第243話 平和な異世界ライフ

「凄いなあずきは」


「わうわう!」


 俺が褒めてやるとあずきは嬉しそうに俺の周りをぐるぐると回る。こっちの言葉を理解しているしちょっとしたことでこんなに喜んでくれるとこっちも微笑ましくなってしまう。


 あずきは小あずきを消して俺の足元にお座りして待機する。その姿にティティは立ち眩みを起こしたようになってしまいめぐに支えられている。幼女の助け合いは身に沁みるぜ。


 あまりに従順なペットなあずきをみて、以前ペット扱いされていたフラフィーとは完全に別物だと思ったので思わず俺はこぼしてしまった。


「フラフィーはペット枠じゃなくなったな」


「本物のお嫁さん枠ですからね、私は。しかも女神様直々に祝福された花嫁ですからね、私は」


 そのちょっとした発言は完全に失言だった。フラフィーは和やかな空気の中に唐突に爆弾をぶん投げる。私は、の部分をやたらと強調してみんなにマウントを取り始めるのはどうしてなん?


 いや確かにわかるよ? 昨日ばらばらだったしあかねとイリスがどう考えてもおれとしたことはわかっちゃうし、そこを否定する気はないよ。でもどうしてそんな今から戦うぜっていう雰囲気なん?


 ほらイリスが凄い目をしてフラフィー見てるし、クロエはさりげなく俺の横に移動して正妻面してるしあかねは余裕を見せているし……ってフラフィーとイリスだけじゃんバチバチしてるの。めぐはあずきの可愛さにやられたティティを宿屋の中に運び入れて我関せずだし。


 クロエとあかねはこういう時余裕だよな。なんかこう、みんなと俺を共有出来てるという気持ちが強いし、結局は自分が一番好かれているよねみたいな自信を持っているのが凄い。肩書じゃあなく実際にどうかを重視している。


 その実際っていうのも外からじゃなく自分がどう思っているか的な感じなのも強い。女子は強いわ。この二人は物理的にも強いけど。周りは関係ない、自分がどう思っているかというものを本当に行えるのはまじで強い。俺も見習お。


「巨乳、一度本気で白黒つけるべき」


「ふふふ、今度は戦っても負けませんよ……!」


 今度はってどういうことだよ。前に戦ってたんかお前ら。前の世界だったらイリスの圧勝だったのは間違いないけど、確かに今回の世界だったら中々いい勝負をするようになったのかもしれない。


 フラフィーは魔法こそ使えないが、俊敏性は格段に上がっているし近接戦闘もかなり心得ている。大きな盾を使った受け流しは今は出来ないが、守護の光の恩恵により自分の肉体を使って受け流しが出来るようになっている。


 獣人の圧倒的な戦闘センスをここで発揮している感じだろうか。防御寄りで、人を守りたいと思っているフラフィーらしさが色々な所で感じられるな。こっちの世界に変わってからかなり努力したんだろう。


 俺とあかねは召還直後からだったけど、他のみんなはどの地点からだったんだろうか。クロエとイリスはそんなに遠くなさそうだけど、あの村での様子だと結構ながそうな感じあったよな。


 その辺は別に聞かなくても良いかって感じだけど。みんなの過去を聞くのも楽しそうだけど、クロエとイリスはガチの逃避行だしフラフィーはずっと修行してるだろうからな。


「っておいおいあいつらまじか」


「ほっときなさいよキミヒト」


 イリスとフラフィーはまじで戦いに行くらしく街の外へ向かって行ってしまった。止めようと思ったがクロエが俺を止めてきたので放って置く事にした。クロエが言うなら大丈夫だろう。流石に死ぬまでやりあったりしないし、なんだかんだ仲いいからなあの二人。


「それじゃ私たちはダンジョンでも行く?」


「そうだな、あずきがどれだけ戦えるかも知りたいし」


 ここを同性愛の街にするわけにもいかないし。俺は思うんだけど、フラフィーとイリスがいなくなったせいで、この二人とのイベントが進んで好感度が上がっていく予感しかしないんだが。


 イリスとフラフィーは自分の好感度上げよりも、恋敵を排除するという武闘派な行動に出てしまった。自ら攻略対象である俺から離れるとはどういう了見なのか。


 ……いや、これはもしかしてあかねとクロエの作戦なのでは?


 考えてみよう。もしさっきのシーンでクロエかあかねがどちらかを止めたシチュエーションを。その場合何個かパターンはあるが最終的には全員で行動することになるのは間違いない。


 だがその場合の分岐がある。


 例えばイリスをなだめた場合、俺がきっとご機嫌取りをすることになるだろう。それはもう完全に俺得だから進んでやらせてもらうがその時全員から痛いまなざしをもらう事は必須。そしてその後ぴったりくっついたイリスを連れてダンジョンに向かうだろう。


 もしくはダンジョンに向かう前に昨日の夜にあったことをイリスが暴露するため、フラフィーの謎に強固な包丁により俺の胴体には風穴が空きまた気を失って一日を失っていたはず。


 もしフラフィーをなだめた場合はこちらも俺がご機嫌取りをすることになっただろう。こっちも俺得だから何も問題はないが、その場合イリスが拗ねるのは間違いない。そして魔法を盛大にぶちまけられ俺の体からパーツや体液がこぼれ死にかけることになるだろう。もしくはこっちもパンチで風穴かもしれない。


 そしてその修復作業により数日がつぶれる。


 ……なるほど。あの二人がいるから問題が起きるんだな。この二人だけなら何も問題は起きないし平和に色々なことが出来るだろう。というかこの二人はそのポジションを狙っているような感じがするな。


 一番安全で、一番俺から信頼が厚く、そして最も俺に近づきやすいポジション。ここまで考えてやってるならマジでやばいぞこいつら。俺の事大好き過ぎる。


「そうだよ?」


「……だからあかねお前な」


「あらキミヒト、私も好きよ?」


「……」


 勝てません。俺はこの子らに全く勝てる気がしません。心を読んでくるあかねに、俺が照れてテンパってるのを見計らって追い打ちをかけてくるクロエ。俺が夢にまで見た平和な異世界ライフはここにあった。


 あかねがまじで元気に俺の事を落とそうとしてくるだけでここまで変わるか。まじでメインヒロインの座を取りに来てるんだけど俺は誰をメインで攻略すればいいんだよ。


「うーん、お兄ちゃんが良い感じに世界を満喫してるようで私は嬉しいよ」


 そして俺達の幸せをしっかりと願ってくれる女神様のめぐ。この世界は俺の都合の良い様に出来ているんじゃないかと錯覚してしまうよ。

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