第87話 【Side:ステラ】精霊樹の守護者
精霊樹の源流水は何とも言えない清らかな魔力に溢れていた。旅の疲れが一気に消え去ったように身体がスッキリした。これが精霊樹の霊気かぁー。
隣ではアレックスが黒っぽい石を青い源流に晒していた。すると黒い絵の具が水に溶けるように流れていく。
「ありがとう、ステラ。大丈夫だったよ!」
アレックスは手に持つ透明な水晶を見せてくれる。薄暗い洞窟とも言えるこの場所でその水晶はキラキラと輝いていた。
「さっきの汚い石がそうなったの!?そんなに綺麗な水晶だったなんて!」
「この水晶には長年悪いものが溜まっていたんだ。浄化するには精霊樹の水が必要だったんだけど、ステラのお陰で綺麗に浄化できたよ!本当にありがとう。」
何にせよ喜んでもらえて良かった。下までの帰り道も変身すればすぐだから問題無し。
「ギギギギギィ……」
いや、そうも行かないみたい。奇妙な音と共に4体の黒い何かが姿を現す!
「こいつ等は……僕の村を襲ったバケモノ!何で?」
「多分、その石から流れ出た汚れがこうなったんじゃないかなー?封印されてた的な?」
4対2…いや、4対1か。
「ランタン、出番だよー!」
再びジャック・オー・ランタンをポケットから出すと……目を回してる〜!!
「ちょっとどうしたの!?気分が悪いの?もう一度魔力変換して欲しいんですけどー。」
ダメだ、動きゃしない。こ、こんな時に〜!!!
「侵入したモノを排除する。」
精霊樹の奥の方から何かが迫って来た。それは手に剣と盾を持った白い騎士の彫像。喋り方は機械的な無機質さがあった。
その彫像は容赦なく黒い魔物に剣を振り下ろす!見た目通り、喋り方通り、機械的な正確で無駄の無い行動だが、俊敏で力強いものだった。守護者という感じだ……。
黒い魔物2体はあっけなく切り捨てられ、1体は腕を切られると悶えてながら水流に飲まれて下界に落ちて行った。
最後の1体は守護者に襲いかかるが盾で殴られて吹き飛ぶ!負けを認めたのか自ら逃亡し、数百m上空から身を投げてしまった。
「これが話に聞いた精霊樹の守護者かぁ。本当に居るんだ!精霊樹の中には侵入者を排除するんだって。助けてくれてありがとう、守護者。」
アレックスは握手を求めて守護者に手を伸ばす。
ガシュッ!
「アレックス、現実は甘くないんだよ。」
わたしは左手の赤い盾で守護者の剣を受け止める!そう、守護者はその剣をアレックスにも振り下ろしたのだ!!
「うわっ、な、何で?僕たちは……」
「侵入者だよ。当然こうなるよね。」
守護者にとっては魔物だろうが、水を求めて来た人間だろうが同じなんだろう。守るべき精霊樹に侵入した異物として。
4対1が1対1になったのだ、例え魔法少女に変身出来なくても、これは喜ぶべきだろう。
「そんな〜。」
「下がってて。わたしがやるから。」
情けない声を上げるアレックス。安心をしてね。何たって目の前に居るのはゴーファン軍小隊長で『カボチャの悪魔ステラ』なんだから!言えないケド。
受け止めた剣は更に重さを増していく!以前、リザードマンの戦士ゲランの技を受け止めた時のようだった。このままではヤバイ!
赤い盾を操って剣をいなし、守護者に蹴り入れる!だが重いし硬いしで効いているようには見えない、
隙を見てアレックスを抱いて、守護者と距離を取る。しかし、超反応でわたし達を追尾して来る守護者!何コレ、AIでも入ってるのー!?アレックスを抱えて逃げようと思ったけど、人を抱えて逃げられる相手ではなかった。
仕方なくアレックスを半ば放り投げ、わたしは守護者との戦いにひとつの決意をする。そんなわたしに守護者は勢いを殺すことなく突撃してくる!力を出し惜しみしている場合ではなかった!!
「魔界の陰獣レッド・ヘルタートルよ、その力を我の身に宿せ!『ブラッディ・ヘルシールド』!!」
左上の赤い小盾が輝くとその形が広がり形を変える。そして……わたしの身体を真紅の炎が焼き尽くす!
「ス、ステラが燃えてる!!」
アレックスは慌てて上着を脱ぎ、水に浸した服でわたしの炎を叩き消そうとする。同時に守護者はその剣を燃える私に剣を振り下ろす!!
炎がかき消されると、守護者の剣が手前で遮られ……そこには半裸に赤い紐が巻き付いたわたし。変形した盾をかざしてはいたが、わたしを囲む赤い障壁が守護者の剣を止めていた。
「ステラ、大丈夫なの?というか……何、その姿?」
振り向くとアレックスの視線の先にあるのは、わたしのお尻。顔が赤いよ、アレックス。
「恥ずかしいから、あんま見ないで欲しいな。」
「ご、ごめん!」
言いつつ、やっぱり視線を向けるアレックス。思春期過ぎるよ!そんなこと気にしてる場合ではなかった。
「風よ、水よ……激しく交わり閃光と成せ!『ライトニングボール』!!」
防御壁を破ろうとする守護者に至近距離から雷撃複合魔法を喰らわす!感電した守護者は動きを止める。今だ!!
「貫け!『クリムゾン・バンカー』!!」
真紅の盾から爆発的に射出された鋭利な杭が守護者の腹に突き刺さる!傷からは赤い血が漏れ出す。
「おおおおおおぉぉぉお!!!」
守護者は苦悶の叫びを上げる。機械的な印象だったのに痛みに反応するなんて意外だった。杭を引き抜くと守護者は地に倒れ、守護者の眼前に杭を構える。
「とどめだ!」
第二射、杭は守護者の頭部を貫く。飛び散る血液!!血液……なの?
守護者は完全に動きを止めた。わたしは杭を引き抜くと、守護者の顔が外れる。仮面?その下の顔。
「人……間?」
「ステラ、これって……。守護者って人間なの?」
わたし、人間を殺した!?
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