ・カイカイは、ポーチからもう一体シェイプシフターを取り出して体勢を立て直すと今度は、自分の体に這わせた。

そして、コートの袖から、短剣を取り出して

吉備津彦命に向けた。


「はははっ!

そんな、ちっぽけな刃で俺に勝てるとでも?」


と吉備津彦命は、それを笑ったが、

ピキニ・カイカイは、それに嗤笑で応え


「見かけに惑わされるなよ?

覚悟しろ

私も全力で行かせて貰う!

これなるは、化学の祖なる

錬金術の完成形

その大いなる力を持って怨敵を討ち滅ぼせ

アゾット剣ッ!」


そう言うと、ピキニ・カイカイは、自分の喉にアゾット剣を突き刺した。


「なんだ、自害か

つまらん」


と吉備津彦命が、言い放つと

ピキニ・カイカイの首に突き刺さるアゾット剣が深紅の光を放ってバチバチと紅い電流がピキニ・カイカイの体に流れた。


「うおおおおおッ!」


すると、ピキニ・カイカイが雄叫びを挙げ、

ピキニ・カイカイが、来ている甲冑全体に深紅に輝く電が描かれると、それに合わせシェイプシフターも紅く染まり、鉄仮面の右眼の穴からは、煌々と輝く炎が飛び出した。


「なんだ、何をした!」


と吉備津彦命が、叫ぶと


「私の能力は、自由に薬品を生成出来る能力だ

その能力で、賢者の石を薬品と定義し、

クリエイターにそれを補強する様に武装を設計して貰った

今の私をただの人間だと思うなよ!」


そう言うと、シェイプシフターの一部がアゾット剣を包み込み、アゾット剣をロングソードに変えると

ピキニ・カイカイは、吉備津彦命に斬りかかった。


「面白いッ!

やれば出来るではないか!」


そう言うと、吉備津彦命は、嬉しそうに

ピキニ・カイカイの剣を刀で受けた。

すると、ピキニ・カイカイを纏うシェイプシフターの一部が硬化し、棘となって吉備津彦命の体に突き刺さった。


「ぐあッ!」


吉備津彦命が、怯んだ隙に、

ピキニ・カイカイは、超人的な力で吉備津彦命に押しかって刀を払うと吉備津彦命の右腕を切り裂いた。


「小癪な!」


と吉備津彦命が、刀に炎を纏わせ、

左手で握った刀でピキニ・カイカイの持つロングソードを超高温で斬り裂いた。


「どうしたッ!

我が右腕を落としただけで満足か!」


と吉備津彦命が、叫ぶと

ピキニ・カイカイは、強気に


「貴様相手に刃は不要だ!」


と叫び、

吉備津彦命の顔を殴りつけた。

すると、それに応えるように吉備津彦命も刀を捨て、

ピキニ・カイカイに殴りかかった。


「負けるかッ!」


と吉備津彦命は、雄叫びを挙げて

ピキニ・カイカイを全力で殴り付けるが

ピキニ・カイカイは、その拳をシェイプシフターを硬化させた棘で貫くとそのままシェイプシフターを吉備津彦命の体に侵入させた。


「これで、終わりだ!」


とピキニ・カイカイは、シェイプシフターが入り切ると

吉備津彦命の顔を数発殴り、

吉備津彦命が、怯むと

吉備津彦命の腕を掴み体内からシェイプシフターに吉備津彦命の足を地面に固定する様に棘を出させ固定させると、

全力で吉備津彦命の左腕を引きちぎった。


「ぐああああああああッ!」


絶叫する吉備津彦命を無視し、

ピキニ・カイカイは、地面に固定された吉備津彦命の胴体を連続で殴り続けた。


「死ねッ!死ねッ!死ねェッ!」


ピキニ・カイカイは、吉備津彦命の体の鱗が剥がれるまで殴り続け、肋を全てへし折ると


「弾けろッ!

シェイプシフター!」


と叫び、

吉備津彦命の体内でシェイプシフターを硬化させ、

爆散させて吉備津彦命の体を内側から破裂させた。


「煉獄の住人を舐めるなッ!」


ピキニ・カイカイが、そう言って立ち去ろうとした時、

吉備津彦命の体が、黄金の粒子で覆われ、


「我が身を守れッ!

セバスティアヌス・アローッ!」


と首だけ残った状態で咆哮すると、

吉備津彦命の体は、元通りに戻った。


「何だと!?」


ピキニ・カイカイが、動揺して

吉備津彦命の顔面を殴り付けようとすると、

吉備津彦命は、それを片手で受け止め

ピキニ・カイカイの拳を握り潰した。


「うあああああああッ!」


ピキニ・カイカイが、右手を抑えて絶叫すると

吉備津彦命は、ピキニ・カイカイの髪を掴んで、

ピキニ・カイカイの体を炎で覆った。


「ぐああああああああッ!」


身が焼ける苦痛にピキニ・カイカイが、悶える。


「俺は、誰にも負けんッ!

そう、誰にもだッ!

貴様らが、何をしようと必ず打ち勝つ

それが、俺と言う存在だッ!」


吉備津彦命は、燃えるピキニ・カイカイを咲の方に放り投げると


「さあ、次はお前だッ!

この愚か者の様に貴様も消し炭にしてやる!」


と言うと


ピキニ・カイカイは、体を炎に焼かれ、

朦朧とする意識の中で


「咲、逃げろ

今すぐ、クリエイター達の所へ行け...

お前だけでも、助かってくれ...」


と泣いた様な声で言った。

吉備津彦命は、それを足蹴にして


「ふあははッ!

惨めよな〜

だが、これも敗者の常

貴様もこうなる

逃げても無駄なのは、わかるだろ?

さあ、立って戦えッ!」


と咲を挑発した。


それを、見た咲は、

泣きだし、


「そんな、

そんなになる迄、戦わなくても

なんで、なんで私にそこまでするの?」


とピキニ・カイカイに告げた。

すると、ピキニ・カイカイは、


「何度も...言って...るだろう...

君を...愛して...」


と言い残し、意識を失った。

咲は、そんなピキニ・カイカイの言葉を聞くと


「うあああああああああッ!」


と叫び出して、立ち上がった。

叫び出した咲の体からは、バキバキと言う音を立て、

肉がグチャグチャに動き出すと

怪物の様な姿に変身した。


「なんだ、小娘

物の怪の類であったか

ならば、容赦はせん」


と吉備津彦命は、咲に刀を振り下ろした。

すると、咲は手を上に伸ばし、

顔を伏せながら、刀を握って砕くと


「私は、物の怪なんかじゃない

人類の進化の証

全ての人の幸福の礎ッ!

この人が描いた理想の形なのッ!

それを馬鹿にする事は、私が許さない!」


と顔を上げ、涙を流しながら吉備津彦命を睨みつけた。

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