第74話 【Side:ステラ】目標設定は大事だよね!
ここは王都ゴーファンに近い平原。暖かな陽気に涼やかな風が優しく流れている。柔らかい草の斜面に寝転ぶ二人。
「平和ですねー。」
「平和だな。」
わたしはあくびをしながら隣を見る。隣人は釣られたのか大あくびをする。やっぱり大きいなぁ。
隣にいるのが彼氏なら良かったのにと思いつつ、この大きさは無いなと我に帰る。
大あくびの主は同じ小隊長のテーカン。巨人族なので大きい。巨人族が彼氏では何かと困ることだろう。
因みにテーカンというのは、巨人族の剣闘士5370のこと。彼は王宮武闘大会で勝ち残ったことで奴隷から解放され、新たな一歩として自ら付けた新しい名前なんだと、ついさっき知った。なお、奴隷になる前は名前自体無かったらしいので初の命名。めでたいことだね!
名前の由来を聞くと長く語ってくれたのだが、部族の伝説がどうとかで正直よく分からないし、途中から聞き流したのでよく覚えていない。
いまわたし達は、ステラ小隊とテーカン小隊で訓練として模擬戦を行なっており、二人で並んで模擬戦を眺めていた。
因みに、各隊の編成はこちら。
【テーカン小隊】
・ワータイガー 1名
・コボルド 2名
・ゴブリン 1名
・インプ 1名
【ステラ小隊】
・スケルトン 5名
相手の陣地の旗を奪うことが勝利条件であり、勝敗はテーカン隊が12戦12勝。ほぼワータイガーの独り舞台だった。インプも良いアシストをする。
「はい、あと8戦したら今日の訓練は終了。気合い入れてねー。」
寝転びながら両軍にハッパをかける。返事はあるものの明らかにヤル気は感じられない。最初、軍隊の訓練と聞いて鬼のように厳しいものをイメージしたけど、全く違った。まるで運動会の練習のようだった。
「退屈だな。」
「退屈ですねー。」
不毛な会話がまたあくびを誘う。
「なぁ…… お前も奴隷上がりだろ?あの頃の方が良かったと思わんか?」
何を言われたのかよく分からない。
そもそも、奴隷上がりの同志みたいな言い方だけど、テーカンは幼い頃から奴隷として過酷な人生を歩んできたらしいが、わたしの奴隷歴は1ヶ月も無い。短期バイトならぬ短期奴隷だ。
「どゆこと?」
「つまりだ。奴隷から解放されるため俺は死に物狂いに生きてきた。それが大会に勝ち残りついに奴隷から解放された。更にだ、軍の小隊長となった。俺はどうしたら良いのだ?」
あぁ、目標を見失った系ね。
「好きなことすれば〜?」
「なん、だと?」
目標を見失った奴にはそれすら伝わらないか。
「彼女を作るとか、偉くなるとか、お金持ちになるとか……無いの、人生の目標?」
「だから、それが奴隷からの解放だ。だから悩んでるんだぞ!」
テーカンは拳を大地に叩きつける!
「だからさ、次の目標だよ。無いの?無いなら決めればいいんだよ。オーケィ?」
すっかり口癖だよ。デネブ元気かなぁ〜。最近は小隊長の仕事と、その後は宿舎の仕事(食堂での給仕や清掃など)で1日が終わるので、南瓜亭に顔を出せていなかった……。
「つ、次の目標?」
あ、ぼーっとしてたケド、巨人の人生相談中だった。
「テーカンの好きなことは?趣味とか。」
言われてテーカンは固まる。フリーズしたようだ。
「戦うことだ。」
長考してそれか〜。
「なら簡単じゃん。この戦争に勝利するために敵を倒せばいいんだよ。趣味と実益を兼ねた立場にもいるしね!はい、解決。」
ようやく合点が入ったようで上体を起こして叫ぶテーカン。
「そうか!分かったぞ。敵を倒せばいいのだな。クソッ、早く戦場で暴れたいものだ!!なぁ。」
「いやぁ、わたしはここでいいよ。戦場なんて怖いじゃない。まー、仮に王都にまで敵が攻めて来たらその時は本気出すよ、うん。」
正直、戦いが好きなバトル野郎ではないので、テーカンの意見には賛同しかねつつ、小隊長としての意気込みを取り繕う。
「そう言えば、小隊長になった何人かは早速前線に行ってるらしいね。キリコも行ったみたい。でもさ、最前線には鬼神のようなヴェイロンがいるから、あっちもヒマなんじゃない?ははは。」
キリコなら早速大活躍していることだろうから、特段心配はしていなかった。
「口惜しい!早く最前線に行き、騎士団長ヴェイロン様と戦場を駆けたいものだっ!!なぁ。」
「いや……別に。」
そんな正反対な2人だが、ひとつ共通点があった。
それは……自分の小隊の育成を半ば放棄していること。いや、小隊長成り立ての者は大抵そう感じるのだ。
多少の違いはあるものの、自分より遥かに弱い兵の面倒を見させられる。見込みのある兵はベテランの小隊長や中隊長の隊に配属されるため、新人小隊長には雑兵しか与えられない。
戦場では間違いなく捨て駒だろう。悲しいかな、小隊長自身で戦った方が数十倍も戦果を上げることだろう。
それはさて置き、緊張状態なのは最前線での話であり、王都近辺は平和なものである。戦争なんて絵空事のように運動会の練習に明け暮れる毎日だった。
「ステラ小隊長、もう止めましょうや。あの人虎、ヤバイっす!何回バラされればいいんですかい?」
スケルトンCが高貴なデュラハン気取りに頭蓋骨を手に抱えて進言してきた。
分かる、分かるよスケルトンC。わたしの隊の編成なんなの?スケルトン5体って雑過ぎだよ!こんな部隊編成、上層部の嫌がらせだよ。
さて、皆さんはこのスケルトンCを覚えているだろうか?かつて『南瓜亭』で舌戦の末にわたしを精神的に追い詰めたスケルトンズ。最後には開き直ったわたしに追い払われたスケルトンズの中でも一番気弱なスケルトンこそ、このスケルトンCである。
その時のクソ生意気なスケルトンAはじめ他のスケルトンズはそれなりの活躍により最前線に近い部隊に配属されたらしい。大きな口を叩くだけのことはあるようだ。え?どーでもいいって?分かります。
「いや、ほら、一応決まりだし……ちゃんとやれば強くなれるよ、きっと。それに仕事だし。うん。」
暖かい陽だまりのなか、言っててあくびが出てしまう。
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