ACT15 ただ、そうしてみただけよ?


「んーむ……」


 ぽかぽか陽気も深まって、気候からは完全に春の寒気が抜けきった暖かさの午後。

 五、六限目は家庭科教室での授業であり、五限目を終えて合間の休憩時間を迎えた瞬間に、真白はふと、どっとした眠気が押し寄せてくるのを感じた。

 急速に脳の働きが鈍くなり始め、瞼がどんどん重くなっていく。昼食後の昼休みにもその兆候はあって、ただ、その時はあと二限、耐えられるかと思っていたのだが……どうやら、少しそれが早くきてしまったようだ。


「~♪」


 すぐ隣の席では、朱実が鼻歌交じりに次の授業の準備をしている。

 今日の彼女は朝からご機嫌なようで、朝はこちらもほわほわしたし、今に於いてもその鼻歌がまた心地よくて、真白の眠気はますます加速する。

 次の授業まで十分。

 ほんのちょっとだけ、眠っちゃおうかな……と思った矢先。


「シーロちゃん」

「?」


 と、朱実が自分の名を呼んできたのに、真白は降りかける瞼をどうにか開いた。

 見ると、朱実はニコニコしながらこちらを見てきていた。


「なに、朱実?」

「んー、呼んでみただけっ」

「……?」


 用もないのに呼ぶというのは、いったいどんな心理で……と一瞬疑問だったものの、彼女のその可愛い笑顔と、弾んだ声を聴くだけで、こういうのもいいな、と真白は率直に思った。

 自分もやってみようかな……でも、眠たいな……それでも、ちょっとだけ頑張ろうかな……。

 などと、眠気が混じったゆるゆるな思考で考えた結果、


「朱実」

「? なーに、シロちゃん……って、え?」


 振り向いた朱実の肩に、真白は、コテンと身を寄りかからせた。

 そして、



「甘えてみただけ」

「――――!!!???」



 ゆるゆると呟いた瞬間、隣の朱実から妙に張りつめた空気を感じたが。

 そろそろ眠気も限界なので、しばらく、朱実に肩を貸してもらって、真白は瞼を閉じる。

 なんだか……朱実には、時たま本当に、甘えたくなっちゃうのよね……。

 そんな心地よさを感じながら、真白はほんの少しだけ、意識を飛ばした。


  ☆  ★  ☆  ★  ☆  ★


 ほぅわああああああああ……!

 またも不意打ちで来たよ、シロちゃんの甘えんぼさん属性!

 なにこれ。

 わたし、ここからどうしたらいいの?

 髪とか撫でてみる?

 抱き締めちゃったりとかしてみる?

 その気になれば、可能なのでは?

 ただ、それをしちゃうと起こしちゃうかも知れないし……!?

 変に思われちゃうかもしれないし!?

 ここは、やはり、現状の維持をするしかないか……だが、でも、しかし……。

 ああもう、ああもう。

 イヤイヤマテマテ時に落ち着け。

 そう、集まれ、わたしの忍耐力……!


 ……って、前の席の桐やんとおなつさん?

 なんでニコニコしながら、こっち見てきてんの?


「……桐やんさん」

「うんっ」


 いや、だから、桐やんもおなつさんも拝んでないで、どうにかしてこれ!?

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