第254話 そんな魔法はありません
「……あれ」
「おはようキミヒト」
気づいたら俺はクロエに膝枕されながら寝ていた。疲労がたまっていなかったと言えば嘘になるが熟睡するほど疲れ切っていたかと言われるとそうでもなかったはずだ。一発魔法食らったかな……。
でも妙にすっきりしているので体調はかなり万全になってしまったので何も考えないことにする。だってこれ以上深く考えると色々とまずそうなんだもん。主にクロエが俺に何かをしていたんじゃないかって思って。
ご飯が進んじゃうよ。
「俺どのくらい寝てた?」
「そんなに長くは寝てないわ」
にっこり微笑むクロエが非常にあやしい。でもいいか、クロエはきっと俺の事を想って眠らせてくれていたんだろうし体がすっきりしているのだから何も悪いことはない。
たとえそれが不意打ちの一撃で意識を刈り取るような凶悪な魔法だとしても。俺の不屈をもってしても防げず、状態異常を無効化する女神様の加護を貫通するヤバメの物だとしても何も悪いことはない。
「さ、いきましょ」
「ああ」
俺が起き上がった事でクロエも立ち上がり一緒にテントを出て行く。めぐの魔法の効果により中でどれだけ過ごしても、外に出た時は一時間という中々常識外れの効果でめちゃくちゃ便利だがあんまり多用してほしくないな。
主にフラフィーとかイリスには見せないで欲しい。監禁されそう。
「お帰りお兄ちゃん。……何もしなかったんですね」
「ええ、キミヒトがヘタレだったの」
「……」
しなくて正解だった気がするわ。めぐの視線がなんか優しめ。これは中で致していたらちょっと厳しい視線に変わって信頼度が下がっていた可能性が無きにしも非ず。ごゆっくりどうぞって言っていたけどもしかして罠だったのかな。
いやまて、めぐは優しくしてあげることを推奨と言っていただけであって決していかがわしいことを推奨していたわけではない。あかねが変な事言っていたせいでちょっと勘違いしてたわ。
……? もしかして嫉妬だったりする? いやいやめぐに限ってそんな感情を持ち合わせているわけがない。俺の妄想はめぐに失礼だし大概にした方が良い。
「ところでキミヒト、地上に戻るなら進んだ方が速いわよ」
「え……? あ」
そう言えばあかねが最下層に住んでた時、ダンジョンコアを使えばすぐに戻れるみたいな事言っていたね。ぶっ壊して強制退出したのも懐かしいわ。それならもうちょっとだし、あかねが仕掛けたトラップもないならすいすい進めるはずだ。
「じゃあ行くか」
「あかねさんが起きてないけど良いの?」
「そのうち起きるさ」
クロエの魔法の直撃を受けて眠ったあかねをおぶって先に進むことにした。先陣はあずきに任せて俺達は何事もなく階層を下っていく。順調にそのまま下っていくが敵の強さはそこまで変わらず五階層に到達する。
ここは前の世界では腐蝕竜がいたけどそんなことは無く、平和なモンスターハウスだった。
「多すぎじゃね」
平和なモンスターハウスだが量が尋常じゃない。平和っていうのもおかしいと言えばおかしいけど、俺達にとって敵が弱いならむしろドロップアイテムが多くなるからおいしさの塊でしかない。
屑鉄ばっかりだったけどこの辺りを過ぎれば銀がドロップするようになるはず。なのでここは一気に片付けるのがいいだろう。流石にめんどくさいし。
「クロエ、頼めるか?」
「ええ。ホーリーレイ」
ホーリーレイ? あれって確か短いビームみたいな感じだと思ったんだけどそんなに一気に倒せる奴だったっけ? クロスの方ならかなりの範囲をやれると思ったから頼んだんだけどもしかして魔力上がったからちょっと進化した?
とかなんとか考えているとクロエが片手を前に突き出し手のひらサイズのレーザーを発射する。本来は指くらいの細いレーザーが一瞬飛んで焼くみたいな攻撃だったはずなんだけど……。進化の仕方がちょっと激しすぎるんだけど良いのかな。
地球防衛軍でジェノサイド砲を撃ったと思ったらリロード無しで撃てるジェノサイドガンだったみたいな。……いまいち違うし伝わらないかなこれ。
「……そんな魔法はありません」
「っていうかこれ魔法で良いのか」
めぐが苦言を呈したようにそれはどう考えてもおかしな攻撃だった。そもそも指先サイズのレーザーが手のひら大に変わっているのだけでもおかしいのにそのレーザーは全く消えない。
そのままクロエは腕を左右に動かしてスケルトンやゾンビ系の魔物を隅々まで焼き払っていく。その光景は消火用のホースで消火作業をしているかのよう。勢いが真っすぐで尋常じゃないという点をのぞけば、だが。
そして三十秒ほど照射し続けていると動いている魔物の姿は完全になくなった。ちょこちょこと銀がドロップしているのをあずきが一生懸命拾ってきて俺に手渡してくるのが非常に可愛らしい。あかねが起きてたらあまりの可愛さに発狂してただろう。
「ふう、すっきりしたわね」
「うん、クロエが良いならいいけど」
やり遂げた感出してるけどやりすぎてる感が半端ない。たぶん腐蝕竜いても全然余裕で同じ行動取って終わりだったわこれ。前回はイリスがインフェルノとか結構派手な魔法使ってたけど全然問題なく処理できそうだわ。
というか魔力の上がった状態のイリスのインフェルノとか見たくないわ。ダンジョン消滅しちゃいそう。実際によくわからん魔法でやべー穴作ってるしダンジョンクリアじゃなくてダンジョンの階層無限に増やしてしまいそう。
落とし穴とかで深い階層まで落ちるトラップを自力で作っちゃいそうだよ。階段でおりるのめんどくさいから穴開けて良い? とか言い出したらどうしようかな。いいか、そう言うのでも。もう誰も常識にとらわれないスタイルで行こう。諦めも肝心だわ。
「うぅん……あれ、進んでた?」
「うん。今モンスターハウス焼き払ったとこ」
「……ちょっと何言ってるか」
流石に魔物を焼き払っていたり結構な腐臭がしていたのであかねが起きだして来た。惨状から色々察したようだがさらに俺の心を読んだようで、ちょっと複雑そうな顔をしていた。
とりあえず辺り一面に浄化をかけて臭いを消して俺達は進んでいった。
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