第21話 詩織

 呆然とする小白を詩織は憐れんで見ていた。

 しかし、同時に羨ましくも思っていた。

 好きな人と手を繋いでいるというにも関わらず、詩織は虚しさでいっぱいだった。

 商店街から出ると、詩織は不機嫌そうに社から手を離した。

「もういいですか?」

「・・・・・・ごめん」

 社は申し訳なさそうに謝る。

「不愉快です。私をこんな風に利用しないで下さい。私の手はその為にあるわけじゃないんです。ずるいですよ」

「ごめん」

 社はもう一度謝った。

 詩織は横目で社の顔を見た。なんとも寂しげな顔につい見とれてしまい溜息が出る。

 社は苦しさを我慢するように俯いた。

「・・・・・・全部、俺が弱いのが問題なんだ。ああでも言わないと、俺はきっとおかしくなる」

 社は苦しそうに顔を手で覆った。

 こんな社を見るのは詩織にとっても久しぶりだった。

 二人は人気の少ない路地へと進んだ。無言の社を見ると詩織はつい抱きしめてあげたくなる。

(だけど、この人はそれを望んでいない。そんなことをしたら、きっと更に自分を傷付けてしまう・・・・・・)

 詩織は自分の無力さを嘆き、悲しんだ。

 こんな時はいつも祖母に言われた言葉が思い出される。

『いいかい詩織? あなたのお役目はあの子の側に立ってあげることだよ。あの子は他とは違いすぎる。見えないものが見え、知れない事を知ってしまう。きっとこの世で誰もあの子を理解できる人間はいないだろう。いるとしたら父親だが、あいつは阿呆だから頼りにならない。だから、詩織があの子に寄り添ってあげるんだよ。でないと、いつか壊れてしまうだろう』

 詩織にも霊感というものはあった。

 だがそれは弱く、社のようなものではない。

 だから詩織は社の見ている世界を本質的には理解できなかった。

 それでも幼かった詩織は祖母の話を聞き、社に対して可哀想だと感じた。何か力になれればと思った。だからどんな時でも詩織は社から離れなかった。

 それはあの夜も同様だ。

(そしてこの人はこれからも苦しんで生きていく。それを表にも出せずに。この人に寄り添えるのは私だけだ。だけど、救えるのは私じゃない)

 詩織は自分の力のなさを悔しんだ。できることの少なさに辟易とした。

 夕暮れ時になり、社は時よりふらつきながら歩いている。こんな弱い姿を見せるのも詩織だけだ。それだけは詩織にとって誇りだった。

 詩織は優しく微笑み、社に手を伸ばした。

「大丈夫です。いつでも私が隣にいますから。さあ、もう帰りましょう」

 社は顔を上げ、詩織をじっと見た。

 そして詩織の表情から自分の表情を悟った社はいつも通りの笑みを浮かべようとした。それは完全には程遠い笑みだった。

 社は弱々しく詩織の手を取った。

「・・・・・・うん。帰ろう」

 今度はしっかりと手を繋いで二人は家路に着いた。

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