僕はゴシゴシ

作者 いっさん小牧

魂持つ人形と辿る、出逢いと再会への旅路――。

  • ★★★ Excellent!!!

 かの民俗学者、柳田國男が編纂した説話集『遠野物語』。
 その中に、「山男」なる一遍がある。
 怪奇譚ではあるが、こんな話だ。

 ある月夜、大勢の仲間と共に浜へ越える峠を行くとき、大谷地という所の上を過ぎた。大谷地は深い谷で、林が繁り、その下は葦などの生える湿った沢である。このとき、谷の底から何者か高い声で 「おもしろいぞー 」と叫ぶ者があった ……。



 本作品は、そんな不可思議要素たっぷりの『遠野物語』的世界観をベースにした、主人公たちによる遍歴と交流の物語である。

 ちょっと可笑しな、だけれどもどこか切ない登場人物たちの心理描写に、色彩豊かで賑やかな旅路が不思議な郷愁を誘う。加えて、要所要所で発揮される、丹念に練り上げられた伏線を活かしたミステリー顔負けの謎解き要素……。読み進めるほどに、全体にちりばめられたパズルのピースが一つ一つ組みあがってゆく……。
 それは極めて複雑なプロットを内包し、日常から非日常へと溶け込んでゆく、ある種の夢物語だ。現代ファンタジーの真骨頂がここにあると断言してもいいだろう。

 なにしろ「基層」となる導入部からして「奇想」のオンパレードだ。
 贈呈品として主人公の元へ届いた日本人形が、神様(!)の手違いで突如魂を持つというプロットが大きな起爆剤なのだが、オカルティックな要素に思えて、その実、牧歌的なやり取りが繰り広げられるのがとても微笑ましい。優しい世界がここにある。本作品を「起草」した作者の人柄がにじみ出ているようでもある。

 そして、全ての登場人物が「競う」ようにして物語の根幹に絡んでくる後半は、ただただ圧倒的であり、そしてどこか切なくほろ苦い……。
 詳細をここで語ることは避けるが、上記のように、それまでにちりばめられた数多くの伏線が綺麗に回収されてゆく様は、ただただ気持ちいいの一言である。エンターテインメント作品として見ても、最高の読書体験ができることだろう。


 本作品を読むにあたり、同作者の別作品である『この空の果てで、きみに、歌を。』を先に体験していたのだが、不思議なことにそれが本作品の対になる内容であるように、筆者には思えた。

 同タイトルは、宇宙の果てを目指すという壮大な目的に向かう一方、人の魂という内在宇宙(インナースペース)に肉薄した、一種の「永劫回帰を描いた作品」であった。
 本作品はどうかと言うと、「人形に宿った魂」を起点とし、登場人物らが「外の世界」へ旅立ってゆくという、いわばアウタースペースを描いたストーリーなのである。見事に正反対の構造をなしているのだ。にもかかわらず、どちらの作品も「出逢い、そして再会」をテーマとして描いているのが非常に興味深い。ぜひセットで、二作品とも味わってほしいと思う。


 そんな本作品の魅力について、最後にまとめるとするならば、それはやはり冒頭で引用した『遠野物語』内にこそ、そのすべてがあるといって良いのかもしれない。

 この作品、「おもしろいぞー!」
 ――この声が多くの読者に届くことを強く願うばかりである。

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