ACT14 自分の中の大切を改めて考えてみて?


「あら、真白ちゃん」


 HRを終えた放課後、朱実と共に下駄箱へと向かう廊下で、真白は声をかけられ振り向くと……そこには、真白の顔を自然と綻ばせる人物が居た。

 セミロングの髪と、小さな青い星の付いたヘアピン。

 朱実と同じくらいの小柄な体躯に、きっちりと規則正しく纏う女子制服の校章は、二年生の色。


「あっちゃん先輩っ」

「ふふ、久しぶりね」

「はいっ」


 真白にとっては中学時代からの先輩にあたる少女――戌井いぬい藍沙あいさとは、去年の彼女の卒業以来、会う機会が少なかったのだが。

 こうやって久しぶりに会えたことで、真白の気持ちは自然と弾んでいた。


「お久しぶりです、あっちゃん先輩。お元気そうで」

「そうね、真白ちゃんも元気でいてくれて何よりだわ。あと……朱実ちゃんもね」

「……は、はい」


 藍沙が真白の隣にいる朱実に声をかけると、朱実は少々強ばった返事をした。いつものほわほわな雰囲気がなりを潜めている辺り、緊張でもしているのだろうか?

 まあ、些細なことか。


「あっちゃん先輩は、これから部活ですか?」

「そうなの。今日は、商店街の方でね」

「商店街?」


 我が校から、歩いて数分にある商店街。

 比較的田舎と言われているこの町に於いては、いつも賑やかで活気にあふれた場所であり、近日、毎年恒例の食べ歩きウィークイベントが行われるはずだが……。


「ええ。そのイベント開催前の商工会での雑務を、私の所属している部が手伝うことになってるの。初めてのことが多くていろいろ大変だけど、これも経験かしら」

「おお……流石はあっちゃん先輩、素敵ですっ」

「餌をねだる時に主人のテンションをあげようとするわんこのようにおだてても、何も出ないわよ」


 苦笑で返す藍沙。

 藍沙は、去年の十一月辺りから、学内奉仕を主にする部に入っているのだが、その部は、学内だけでなく町内の各方面にも活動を広げているらしい。

 そういえば初めて会った時期も、藍沙は、他者からの頼まれ事をしっかりとこなしたり、同級生もしくは後輩の女子から恋愛相談などで頼りにされていたりと、人の役に立つことを進んでする人だった。


「先輩、また今度、お話できませんか。こうくんも一緒に」

「そうね。弟も、あなたに会いたがってたし……あの子のスケジュールにもよるけど、時間が合えば――」


「おおぅい、アイサ! そこに居たのかっ」

「藍沙ちゃーん」


 と、話してた先、向こうから声。

 見ると、藍沙よりもさらに小柄なおかっぱ髪の童顔の少女と、長身ふわふわ髪の眼鏡をかけた美人が、こちらに向かって手を振っていた。

 初めて見るが、どこか存在感のあふれる二人組だった。胸の校章の色を見る限り、二人とも藍沙と同じ二年生のようだ。


「皆、もう校門に揃うておるぞ。あとはお主だけじゃっ」

「急がないと、置いてっちゃうよー」

「ごめんなさい、部長、桜花おうか。すぐに行くわ」


 二人の呼びかけに、藍沙はそれだけ返して。


「ごめんね、そろそろ行かないと」

「同じ部の人達ですか?」

「ん、いろいろすごい子達よ。紹介したいところだけど、また今度ね」

「あ……はい、あっちゃん先輩、引き留めちゃってすいません」

「いいのよ。久しぶりに真白ちゃんに会えて、嬉しかった」

「は、はいっ」

「朱実ちゃんも、また、ゆっくり話そうね」

「……はい」


『じゃ、また』と笑顔で言い残して、慌てず騒がず、悠然と歩いていく藍沙。

 件の二人組と合流してから、談笑しつつ校舎の出口に赴く姿まで、真白、視線が釘付けである。


「……相変わらず素敵ね、あっちゃん先輩」

「テンション高いね、シロちゃん。そんなに嬉しかった?」

「当たり前じゃない。あっちゃん先輩は、とても頼りになって、親しみ深いお姉さんなんだから」

「ふーん……」

「? どうしたの、朱実」


 うきうきしている真白とは裏腹に、朱実は少し元気がない……というより、心なしか、不機嫌のようにも見えなくもない。


「シロちゃんにとって、藍沙先輩は大切なんだね」

「うん。中学時代、勉強とかお料理とか、いろんな面で助けてもらったし……どれだけ恩返ししても、足りないわ」

「そっか……なんだか、妬けちゃ――」



「あ、でも、それを言うと、朱実のこともすごく大切になるわね」



「う……えっ!?」


 ごにょごにょと朱実が何かを呟こうとしていたが、それよりも先に、真白はそこに思い至った。


「朱実と初めて会ってからまだ一月くらいだけど、ずっと学校生活が楽しいもの」

「し、シロちゃん?」

「毎朝の補給だったり、お化粧のことだったり、たまに甘えたくなっちゃったり、あたしが必要と感じたときも必ず傍にいてくれたり」

「し、し、し、シロちゃん……!?」

「一月でここまで楽しいなんて、高校の三年間、その後もずっと朱実と一緒となると、ワクワクが止まらないわね」

「シロちゃん、ストップ、ストーップ!」


 これからのことに思いを馳せる真白に、顔を真っ赤にした朱実が慌てて制止をかける。

 何か、自分はまずいことでも言っただろうか……と思ったが、そう言う雰囲気でもない。

 ただただ朱実は、胸に手を押さえて深呼吸を何回か繰り返して、


「……なんか、ごめん、シロちゃん」

「? なんで謝るの?」

「いや、その……とにかく、ごめん。わたしも、藍沙先輩のこと知りたくなっちゃったな。今度会ったときは、もっと上手く話せるように」

「え、なによいきなり。朱実がそんなこと言うなんて、ちょっと妬けちゃうわね」

「いやー、ははは」


 苦笑いの朱実の心中がよくわからなかったが、まあ、いいだろう。

 大切な人達同士が交流を深めてくれるというのも、真白にとっては悪い気分ではない。

 藍沙や親しい人達と、朱実を交えてゆっくり話す日を、楽しみにしておこう。


  ☆  ★  ☆  ★  ☆  ★


 さっきはヤキモチを顔に出したりして、ちょっと反省。

 でも。

 やっぱり、シロちゃんの『大切』の、一番になりたいな。


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