第39話「最強のアイドル」
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両チームはあっさりと予選を突破した。
レンの予想通り、順番は『Shakeees!』のすぐあとに『アステリズム』。
それぞれの持ち時間は、準備まで含めて15分。
曲数は3曲。
向こうの3曲目に、レンはこちらの1曲目を全力でぶつけるという。
「……ぶつけるって、どういうこと?」
俺の隣で3人分の応援団扇を携えた
「『Shakeees!』が決勝の一番最後に持ってくる『恋愛パラダイス』、こいつは俺たちの時代に大流行した国民的な曲でな……」
レンの計画を説明すると赤根は、「そっ……そんな恐ろしいことを……っ?」と自らの肩を抱くようにして
それを聞いていた
「そうなんだ。そしてレンが選んだのがこの曲──『最強無敵のラブモンスター』だ」
バヅン。
会場の照明が落ちると、観客のざわめきが徐々に鎮まっていく。
完全に途絶えた頃に、ステージの中央にパッと一筋のスポットライトが当たった。
そこに立っていたのはレンだ。
イントロは無し、最初はレンのソロから。
──誰よりも輝く君の
難しいことなんて言わないから。
めんどうなんて何もないから。
ただじっと、ずっと傍に……。
眉を伏せたレンの物悲し気なトーンのAメロが終わると、パパッとふた筋のスポットライトが交差するように照射され、それぞれ
──なーんてねっ。
ふたり、ニヤリ笑うと、軽快いスキップを踏みながらレンの周りを回り出した。
──オレたちはこいつの中の悪魔と悪魔。
そんな殊勝な奴じゃないことを知ってるぜ。
血の代わりに流れてるのは焦げ付くほどに熱い愛のスープ。
迂闊に飲むと大火傷、自由なんて無くなるぜ。
悪魔たちのBメロが終わると、パパパッとステージ全体が輝きに満たされた。
レンの歌に悪魔たちがかぶせていくようなサビAが始まる。
──君が好き、誰より先にわたしを見つけてくれたから。
君が好き、誰よりわたしに優しくしてくれたから。
君が好き、他に何もいらない。
周りの人はみんな言うよ、もうちょっと考えなさいって。
立ち止まって深呼吸して、胸に手を当てて。
お互いの距離を適切にって。
3人は揃って胸に手を当て、考え込むようなしぐさをする。
──はい考えましたっ。
レンだけがすぐに顔を上げると、にっこり極上の笑顔を浮かべてサビBに入った。
驚く悪魔たちを尻目に、ソロを始めた。
──他人にウソはつけても自分にはつけない。
世間体を気にしたって得られることは何もない。
だから僕は歌うよ、声高らかに。
君が好き、他に何もいらない。
君が好き、他に誰もいらない。
サビB終了。
長い間奏を狙って、会場最前列にいた
周りの仲間を引き連れコールを始めた。
──言いたいことがあるんだよ。
やっぱりレンちゃん可愛いよ。
僕が産まれて来た理由。
それは君に会うためなんだ。
大好きレンちゃん世界で一番愛してる。
ア・イ・シ・テ・ルぅぅぅー!
ガチ
地下アイドルなどの特定の濃いファン層の間から産まれたコールで、推しのアイドルのための一種の応援の切り札だ。
効果はライブの一体感を得られること、そしてアイドルたちのモチベーションアップ。
レンは満面の笑みでこれを受けた。
手を振り、投げキッスを返した。
──他人にウソはつけても自分にはつけない。
世間体を気にしたって得られることは何もない。
だから僕は歌うよ、声高らかに。
君が好き、他に何もいらない。
君が好き、他に誰もいらない。
サビBをこなしながらも、レンのレスは止まらない。
遠く離れたところにいる観客にまで
──ねえお願い、怖がらないで
僕の名前は最強無敵のラブモンスター。
悪魔も怯える僕だけど。
君への愛は本物だから。
君への愛は本物だから。
大サビを2回こなす頃には、会場はすでに一体となっていた。
手拍子と歓声と熱気が渦を巻いた。
渦の中心にいるのはレンだ。
圧倒的な歌唱力と風のように軽やかなダンス。
そして輝くようなアイドル性が、観客たちの心を掴んで離さない。
やがてアウトロの中、割れんばかりの拍手が起こった。
会場を揺るがすような歓声と、拍手が鳴り響いた。
「すごい……っ、すごい……っ」
赤根はすでに泣きそうな顔になっている。
「いっやあー……これはすごいねえー……。本物のアーティストじゃん。え、というかこれでまだ1曲目? マジで? これ以上がまだあんの?」
これがまだ序盤だということに気づいて、黒田がゾッとしたような声を出した。
「当たり前だ。誰が育てたと思ってる」
俺は胸に手を当て、必死に耐えていた。
胸の内にこみ上げたものを、ぎりぎりのところで抑え込んでいた。
そうしなければ、たぶん泣いてしまうから。
そうだ、俺はこのレンが見たかったんだ。
ウイングではなくセンターとして活躍するレンが。
メンバー全員の実力を引き出し、観客を燃え立たせ、会場一丸となって暴れまわる最強のアイドルが。
ずっとずっと、見たかったんだ。
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