第105話 【Side:アリス】魔法少女ステラについての考察
虐殺現場から脱出し、半裸だったわたしはリフィーのおかげで、ご厄介になっている勇者クリスティーナの屋敷まで戻ることができた。
早速自室のシャワーを浴びようと血で汚れた下着を脱ぎ捨てた時、ドアをノックされた。急ぎバスタオルを身体に巻いてから返事をする。
「私だ。開けろ。」
ドアを開けると、リフィーはクリスティーナからの命令が届いたことを告げ、すぐに出発しろと促す。
「せめてこの汚れた身体を洗うまで待って欲し……」
「ダメだ。服だけ着て出発だ。それに……風呂ならすぐに入れよう。だが、何故お前なのだっ!」
かなりの苛立ちを身体で表現するリフィー。殴った壁に亀裂が入る。わたしの借りている部屋なんだけどな……。
「分かりました。すぐに支度をします。」
リフィーはドアを開けたまま支度の様子を眺めていた。廊下を誰が通るか分からないので、せめて閉めて欲しかったがそんな気遣いは無く、わたしも願い出ることは出来なかった。
「行くぞ!」
結構こういうパターンが多いけど、どんな命令をクリスティーナはしたのだろうか?敢えてリフィーの逆鱗に触れるようにしているのではないかと疑いたくなる程に。
◇◇◇
リフィーが操る馬上で説明があった。
クリスティーナは上流階級の社交場『ヘブンズパレス』最上階のマスタールームにわたし一人で来るようリフィーに命じたとのこと。
リフィーは『ヘブンズパレス』入口でわたしを下ろすと言葉無く去って行った。できればリフィーとも仲良くしたいのだけどな。溜め息が出てしまう。
わたしは『ヘブンズパレス』の黒服に案内され最上階のマスタールームへ通された。
以前にも2度程このマスタールームに連れてきてもらったことがあり勝手は知っていた。まだクリスティーナが来ていないので、さっき入れなかったお風呂をいただくことにした。
そこでブレイブと会うだなんて想像もせず。大浴場でのことは割愛します。
ただ、口には出せないけど……許嫁の智成(ともなり)様も相当なモノだけど、ブレイブの方が遥かに凄かった!!
◇◇◇
大浴場を出たわたし達は最上階のラウンジで今日の出来事を共有した。
最初に口を開いたのはファナ。常宿で酒場『フィッシュボーン』で酔い潰れたファナをステラが介抱してくれたらしい。ファナの語り方からステラに悪い印象は持っていないようだった。
次にブレイブが話す。メインストリートの噴水でステラに出会い話をしていたところにゴールドが合流したと。
「そうだ。そこでアリスの唇をブレイブに返したのだったな。」
固まるブレイブ。
「ゴールド、それって……」
皆の視線がゴールドに集まる。
「ん?口付けただけだが?何だ、お前たちまだキスもしていないのか?裸で抱き合っていたくせに。」
「ちょ、ゴールド変なことを言わないでください。ブレイブとは何でもありませんから。」
わたしは悪ふざけをしているゴールドを嗜めた。あれ?ブレイブがさっきよりも更に固まっていた。
ブレイブが何故か意気消沈しているのでゴールドが語り始める。
ゴールドがゴーファンに滞在していた際、『王宮武闘大会』に出場しステラと出会い、人間とは思えないその実力を目の当たりにしたことを話した。
そしてゴーファンの王『魔獣王』の御前で魔法少女に変身し、王宮騎士団近衛隊長『ゲシュタルト』と戦いそれを退けたこと。
現在はステラ自身が名乗ったように、ゴーファンの王宮騎士団小隊長になったこと。
そこまで話すと、その場の全員固まってしまう。
「こ、近衛隊長って……魔獣王を守る側近ですよね?」
辛うじてパチャムが尋ねる。ゴールドは首を縦に振る。
「相変わらず滅茶苦茶だけど……だからこそステラだと信じられる。」
ステラはそういう人だ。逆境をそうとは思わない前向きさと奇天烈さに溢れた、変な人。
「そ、そんな大惨事を引き起こした上で……小隊長って、もう訳が分からないよ。ははっ。」
流石の衝撃的な話に固まりが解けたブレイブは言葉を絞り出す。
「『魔法少女』ってのはそんなに凄いの?アリス。」
パチャムがあらためて問い掛ける。ブレイブとゴールドに目配せをしてから口を開く。
「『魔法少女』は……変身することで強大な魔力と戦闘力を得ることができます。その力があれば近衛隊長と渡り合ったというのも納得できます。」
そこに居た全員がアリスの言葉に衝撃を受ける!種族の最底辺に位置する脆弱な人間がそこまでの力を得られる『魔法少女』に。
「待ってくれ。ゴーファンでのステラは漆黒の魔法少女に変身したがすぐに変身が解け、その後は再び変身することなく魔獣王の近衛隊、そして近衛隊長と激闘を繰り広げたのだ。いま思うと魔法少女ではないステラのあの活躍、人間の範疇を遥かに超越していた。」
ゴールドの言葉は更にみんなに衝撃を与えた。
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