第23話 事件
事件は町の西南にある空き家で起きた。
周囲の住人が異臭を訴えて警察に通報したところ、空き家の中で女性の惨殺死体が発見されたのだ。
現場に向った須藤と隼人は死体を見て思わず顔をそむけた。
被害者は三十代くらいのOL風の女。身分証明書から郊外に住む佐藤友恵だと分かった。
佐藤は背後から心臓を突かれ、即死していた。
先日阿澄翔子が殺されたのと同じやり方だ。ただ、相異点があった。
死体の腕と足が鋭い刃物によって半分に裂かれていたのだ。
「犯人はなに考えてやがるんだ・・・・・・」
隼人は歯ぎしりをした。こんな死体を見たのは初めてだった。
事故でむごい光景を見たことはあるが、他殺体ではない。
人が何らかの意図を持って死体を弄ぶ。その理由が隼人には全く分からなかった。
「・・・・・・壊れちまったな」
煙草を咥えた須藤が呟いた。死体は犯人が人から化け物に変わったことを示していた。
その後、隼人は空き家の中を見て回った。
家主が死んでまだ日が浅いのか、家は比較的綺麗だった。
南を向いた二階建ての一軒屋で、家の前には道路が左右に伸びている。一階の和室にある仏壇には誰かが線香をあげた跡があった。
その横には柱があり、御札が貼られていた。
隼人はその御札を見ながらふと、あるものを見つけた。それはまだ新しい傷だった。
横に一本、刃物で付けられている。微かだが血の色も混じっている。
これと同じものを隼人は阿澄翔子が殺されたビルでも見つけていた。
隼人は鑑識を呼んだ。
「すいません。これもお願いします」
後日、その血は殺された佐藤友恵のものだと分かった。
だが犯人が何の為に柱に傷を付けたのかは最後まで分からなかった。
隼人の頭には社が浮んだ。
(まじないの類いか? これは、あいつに聞いた方が早いかもな)
そう考えながら隼人は空き家を注意深く見続ける。
すると鑑識の一人が隼人を呼んだ。
「ちょっとこれ見て。同じに見える?」
それは髪の毛だった。殺された佐藤と似たような髪が一本ピンセットで摘ままれている。
「・・・・・・いや、違うっぽいですね。でも前に住んでた人のじゃないですか?」
「それはないね。これ、埃の上にあったから。まだ抜けて新しいはずだよ。床にも何かを拭き取った跡があるし。帰ったら調べてみるけど、一応こういうのがありましたってのは言っておこうと思って。結果が出たら何か分かるかも」
鑑識は眼鏡をなおし、どこか嬉しそうに言った。
だが隼人はあまりそれが手掛かりになるとは思っていない。
理由は社の語る犯人像だ。社は二十代の男だと言っていた。
その意見がなくてもその後の捜査で犯人はやはり男だろうということになっていた。
要因は阿澄翔子の死体だった。阿澄翔子は殺されたあと、死体を一度持ち上げられ、向きを変えられていたことが分かると、警察は犯人を男と定めた。
犯人が死体を動かした理由は不明だが、もし女であったなら死体を持ち上げることは難しく、引きずっただろうと考えられる。
阿澄翔子と関わりがあった男は限られ、今捜査は進められている。
隼人もそちらへ行きたかったが、佐藤の殺された方が阿澄と似ていた為に呼ばれたのだ。
現場に入って隼人は確信した。
今回の犯人は阿澄殺害の犯人と同じだと。背後から一突きで殺し、その後死体に細工をしているところがそっくりだ。
そしてなにより刑事としての勘がそう告げた。
犯人はまたやるという社の言葉もそれを後押しした。
今回で二人目。だとすると、連続殺人がこれで終わる保証はどこにもない。
隼人は焦燥感を覚え、煙草に手を伸ばした。
そこを運悪く鑑識に見られると現場を汚すなと注意され、隼人は煙草を握り潰した。
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