第249話 アウトですよ

 どうやら俺が話しかけるまでめぐはずっと考え込んでいた様だ。俺がめぐの力を回収してしまった事と、それが上にバレていないかどうかの葛藤でもしているのだろうか。俺としてはめぐのためになったならそれでいいよ。


 というかひどいことにはならない的なこと言ってたのに後出しで人間の姿保てないかもとか言わないで欲しい。めぐにとっては人間界をいなくなることはそんなに重い処罰じゃないの?


 もしくはこの女神様のことだから人間の姿保てなくても俺達に普通にくっついてきそうだから、そう言う意味であんまりひどい事にはならないということだったのかもしれないけども。失礼だけど何しても死ななそう。


「うーん、お兄ちゃん本当になんともない?」


「ああ。この体のだるさは全部クロエの魔法の影響だと思う。かなり力込められてたっぽいけどあの塊まじで俺の中に入ってるん?」


「ちょっと確認してみよっか?」


 そういうとめぐは俺の服の中にすっと手を忍ばせてきた。ちょっとひんやりした手が非常に気持ちいい。もちろんどっちの意味でも。っていうかなんで服の中に手を突っ込んで来たのか。


 これはあれか、そういうプレイの一環かな? 目覚めさせようとしなくてももう目覚めてるよ?


 子どもが冬とかに服の中に手入れてきて冷たっ!? ってやってるの見るけどあれ普通にやられたらテンション上がる自信しかない。だって普通に手をつなぐだけでもめちゃくちゃ嬉しいのに直接サプライズで触って来るとか何事よ。羨ましい。俺にもやって。


 冷たい手で触られたとしても、その後のいたずらしてやったぜ見たいな表情とこっちのうれしさを考えると良い事でしかないんだよな。ちょっとマイナスに振った直後に大幅にプラスになるというか、得しかない。


 何が言いたいかというとめぐ可愛い。


「うん、ばっちり入ってるね」


「そうなのか? まじでなんともないけど……」


 めぐが俺の体の中にあるというのなら確実にそれはあるのだろう。と言っても俺にはそれを知覚する方法はないからどうしようもないけど。でもそれは逆に考えると知らないうちに女神様に浸食されているという事でもある。


 俄然テンション上がって来たわ。


「確認してみたけどここにあった私の力は願いの力かな。強い気持ちで願えば叶う的な感じの奴。でもお兄ちゃんにはあんまり意味ないかな。もうほとんど力も残って無かったぽいし」


「あー、それはそうかもしれないな」


 俺はもう充分以上に幸せだ。強い気持ちでの願い何てもう全て叶ってる。ロリ達との生活も取り戻し女神様がめぐとして近くにいる、これ以上何を求めればいいというのか。


 みんなを守る強さも手に入れているし本当にもう何もいらない気しかしない。もし魔王と戦う事になったとしてもみんなと力を合わせて戦えばたぶんやれるだろう。というか他の勇者達がやってくれるしスキル的に俺後方支援だし。


「んー、取り出す事も出来るけど……お兄ちゃん持っててもらえる?」


「返した方が良いんじゃないの? 必要だから隠してたんじゃないのか?」


「なんていうか、この体がたぶんもたない。人間の体に女神の力詰め込んでるんだけど、召喚者とかならともかく普通だったら耐えられないよね。だから形を保つのにも力を使っているという中々に無茶してるんだよね実は。そこにこれ以上女神の力いれたら……ねぇ? それに隠して置けるし」


 なるほどな。言われてみればそうだよな、普通の人間としてこの世界に転生させられたはずなのに強すぎるとは思っていた。女神様の事だからなにかしらしてるとは思っていたけどただのごりおしだったわ。


 相当無茶してんなぁ。というか裏をついてるとかそう言う次元じゃないわ。あと隠して置けるってどういうことやねん。


「なにあれ?」


 それじゃあ奥に進もうかと言おうとしたところであかねが上を見上げて呟いた。つられてそっちを見てみると白い羽のようなものがパラパラとダンジョンの中に降ってきていた。ダンジョンなので天井はあるが、それが無いもののようにゆっくりと落ちてくる。


 このダンジョンにはスケルトンタイプの敵しかいなかったし、そもそもこの羽は見た感じ実物の物っぽくない雰囲気を感じる。例えるならAR技術とかそういう感じの違和感のある立体。


「うわ、まじかー。あれでもばれるんだ……」


 めぐは片手で顔を押さえてやっちまったぜーみたいな感じになる。めぐ絡みってことはこれは女神様案件……天界に戻ったらバレるみたいな感じだったけど、今のめぐの呟きから察するに普通にばれたっぽいな。


 そして羽が降りやむと、なんかOL風の服を着て大きな羽を生やした女性が後を追うように姿を表した。その立ち振る舞いは女神様だった時のめぐと非常によく似ていて神聖さを感じさせた。


「先輩……だからあれほど言ったじゃないですか」


「よっしゃセーフ!」


「アウトですよ……」


 ちょっと青ざめていためぐはその女神っぽい人の顔を見て盛大にガッツポーズを決めていた。めぐがセーフと言っていてあっちがアウトと言っているならたぶんアウト。めぐの行動は基本的にセーフな事柄が今の所何一つとしてない。


「いやー、高ランクの女神が来たらどうしようかと思ったね! 良かったよあなたで!」


「何言ってるんですか先輩……。これ一応調査の名目で来てるんですからね?」


「残念でしたー! もう何も証拠はありませんー! 一応とか名目とか言ってるしやる気無いのばれてるんだからさー! さあ帰って帰って!」


「いやいや先輩嘘はだめですよ。確かにさっきまでここに女神の力……というか先輩の力を感じていたんですからね? ほら、すぐそこに……あれ?」


 女神っぽい人はさっきまでめぐの力の塊があった方向に近づいて辺りを調べるが当然そこには何もない。俺が回収してしまったし、めぐからも完全に俺の中に入っていると言われたからだ。触られたらバレるのかなこれ。


 大人っぽい感じの人だけどこの人からは最初に出会った時の女神様のように疲れた雰囲気を感じる。疲れてる原因がたぶん今目の前にいるロリと化してしまった人物なのは間違いないだろうが。


「え……? 先輩、どこに隠したんですか?」


「隠してませんー! 元々ないですー! 私は悪い事何もしてないですー!」


「私は先輩が力を地上に隠してる現場を目撃してますからね? 最後に地上に落ちる時も手伝わされたせいで一緒に人間落ちするところだったんですよ? 降格で済みましたけど。本当の事教えてくれていいんですよ?」


 他の人巻き込んで色々してたのがめぐ。俺達のためとは言え無茶し過ぎなんじゃなかろうか。そしてこのやり取りを見てて思うけどやっぱりこのテキトウな感じの女神様は人望はあったんだなぁという事。


 罰するためにやって来たのにこんなにフレンドリーにやり取りできるのは仲が良かった証拠だろうな。仕事において全く真面目にやって無かったことが露呈しているけどそれは元々わかっていた事。


「ねぇキミヒト君クロエちゃん。私天界って実は面白いところなんじゃないかと思ってきた」


「俺もそんな気がするなぁ」


「流石に一番上はしっかりしてるんじゃない?」


「でもクロエちゃん、この女神様を昇格させているんだよ?」


「それを言われるとね……」


 女神二人がきゃいきゃいやっているのでこちらはこちらで三人でいちゃいちゃすることにした。まじで天界って人間界とほとんど変わらないんじゃないだろうか。人間の文化も取り入れているっぽいし、ただ異常に発展してる世界とかそんな感じ。


 女神様が人間界と天界を行き来してたことを考えると俺達も行けるんじゃないかと思ってしまうな。

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