第285話 かくかくしかじか

「というわけで会議です」


 夜みんなで集まり話し合いを開催する。もっぱら議題はフラフィーの事と近況報告といったところだろうか。クロエとイリスは王都に行って今のエルフたちがどうなっているのか、神気の回復方法なんかを調べてもらっていた。


 簡単に見つかる物とは思えないけどめぐがこんな人間味を帯びた状態ではこれ以降の旅に支障が出てしまう。みんなへの情念をめぐに癒されてごまかしていた俺の生活は、神気の回復以外に戻る方法がない。本当の意味で死活問題。


 死と隣り合わせの幸せ生活……悪くはないとは思うけれど精神的に胃に穴が空きそう。病気とかそういうのって魔法で治せるのか?


「私とイリスからの報告はまずエルフたちについてね。あのベノプゥが色々やってくれていたみたいで特に問題はなかったわ。と言っても人族至上主義のあそこではちょっと生活が苦しそうだから館じゃなくて森に住まわせて魔物狩りとかさせてるみたいだけど」


「うん。隊員たちは狩りが上手。あの辺の雑魚に遅れをとるようなへまはしない」


 話を聞くと食事改善に伴い彼らはやる気になっているみたいだ。イリスに恩があり隊長と崇める彼らは放置でも大丈夫そう。ベノプゥが彼らの狩った魔物を買い取り食事と交換でどうにかなっているらしい。


 あの王都でそんな大々的に人族以外の種族と仲良くやってるの大丈夫なんかな。実はベノプゥは凄い奴なのかもしれん。もしくは王女様がバックについているという線もある。俺達の事情も知ってるし全然ありうる。


 深くいけば獣人族の村もあるし誰もほとんどの人が入らないような場所だし安心といえば安心の場所か。


「クロエちゃん、勇者達について何かなかった?」


「それが全然話題になってなかったのよね。王城が壊れたり王女様が暴れたりしてたからそれどころじゃないって感じが本当のところだろうけど。あそこの住民は良くも悪くも楽観主義が過ぎるわね」


「王女様暴れたん?」


「そうみたい。王様と戦って玉座を奪い取ったとか。新生女王万歳とかやってる人たちもいたし、ある意味国家反逆みたいなところもあるけど成功したのに今まで通り平和だったわ。もしかしたら裏があるかもしれないけど」


「どこのお店も平常運転。国の頭をその娘が奪ったのに何も変わらない。それに適応している住民はおかしい。でも平和だし精霊もおかしい所はないって言ってる」


 王女様血の気多すぎひん? 確かに親子喧嘩するとは言ってたけど玉座奪い取るって何事よ。王様狂っていたから手遅れと判断してやっちまったんかな。王族としての責任を感じていたみたいだしやってもおかしくないな。


 もしくは押さえつけられていた魔力を解放してみたくなったか……ないか。同性愛者で好きな子の下着を保管しちゃうようなちょっと度を越した変態ではあったけど倫理観はそこまで壊れてなかったしな。……なんで倫理観壊れてないんだろうな。やっぱ鬱憤でもたまってたのかもしれんな。


 しかし国を揺るがすような大ニュースだと思うんだけどどうなってんだ王都。イリスの精霊もおかしくないって言うなら放置で良いか? 王女様ならなんとかしてくれるだろう。ローラもいるし任せよう。正直もう俺達が介入して出来る事なんてないだろう。


 となれば後気になるのはこのこと。


「神気については何かあったか?」


「何もなかったわね。そもそも聖女さえ女神の加護を持ってないし神気の存在を知ってる人がいなかったわ。もう少し調べてみようと思うけど期待は出来ないわね」


「図書館もだめ」


 そうだよな。簡単に見つかるような物だったらみんな使っててもおかしくはないか。ローラなら何か知ってるかもしれないと思っていたが、詳しく聞いてもあまり期待は出来ないといったところだろうか。


「ところでキミヒト、このフラフィーはどうしたのよ」


「沈んでる」


「それについてはだなぁ……。かくかくしかじかで」


 とりあえず床に正座をしてから落ち着いて話し始める。その行動が当然であるかのように自然に座ったため誰にも何も言われなかったが、クロエには色々察せられるものがあったようで呆れの目を頂いた。好き。


 めぐの神気喪失により雰囲気が人間に近づいている事、いちゃいちゃしたということ、フラフィーが目撃した事、あらいざらい話した。


「ふーん、こうなってもおかしくはないと思ってたけど思ったより早かったわね」


 クロエはやや肯定的な意見。正直クロエは認めた相手であればかなり甘い対処をしてくれるので本当に助かる。まじで頭が上がらないし信頼感という意味では一番信じられる。好き。


 というか吸血鬼のせいかは分からないけど、好意やそれに伴った行動についてかなり許容範囲が広い。ぶっちゃけハーレム増えてもクロエならいくらでも許してくれるような気がする。


「フラフィーは見通しが甘い。キレるならお姉ちゃんがいなくてもやるべき」


「何を!?」


 イリスはどっちか分からないけどそっち方面でフラフィーを煽るのをやめてもらいたい。死んでしまいます。


「でもそれなら対処法はあるわね。イリス、鍛えてあげるなら徹底的にやりなさい」


「イエスマム」


「マムじゃないわよ」


 どうやらイリスがフラフィーを本格的に鍛えてくれるようだ。正直なところ心配なところしかないけどクロエが頼んでるという点において信頼できる。イリスの自由行動まじで不安なんだよな。


 例えるなら子どもに危険物持たせてお出かけさせるみたいな。そして危険性をわかっていながらためらわず使う性格でたまに回りが見えなくなるというか。簡単に言うと危険な方向にテンションが高すぎる。


「フラフィーもそれでいいわね?」


 クロエはずっとだんまりを決め込んでいるフラフィーにやさしく諭すように言う。俺とめぐの関係が進んでイリスにも殺されかけるかと思ったけど全然大丈夫だったな。代わりにフラフィーの落ち込みがすごいけど。


 ここはちゃんとフォローしておくべきところだろう。クロエに任せっきりなのもあれだし、この後イリスに任せるのも不安だしなんかこうほっとくと嫌な予感しかしない。


「フラフィー、俺はみんなが大好きなんだ。俺のことはいくら傷つけてくれてもいいし、こういうことしてる以上その責任もあると思う。難しいかもしれないけど、スキルをしっかり制御できるようにして元気になってくれると嬉しいよ。ハーレムについてはごめんとしか言いようがないけど、誰もないがしろにする気はないんだ。最近あんまり構えてなかったかもしれないけどちゃんと出来たら俺にできることならなんでもしてやるからな。あとこんな俺のこと好きになってくれてありがとな」


 ぶっちゃけた話フラフィーは今俺のことを好きというか依存しているような感じがする。そんな感情で居続けるのは正直つらいだろうしハーレム物がどろどろしてしまう。どろどろするのは刺された時の俺の血だけで十分だ。


 ハーレム作ったことなんてないからうまいこと言えないけど、みんなには明るく笑っていてほしいんだよ。明るく笑いながら俺のこと刺したりしてきたらそれはそれで狂気の沙汰でしかないけど。


「なんでもっていいました?」


「かまわん。その責任も権利も誰にもやらん」


 フラフィーが聞いてくるが俺は力強く返答する。


「わかりました」


 俺の返事を聞いてちょっと元気になったかな?

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