第88話 【Side:ステラ】絶叫アトラクションでドキドキ?

「ステラ、大丈夫?」


「うん、平気。」


 襲ってきた精霊樹の守護者を倒したのは正当防衛だったのだから負い目は無い。ハズなのに、機械のように振る舞う守護者の中に人間が入っていたなんて……。


 自慢じゃ無いけど、わたしは今まで人間を殺したことは無い。同族を殺めることは平和な日本で生まれ育ったわたしには酷く負い目を感じる。


 守護者の中の人間には恋人は居るのか?子供は居るのか?守るべき家庭はあるのか?そんな人間をわたしは殺した。それを気に病まないことは、わたしにはできなかった。


 キリコなら平気なのかな。同族でも敵なら殺すと言っていたが、本当はキリコも平気じゃないのではないかと思いたい。


 ああするしなかった。でなければわたしとアレックスが殺されていた。アレックスを守れたことが唯一の心の支え。でも……殺さなくても……良かった?


「しっかりしろ、わたし!!」


 両手で頬を何度も叩き迷いを払う!


「ステラ……その耳。」


 言われて初めて気付く。そうか、好色なレッド・ヘルタートルの炎は邪魔なものを焼き尽くす。服や下着だけでなくエルフ付け耳も焼かれたようだ。指で耳をなぞる。


「わたしは人間だよ。訳あって変装をね。騙してゴメン。」


「そんな……気にしてないよ。僕一人だったら守護者に殺されていたし、そもそもこんな上にある滝の源流まで辿り着くことすらできなかったよ。ありがと……あ。」


 最後、何か変な反応。アレックスを見ると、視線が下に向けていた。


 ヒィッ!!


 視線の先にはわたしの裸体があった!レッド・ヘルタートルの力が消え、左腕の盾は小さくなり……身体を覆っていた赤い紐も消え失せたのだ!!


「アレックスのエッチ~~~!」


◇◇◇


 さて、どうしようか。


 炎で服が焼けて上半身裸のアレックスと全裸のわたし。二人は背中合わせに座っていた。


「ゴーファン……魔獣の国、聞いたことがある。ステラはスパイなの?」


 何でだろう、別に言わなくても良かったけど、ゴーファンから来たことを話してしまった。同じ人間で同世代だからかな、つい口が軽くなっていた。


「あのさ、わたしがゴーファンから来た事や人間だということは秘密にして欲しいんだけど。」


「うん、分かった。秘密は守らないとね。僕はこの国の人間でもないし、ステラには恩返ししたいから……秘密にするよ!」


 素直な子だ。っていうか年下扱いしてるけど、本当は同じ16歳同士で……男女。急に意識してしまう!!


「アレックスの目的は達成したんだよね?これからどうするの?」


「村に帰るよ。この水晶を持って帰らないと。」


「じゃあ、下に降りないとね。」


 守護者を倒したけど、一人だけとは思えない。こんなに大きな精霊樹を守るからにはたくさんの守護者がいるハズ。新手が来る前にこの場から離れないと。


 ポケットからジャック・オー・ランタンを取り出すが、やはり目を回している。これも魔のモノだから精霊樹の霊気に参ってるのかもしれない。


 魔法少女なら数百mの高さからダイブしても余裕だけど、生身では命に関わる。ましてアレックスがいるのだ、危険は冒せるはずもない……かな?


◇◇◇


「うわああぁああああーーあぁぁぁああああーーーっ!!!」


「口は閉じて、舌噛むよ。」


 たった今、ダイブしたところだった。


 精霊樹の中は道が続いているようだったから、下に降りる道があるかもしれないが不確定だし、また守護者に遭遇したらたまらない。


 精霊樹の外皮を降りることも考えたが、さっき2回ほど滑落したことを考えると魔法少女になれない今、それは落下した時の対処が難しいし面倒くさい。


 なら、リスク的にも時間的にもダイブすることが手っ取り早いと考えた。事前にアレックスには確認をした……泳げることを。


 再び真紅の盾『ブラッディ・ヘルシールド』の力を解放し、赤い縄で緊縛されることで全裸から半裸姿になることができた。


 これで一安心と、アレックスに抱きつくわたし。


「わたしをギュッと抱きしめて、アレックス。絶対に離さないで。」


「ス、ステラ!?その姿、何か興奮する。」


 ドギマギするアレックス、顔を赤くして……何か可愛い。


 呪文を詠唱し、風魔法で球形の風の幕『エアーフィールド』でわたし達を包み込む。そして真紅の盾『ブラッディ・ヘルシールド』の球形防御壁を風の球の外周に展開し、更にその外周にまた風の球『エアーフィールド』を展開。


 三重の守りを施した赤い球体が完成すると、わたしはアレックスの腰を抱きながら踊るようにクルクルと回り、そのまま青い激流に身を委ねる。


「ちょっと、ステラ!このままじゃ下に落ちちゃう!!」


 可愛い顔が驚きに変わるのを眺めるのは気持ちいい。わたし、そんな癖あったかなぁ?


「大丈夫だよ、多分。アトラクションだと思って楽しもう〜!」


「多分って!?アトラ……何それー?う、わあああーっ!!!」


 さ、流石に数百mからの滝下りは迫力が段違い!もうただの落下だった。いや、普通に死ぬレベルだよ、こりゃあ!!うひぁーーーっ!!!


 凄まじい速さで着水し、かなりの衝撃があったけど、三重防御で威力は相殺され、更にわたしが下なってアレックスを受け止める。


「アレックス、大丈夫?痛いところない?」


「う……ん。大丈夫。まだ震えてるけど。」


 本当だ、微かに震えながらわたしに抱きつくアレックス。


 そこに悲劇再び!


 またしても左腕の盾が縮小し、水に浮かぶ空気の球の中……全裸のわたしに覆い被さる半裸のアレックス。もう、いいや。


 派手に上がった水飛沫に水辺には何人か見物人が集まりこちらを見ていたが、距離があるので大丈夫だろう。正体が明るみに出る訳にはいかない。


「裸だし泳ごう!」


 空気の球を割り、わたし達は水中に姿を消した。

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