第75話 【Side:ステラ】デリカシーは大事だよね?
「では、俺が入ってやろう!」
退屈していたテーカンがその巨体に似合わない小振りな愛剣グラディウスを振りかざし提案するが、それを聞いた途端、スケルトンCは逃げ帰る。
「け、結構であります!まだ最期は迎えたくないであります!!」
既に死んでるのに最期を迎えたくないって!?あぁ、スケルトン人生を終わらせたくないってことか。
「腑抜けめ。そうだ『魔法少女』とかいうので鍛えてやったらどうだ?ステラよ。」
「それ他言無用になったんだよね?何で言うかなぁ〜。」
『魔法少女』のことを知る者は口外しないよう魔獣王より命が下された。別にわたしは秘密にして欲しい訳ではなかったが、魔獣王なりの気遣いなのか、他意があるのかは分からなかったが、とにかくそうなったのだ。
「そうだったか?」
鳥頭かコイツは!!呆れながら、その件での葛藤があったことを思い出す……。
この世界『ラニューシア』には大小様々な国や自治領があり、その中でも『魔獣王』の統治するこの国『ゴーファン』と、それに敵対する『精霊王』の統治する国『スピリットガーデン』が二大国家であった。
長い間互いの存在を否定し合い争ってきたが、3年前の大戦『デスノーク遺跡の戦い』で両軍に甚大な被害が出たことで戦争は一時的な休戦状態となる。
それがここ1年位の間に、互いの国境近辺の村や町での略奪や、砦や拠点への襲撃などが断続的に起こりはじめたことで徐々に戦争の火種が燻り出し……そして何より、ゴーファン領の魔獣の深海奥地に住まう黒龍が最近になってところかまわず暴れる被害が増えていた。
スピリットガーデンにしてみれば当然、黒龍のこともゴーファンの仕業と断定し、両軍の緊張は日に日に高まって行った。
小隊長就任後の歴史の講義で初めて敵国のことを知ったわたし……。
『精霊王』?『スピリットガーデン』??アレ、行く国を間違えたのでは!?
現世で『魔王』と戦った魔法少女が異世界で『魔王』にそっくりな『魔獣王』の手下となり、いかにも善や正義が似合いそうな『精霊王』の敵側に居るって、おかしいでしょ〜!?という葛藤でした。
「戦争かぁ。全然実感ないなぁ〜。でも、テーカンは前の戦争に参加していたんだよね?どんな感じなの?」
魔法少女として『魔王』やその手下達との戦闘経験はあるが、戦争を知らない世代としては学校の教科書に書いてあること位しかイメージ出来なかった。
「この世の地獄そのものだな。ただただ互いに殺戮するだけなのだが、一面が死骸や肉片の山と化した赤い大地、それを駆け抜ける時の不愉快さ、今でも両足が覚えている。柔らかい踏み心地の肉片の中、骨を踏み砕く音と感触、死者が地の底から掴み掛かり離れないような感覚。」
「うぇっ!待って。もういいです。キモチワルイ。」
テーカンの分かりやすい説明にイメージが膨らみ身悶えてしまう。
「そんなんじゃ、お前が大地に転がる肉片になっちまうぞ!しっかりせい!!」
声大きいって。でも、教えてくれたことに感謝!
「そっすね。あ、ちょっと……小川に行ってくるね。」
「ショウベンか?クソか?ケツを良く拭けよ。」
奴隷上がりの巨人族にデリカシーを求めるのは酷なんだろうか?否!
「女の子にそういう言い方はダメ。モテないよ。気をつけようね。」
子供を諭すように言い聞かせると、テーカンは早く行けとばかりに手を振り横になる。まったく。
近くの小川で用を足すと、眠気覚ましに顔も洗ってから戻った。
「遅かったな。クソか?アイツ等の訓練終わって待ってるぞ。」
ダメだコリャ!
訓練終わった?そんなに長時間は小川に行ってはいないので、わたしが居なくなったのを良いことに終わったと嘘をついたのでは?テーカンはどうせ訓練なんて見てないだろうから鵜呑みにしたのだろう。
一番真面目そうなテーカン隊のワータイガーの『ライガ』に聞く。
「本当に20戦終わったの?随分と早いけど。」
「ステラ隊など瞬殺したので。」
はう!?涼しい顔でムカつくことを言う。その通りだけど。
20戦が終わったことが本当だろうと嘘だろうと、もうどうでもよくなった。所詮は訓練という名のお遊戯。こうやってみんな堕落していくのだろう。
「はい、お疲れ〜。また、明日も朝9時に集合ね。では、解散。」
別れ際、テーカンが思い出したように言う。
「そういえば、女魔剣士のゴールドがゴーファンを出たそうだな。何でも国に戻るとかで、小隊長の地位と大会報奨金を返納したらしい。よく分からんヤツだったなぁ。」
何と!ゴールドには何度となく助けられたので、ちゃんとお礼をと思っていたんだけど。もっと早くゴールドにお礼しとけばと後悔の念に駆られる。
「(また会えるよね、ゴールド。)」
夕陽に向かってそう願った。
◇◇◇
訓練が終わった兵達が腹を空かせて食堂に詰め掛ける!
「順番に並んでください〜。沢山ありますから、大丈夫ですよ〜。」
普段声が小さいフェイトはがんばって声を大きめに叫ぶ。
「大丈夫じゃねーよ!こっちは腹ペコなんだよ。早く喰わせろよぉー!!」
下卑た爆笑が起こったり、そうだそうだ!と同意の声が上がる。口籠るフェイトを見かねて大声で叫ぶ、スープをよそりながら。
「文句言うヤツは夕食無しだからねっ!!」
わたしはお玉を振り上げながら叫んだ。
「ステラ小隊長、おととい本当に夕食没収してたぜ。アイツ洒落にならねーよな。」
「つか、何で小隊長が料理配ってるンだよ?ヒマか?」
コソコソとわたしの話をする兵達。聞こえてますが?
「そこ、言いたいことは大きな声でハッキリと言うように!」
別のところから注文が入る。
「小川でクソしてた小隊長。大盛りで。」
注文はワータイガーのライガ。流石テーカンの部下、デリカシーが無い……。
「してません!」
引き攣った笑みでスープを表面張力ギリギリによそってやった。ライガはこぼすまいと必死にバランスを取る。食堂に爆笑が起こる!
「ステラがいるとうるさいねぇ。あと、やり過ぎだ!」
わたしの頭を叩くパパス。兵達は引いていた。
「気をつけます、パパス。」
「分かりゃいいさね。ほら、口だけじゃなく、手も一緒に動かすんだよ!!」
やれやれ、と呆れるミッシェルは何処か嬉しそうだった。
わたしの仕事はまだ続く。
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