第71話 【Side:ブレイブ】アリスのご奉仕……

「テメェ等、俺の言うことが聞けねぇのかぁっ!!」


 凄まじい怒号が上がる!中隊長ジェイスはヒュールをぶん殴ると、ヤツは派手に倒れる。


 続けて俺の前まで来る。


「え、俺も?ちょ、まっ……」


 人生で一番痛い拳を喰らい、ホント漫画みたいに頬が腫れて……痛い。


「隊員同士の死闘は御法度だ。やるなら素手でやれ!だがな、勝負の方法はこうだ。2人とも俺をぶん殴ってみろ。先に殴った方が勝ちだ。」


 俺はたじろぐ。ジェイスは俺たちの国の最強の剣士だが、同時に格闘家としても最強レベルだった。そんなジェイスに一発でも拳が当たるとは思えなかった。


「後悔すんなよ、中隊長!」


 ヒュールは果敢に殴りかかる!


「ぐぅあーっ!」


 やはり。殴り掛かられたジェイスはすんでのところでヒュールの拳を交わすと同時に、ヒュールの死角を突いた一撃が決まる。多分、ヤツはジェイスに一発入れて喜んでいる夢を見ていることだろう。


「久々に見た、ジェイスの『クロスカウンター』!」


 正直、見惚れていた俺にジェイスが言う。


「すまんな、俺の隊のが迷惑を掛けた。もういいか?」


「も、もちろん!ソイツのようにはなりたくないし……。」


 ジェイスは気絶するヒュールを引きずり、野次馬に解散するよう怒鳴る。やっぱりジェイスは頼りになるけど、怒らせないよう気を付けようと思った。


「ブレイブ、大丈夫?」


 パチャムとファナが走ってきた。


「やっぱジェイスは強いね。ビリビリしたよ!」


 拳闘士のファナだから感じられたのだろう、ジェイスの力量を。


「今度戦ってみよう。」


「え!?ファナ、何を言ってるんだよ??」


 相変わらずコイツは何を考えてるのか分からない。さっきのアレを見てなお戦いたいって、とんだバトル野郎だ。


 アリスとリフィーは離れたところで見ていた。今朝のことがあって少し距離を感じていた。でも、さっき俺を庇ってくれた彼女の優しさに、俺は手を上げてお礼を伝えた。アリスは軽くお辞儀をする。


◇◇◇


 今日の行軍が終わり野営に入る。小隊ごとにテントを張り、夕食の支度を始める。


「おい、人間。」


 この聞き覚えのある聞きたくない声。離れたところにいるアリスの腕を掴み詰め寄るヒュールが見えた。俺は反射的に走り出す!


「何やってるんだ!」


 アリスの腕を掴むヒュールの腕を俺は掴む!アリスにちょっかいを出す奴は許さない!!


「アリスにちょっかいを出す奴は許さない!!」


「ブレイブかよ。今はお前には用は無ぇ。何で人間なんかがこの隊に同行しているんだって話よ。」


 コイツの言いようから人間を侮辱していると分かる。


「俺の小隊の仲間だ。手を放せ!」


「お前のツレかよ。役立たずの足手まといを連れて迷惑かけてんじゃねーよ。さっさとどっかに行かせろ。」


 コイツに限ったことではない。アリスが俺の小隊に入ってから結構似たようなことを言われた。人間がどれほど弱い種族であるかはこの世界で生まれ育った元人間の俺にはよく分かる。


 ファンタジー作品なら人間もエルフなどの多種族と並んで冒険ができるステータスやスキルがありレベルアップも望めよう。


 しかし、この異世界ラニューシアでの人間はそうではなかった。貧弱な肉体、乏しい魔力、短い寿命。とても冒険者になるなんて考えられない種族なのだ。


「人間は確かに弱いけど、だからってそんな言い方はないだろう!人間には無限の可能性があるんだよ!!」


 大爆笑が起こった!俺とヒュールがまた何かやってると、いつの間にか野次馬ができていて、俺の叫びを皆大笑いした。何かありきたりな台詞だと自分でも恥ずかしくなってきた。


「人間に無限の可能性?頭大丈夫かぁ?」


 ヒュールの言葉に外野からも俺への嘲る声と嘲笑が湧き起こる。


「夜の世話をさせるためにその人間を連れてるんだろ?顔と胸は良いからな。女、ブレイブだけじゃなく、俺ら全員の夜のお世話もしろよ。それなら足手まといでも役立たずじゃなくなるからよ。役に立てよな!」


 体育会系の熱血野郎かと思ったが違った。弱い者を見下すことを平気でする自分勝手な陽キャクズ野郎だった!


 コイツはやってはいけないことをやったのだ。俺の愛するアリスを侮辱した!叩きのめしてアリスの前で土下座させないと気が済まない!!


 俺はアイスソードの柄に手を掛ける。


「ブレイブ、ありがとう。」


 アリスは剣を抜く俺の手にその手を重ねた。


「皆さん、わたしなんかで宜しければ、どうぞお好きに。」


「マジだぜ、この女!そのいやらしい胸にたっぷりとキスしてやるぜ〜。」


 各々が卑猥な言葉を投げ掛ける男たちに両手を広げて迎えるアリス。スケベな男たちが我先にとアリスに向け走る!


「テメェら、そんなこと俺がさせ……」


「押し潰せ、『グラビトンプレス』!」


 走る男たちは突如足がもつれ膝から落ちると、そのまま全員、顔から地べたにキスをする!


 ヒュールもまた土と鼻血にまみれた顔で見上げる。


「魔法だと?人間が!?」


「人間のご奉仕、ご満足いただけましたか?」


 アリスはヒュールたちを見下ろし、深く頭を下げる。

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