めぐりあい編
第60話 【Side:ステラ】新たな戦場?新たな任務?
魔獣王とのタイマンでの対話を経て無事生還したわたしは、半ば強引にゴーファン王宮騎士団の小隊長に任命されてしまう。職務怠慢で解雇されようかと真剣に悩む。
そんなことを考えていると、騎士団宿舎の管理者オルテに連れて行かれたのは……厨房だった。そこには多くの人間が働いていた。
「そこの芋の皮剥きをしてな。」
オルテはそう指示をすると、コック帽を被ったオークのところに行ってしまう。
とりあえず、言われた通りに芋の皮剥きを黙々と行い、20個程剥いたところで声を掛けられる。
「ちょっと、チンタラやってんじゃないよ!」
驚いて振り向くとおばちゃんが立っていた。
「あ、すいません。」
「すいませんじゃないよ!夕食に間に合わないだろ、そんなチンタラしてたら!!貸しな。こうやるんだよ、見てな!」
包丁と芋を奪い手早く皮を剥く。
「あの、皮が結構残ってるし、芽も残ってますけど?」
「は?いーんだよ。そんなんだからチンタラチンタラしてんだよ!!5分で全部剥きな!!!」
おばちゃんの迫力に押され何も言えないステラ。大量にある芋をおばちゃん直伝の剥き方で手早く皮剥きし、15分かかり全ての芋の皮を剥き終わる。
「やっとかい!?したら芋を料理長に持って行きな!」
おばちゃんがコック帽を被ったオークを指差す。
「っはい!」
おばちゃんの迫力に圧されて返事をして、芋を入れたザルをコックオークに持って行く。
「芋を持ってきました。」
「おう、新入りか。んー?何だコリャ!?皮が残ってるし、芽も取ってないじゃないか!!はい、やり直し。」
「えっ!?あ、いえ、やり直します!!」
持ち場に戻り皮と芽を取り除いてると、おばちゃんが近寄り言う。
「あの豚、こまかいんだから。全くやんなっちゃうわよね。アンタもそう思うよね?」
自分の適当さを正当化しようと必死なおばちゃん。アンタが適当言うからやり直しになったんだよ!と言いたかったが言葉を飲み込む。
「いやぁ、次からはちゃんとやりましょうね、二度手間なんで。」
それとなく言ってやったった!おばちゃんは相変わらずコックオークは細かすぎるのよ!とブツブツ文句を言っていた。
厨房はとにかくせわしなく大量の料理を作り続け、慌しく配膳し、互いに文句を言いながらもコックオークを中心に皆が一丸となり、何とか夕食の時間に間に合わせることができた。何か良いチームワークであった。
「お待たせしましたー。どうぞ、お入り下さい!」
ひたすら肉を捌いていた人間の少女が、食堂の扉を開け、慣れた口調で開店を告げると、食堂に多くのお客様?たちが押し寄せる!
わたしはスープをよそり渡す係だった。
「大盛りだ!」
「もっと具を入れろよ!」
「おいおい、芋は入れるなよ!」
「二杯よこせ!」
「大盛り!」
「山盛り頼むわ!」
「ん、お前『カボチャの悪魔』か?いや、まさかな。ねーちゃん、大盛りで。」
忙しくてそんな言葉に反応してられない。
「大盛り!」
「大盛り!芋抜き。」
「大盛り!」
「大盛り!」
列が途切れることはなく、ワガママな注文に応えスープを出し続ける。料理が並んでいる流れ作業であるが、他の厨房メンバーは手慣れたもので、ロボットのように正確で無駄の無い配膳は見事であった。ここでもチーム力が発揮されている。わたしは先輩諸氏の所作を観察してやり方を盗み、次第に流れに乗り始める。
「大盛りでねー!」
元気な声で注文する声、この声は!
「あ、キリコ!?わー、また会えて嬉しいよ!!」
「あれ?ステラ、帰ってこれたんだね!!良かった〜。心配したんだよ!!」
嬉しさのあまり二人両手を繋ぎぴょんぴょん跳ねる。
「でも、なんでそんなことしてるの?」
質問するキリコに答えようとした時。
「何チンタラしてんだよ、新人!流れが止まっちまったじゃないか!?遊んでんじゃないよ!!そこの狼娘も止まるんじゃないよ!さっさと取って進みなっ!!!」
おばちゃんが凄い剣幕でステラとキリコを叱りつける!!
「す、すいませーん!はい、大盛りおまけ付き!!またね、キリコ。」
「ありがと。頑張ってねー。」
流されていくキリコを見送りつつ、スープを配り続けること3時間。ようやく嵐のような食堂の営業時間が終わる。
30分の休憩で『まかない』という名の残飯を急いで食べ、片付けや清掃に突入!わたしは食器を下げた後の食堂の清掃の任を与えられる。広い食堂を隈なく掃き掃除から拭き掃除を行う。これは『南瓜亭』でやっており余裕でこなした。
1時間かけて片付けが終わると、そこに管理者のオルテがやって来て話し始める。
「今日から新人が入った。しっかり指導するように!新入りのお前はその女達の部屋に入りな。この後の風呂掃除はいつも通り1時だ。明日は月に一度の清掃日だ。朝4時に城門入口に集合すること。では解散!」
時刻は午後9時過ぎ。皆疲れた様子で解散していった。
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