第43話 蓮

「先輩、今どこにいるんですか?」

 手当が済むと、蓮はトイレに行くと言って病院の公衆電話から蒼一に電話した。

「県道だよ。そこにスーパーが見える」

「・・・・・・さっき、小白と一緒にいませんでしたか?」

「ああ、いたよ」

 蓮は「やっぱり」と呟いた。

 恐怖が現実のものとなり、手を振るわせる。

「小白にはなにもしないって。先輩、そう言ったじゃないですかっ!?」

「なにもしてないさ。ただ、家まで送っただけだ。本当だよ。気になるなら電話でもメールでもすればいいだろう? それよりもだ。今どこにいる?」

「・・・・・・病院です。なんか入院させられそうで」

「そんなに頑張ったのかい?」

 蒼一は苦笑した。

「いや、まあ・・・・・・。あんまり加減ができなくて。それより小白は――」

「すぐに行く」

 蒼一は蓮の言葉を無視する。

「社君が居ない間にしてほしいことがあるんだ」

 蒼一の指示を受け、蓮は驚いた。

「・・・・・・・・・・・・え? そ、それって必要ないって言ったじゃないですか。必要なのは血だって。本当にやらないといけないんですか?」

「けじめだよ。隼人君には会ったかい?」

「えっと、顔だけちらっと。すぐにどっか行っちゃって」

「・・・・・・なるほど。やっぱり社君は厄介だな。もしかしたらもう君と僕の関係に勘づいているかもしれない。それが事実なら、計画を進める必要がある。分かるな?」

 蒼一は様々なシチュエーションに合わせた計画を練っていて、蓮も知らされていた。

「・・・・・・約束して下さい。小白を危険に晒さないって。それができないなら、あたしは警察に全部言います」

「ああ。誓うよ。僕だって真一郎に引け目はある。だが馬鹿なことは考えないことだ。あの子の命に興味はない。いざとなれば殺して引きずりだしても構わないんだ」

 蒼一の言葉は嘘に聞こえなかった。

 今の蒼一なら容易に人を殺すだろう。その選択に合理性がないとしてもだ。

 あまり刺激しない方がいい。蓮はそう思った。

「・・・・・・分かりました。知れたらすぐに電話します。じゃあ」

 受話器を降ろした蓮はまだ痛む肩を押さえた。

 しばらく呆然とし、考える。

(本当に、これでいいのかな・・・・・・・・・・・・? もう分かんないや・・・・・・)

「小白・・・・・・・・・・・・」

 精神をすり減らした蓮はぐったりとしながらも、重い足を動かそうとする。

 その時、蓮の肩を誰かが叩いた。

 びくっと体を震わせ、蓮は振り向く。

 もしも警察に話を聞かれていたら、最悪逃げないといけない。

 だが、そこにいたのは若い看護婦だった。

「大丈夫? 顔色が悪いわよ? もしかしてさっき運ばれた人?」

 心配する看護婦を見て、蓮はほっとした。

 なんとか笑顔を作り、蒼一の指示に従う。

「はい・・・・・・。なんとか・・・・・・。あの、瀬在さんが入院してる部屋って分かりますか?」

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