第24話 小白
日曜日。
太陽が真上にあるというのに小白はずっとパジャマ姿でベッドの中にいた。
昨日からトイレ以外は部屋の外にさえ出ない。
食事も部屋にあったお菓子を少し食べただけだ。
一緒に住む伯父やその娘は心配していたが、小白はなんでもないとしか言わなかった。
小白の頭には一つの言葉が何度も浮ぶ。
(嫌われた嫌われた嫌われた嫌われた嫌われた嫌われた)
泣きそうになりながら、というより半分泣きながら小白はその言葉を胸中で反芻させる。
『僕らはもう会うべきじゃない』
社は小白にそう言った。そしてそのあと、詩織と手を繋いで行ってしまった。
(私がずっと見てるから、気持ち悪かったんだ。だからもう近寄るなって。やっぱり天馬さんと付き合ってたんだ)
小白の中でどんどんと悪い想像が膨らんでいく。
恥ずかしくて、悲しくて、なにより嫌われるのが怖かった。
枕をぎゅっと抱きしめ、胸の奥から絶え間なく湧いてくる不安に目を瞑る。
それでも小白の頭は社への恋心でいっぱいだった。だからこそ苦しくて堪らない。
社の姿を思い浮かべると幸せになる。だけど詩織が羨ましくてしょうがない。そんな自分への嫌悪感。
自分の醜さが嫌われる原因だと思うと、小白は自分が嫌になった。
思考は円を描き、ぐるぐると回る。出口のないドーナツ状の部屋をずっと歩いているようなものだ。
初恋だった。そして初めての失恋だった。
一目惚れで始まった恋はあっけなく終わりを迎える。
恋がこんなに苦しいものだなんて小白は思ってもみなかった。もっと甘くて心地よいと思っていたのに、理想と現実は違った。
(もうやだ・・・・・・。わたしはこの世界に嫌われてるんだ・・・・・・)
嫌な気持ちになると、家族を奪われたあの事件のことを思い出してしまう。
小白にとって今は人生で二度目のどん底だった。
しかしそれはこういう時でない限り、あの事件に対しては深く考えてないという小白の心境を示してた。
家族のことは大好きだった。だけど失って感じた喪失感を何か別のものが埋めていたのだ。
それが少しずつ失われていくのを感じ、小白は焦りに似た感情を抱いていた。
一言で言えば困惑していたのだ。
(こんなはずじゃなかったのに・・・・・・・・・・・・)
小白は後悔していた。
明日は学校だ。同じ高校に通う社とは、例え会わないようにしていても会ってしまうだろう。
姿が見えたら目で追ってしまうだろう。
それはもう小白の習慣になっていて、避けることはできないと分かっていた。
小白は大きな溜息をついた。さっきから何度もこの調子だった。
(学校・・・・・・、行きたくないなぁ・・・・・・)
それでも行かなければ皆が心配する。伯父も蓮も誰もが小白を必要以上に心配するのだ。
伯父の話ではまた殺人事件があったらしい。夜に一人で歩くのは控えると約束させられた。
小白の生活は内外からヒビが入っていた。そしてそれを感じて小白はまた溜息をつく。
もうなにもかも嫌になりそうだった。
その時、携帯がピロンと鳴った。メッセージアプリの着信音だ。
小白はのそりのそりと芋虫みたいにベッドの側にある小さな机まで這った。
スマートフォンを覗くと、蓮から連絡が来ていた。
『30分したら行くから、準備しといて』
それを見て小白は首を傾げた。約束はしていない。それでも断ろうと思わなかった。
一人で抱えて込んでもなにも進展しないのはこの二日でよく分かっていた。
小白は『うん』と短い返事を送って、体を起こした。
胸元に手を当てると汗でべとついている。髪にも潤いがなかった。
きっとこんな姿を見たら蓮は心配するだろう。
そしてなにより、社は小白を嫌いになるはずだ。
考えないようにしていても思考は自然とそちらへいく。
「・・・・・・・・・・・・お風呂、入らなきゃ」
あと三十分しかないと気付くと、小白は慌てて立ち上がり、部屋から外に出た。
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