第81話 【Side:ブレイブ】白雪姫

『スーパー・アイスソード・改』


『ソード・オブ・シヴァ』


『フロストソード・氷河』


『氷帝の剣』


『氷刀・雪月花』


 うーむ、どれも捨て難い。どれにしようかな〜?やっぱり1番目かなぁ。でも雪月花ってのも渋いよねぇ〜。迷う。


 何をしてるのかと言うと……


◇◇◇


「(こんな時にお礼って……何だよ?)」


 氷の精霊は焦る俺にゆっくりとした口調で言った。


「(生まれ変わった我に名を付けよ。全てはそれからだ。)」


 名前?


「(悪いが……)」


「(礼もできんのか?それに時間ならある。外がどんな状況であれ、主には治癒するまでの時間という縛りがな。そして……)」


 そうならそうと先に言えという話だ!


 そこで考えた5つの候補だが、考えれば考えるほど迷いが膨らむ。


 ふと倒れるアリスを目にした俺は、懐かしい記憶が蘇る。それは夕暮れの図書室でアリス、いや、月島さんが手にしていた……本。


「(そうか、決まったか。ふむ、良き名だ。)」


◇◇◇


「グゥアッ!」


 遂に巨人の一撃がヒュールを捉える!巨大なハンマーは剣で身を防ぐヒュールごと横薙ぎに叩きつけた!


 吹っ飛ぶヒュールが大きな岩にぶつかると思われたその時、彼を受け止める人影!


「待たせたなヒュール。生きてるか?」


 それは中隊長の剣士ジェイスだった。


「隊長!あぁ、助かったぜ。あの巨人、タフなんてもんじゃねぇ。」


「らしくねぇ戦いしたからだろ?」


 ジェイスはヒュールの肩を叩くと巨人に向かって行く。巨人は既に二人の方を向いてなく、俺とアリスの所に届こうとしていた!ハンマーを振り上げる!!


 しかしジェイスは速かった。


「グゥアッ!」


 苦痛に満ちた叫びが交差する!


 ジェイスは盾で振り下ろされたハンマーから俺たちを守りつつ、剣で巨人の片足に突き立てる。ハンマーで叩きつけた盾の下には巨人の足首に刺さった剣があり、巨人は自分の怪力で自分の足を切断していた。


 ジェイスはそのまま大地に倒れ、動かない。


「隊長ーっ!」


 ヒュールは隊長の捨て身の攻撃に打ち震える!


「隊長をよくもっ!火の剣の力、喰らうがいいっ『ファイヤースラッシュ』!!」


 赤く燃えた刀身を巨人の股間に突き立てると火力が増し、一気に巨人を火ダルマにした!片足を失い、全身火に包まれた巨人は地面倒れてもがく。


「(股間はダメだろ!?エゲツないわ〜。)」


 戦いは非情だし、巨人との体格差を考えれば丁度良い位置にあるのだが……男としてそれ無いと、巨人に同情してしまう。


 ヒュールはジェイスを抱え呼びかけるが反応は無いようだ。


 雄叫びが上がる!


 火ダルマの巨人が自暴自棄になったのか、足首から切断された足など構わずに立ち上がると暴れ出した!!


 そこには未だ目覚めぬアリスが倒れていた!


 ジェイスに気を取られていたヒュールが気付いた時にはとても間に合わない距離。


「アリスーーー!!!」


◇◇◇


 氷の柱が砕け散るや、淡く輝く青き剣を振り切ると強烈な寒波に吹き付けられ、巨人の足元から胸元までが一瞬で凍結した!


「一の斬『フリーズ・ウィンド』!」


 俺は手にした氷の剣が変わっていることに気づく。それは繊細な彫刻が刻まれた気品ある美術品の如き宝剣のようだった。


 正気を失ったように言葉とも取れない叫び声を上げる巨人だが、凍結した身体を動かすことは出来なかった。


「そんなになってまでまだ戦うのか?だが、ここまでだ。」


 氷の剣を横に構えて俺は口にする、その名を。


「舞い踊れ、我が友『スノーホワイト』よ!」


 そう、俺はかつてアリスこと月島さんが図書室で読んでいた本『白雪姫』の題名を愛剣に名付けたのだった。


 氷の剣の刀身が更に青く輝きを増す。


「凍てつく氷の封印、四の斬が初撃『アイスピラー』!」


 巨人の足元に氷の剣『スノーホワイト』を突き立てると、地面から登るように氷柱が生まれ、巨人の頭まで包み凍らせた。まるで巨大な氷の彫像であった。


「静かに眠れ、四の斬が終撃『アイスピラー・ブレイク』。」


 氷柱に大小いくつもの亀裂が走ると、巨人の身体ごと砕け散った。


 さっきヒュールの股間攻撃をエゲツないと言ったが、この技もかなりエグいと感じた。すまない、巨人よ。安らかに眠れ……。それよりも!


「アリス!」


 俺はアリスを抱きしめ、何度も名を叫ぶ!息はしてる。それだけで安心できた。


「ブレイ……ブ?生きてるの?怪我は!?」


 声が届いたのか、アリスが意識を取り戻した。そして俺のことを心配してくれたことに喜びを感じずにはいられなかった!俺はアリスを抱きしめた。


「うん。大丈夫、大丈夫だよ。俺を守ってくれてありがとう!」


「良かった。」


 アリスは抗うことなく、優しくそう言ってくれた。


「お取り込み中かよ、戦場でよ!」


 振り向くとヒュールがジェイスを引きずって来た。


「ブレイブ、テメェの剣……まさか覚醒したのか!?」


「あぁ。そうみたいだ。」


 一気に悔しそうな表情になるヒュール。そんなヒュールにアリスは頭を下げる。


「さっきは助けてくれて、ありがとうございます。」


「礼はいらねぇよ。負けっぱなしじゃ悔しいからな。それと、酷い事を言った。悪かった。」


 アリスはヒュールの手を取り握手をした。それは優しいものだった。これがヒュールなりのけじめなんだろう。酷く嫌な奴だと思ったが、アリスが許すなら従うしか無いよな。


「俺からも礼を言いよ。アリスと俺を守ってくれて、ありがとう。」


「はぁ?俺はこの人間を守ったんだ。テメェなんか知らねぇよ。」


 いやいや、やっぱり嫌な奴だ!そんなヒュールはおもむろにアリスの肩を抱く。


「アリス、俺の女になれ!」


 俺とアリスは驚きで言葉が出なかった。ジェイスも何か目を覚ました。

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