第224話 あかねのライフワーク

「さてじゃあケイブロットの街を正常の状態で維持する計画を実行するか」


 要はロンドの連中を進化させなければどうとでもなる話だと思うんだ。あいつらのテンションと実力上がり過ぎた結果、探索者成りたての少年たちに技術指導と称し性的な行為を働いた事で少しずつ街はおかしな方向にむかっていくのだから。


 そのテンションの暴走するきっかけがダンジョンの攻略だったのは火を見るよりも明らか。ならば俺がすべきはその攻略する速度を遅延させることなのではないだろうか。


 彼らはダンジョンを攻略して実力がつくのはもちろん、スキルも強化されて行っただろう。前の世界で会った時はスキル鑑定みたいなスキルで、俺が収納のスキルを持っていることを見抜いていた。


 しかし今回はそんな兆候もなさそうだったし、自分たちの力だけでどうにかしようという心意気が見て取れた。つまり彼らは今それに近いスキルを持っていても使用することが出来ない状態にある。もしくはスキル強化の前の段階って事だ。


 じゃあ早速いくか、と思ったところであかねに止められる。珍しいな、ここであかねが止めてくるのは。


「キミヒト君、本気でこの街のホモ率を下げようとしてるの」


 やべぇ。今までで一番マジな顔してるわあかね。ユウキと戦った時より切羽詰まってる感じの顔してるけどいいのかこんな時にそんな本気の顔して。あかねのライフワークに近いものがあるから仕方ないと言えば仕方ないけどおかしいだろ使いどころがよ。


「あかね的には嫌かもしれないが、これからくるノーマルな冒険者さんたちの性癖歪めるのはどうかと思うよ俺は」


 ケイブロットが同性愛者の街と呼ばれるのも時間の問題だったと思うんだ。そのためだけにこの街に移り住む人出て来てもおかしくないくらいの勢いあっただろまじで。ロンドの連中の影響力とカリスマ性高すぎるんだよな。


 実力もあって気遣いも出来てギルドからの信頼も厚くてギルドマスターとも顔見知りで街の問題が起きたら率先して首を突っ込んで解決しに向かって男を見かけたら口説いてと活躍し過ぎなんだよアイツら。だが止める。


「さてキミヒト君。私の特技を覚えているよね。キミヒト君が教えてくれた、私が好きになってしまった特技」


「……」


「あかね、人に見せられないくらい悪い顔してるわよ」


「今は良いのクロエちゃん。今、私史上最大の見せ場だと思ってるから」


 クロエの呆れ顔まじ超可愛いけどあかねのマジ顔に嫌な予感しか感じない。俺はロンドの暴走を止めたいだけなんだからそう簡単に折れるつもりはない。というかダンジョンなんて遅かれ早かれ行くつもりだからあんまり意味ないだろ。


「キミヒト君、もう手の内ばれてるから単刀直入に言うね。ダンジョン行くよりも重要なことがあると思うんだ私は」


「聞こうか」


 あかねは俺の周りをゆっくりと歩きながらゆったりと話していく。ぐるぐる回ることによってその人に視線を釘付けにして意識を集中させる、そしてゆったりとした語り口でしっかりと内容を相手に伝えていく。たぶんスキルも使ってるわこいつ。


 なんか俺の不屈が微妙に反応してるような感じある。敵意を感じないから弾いてる感じじゃないけど、なんとなくいやーな感じを受け取っている。相手の心の隙間に入っていくとかそういう感じか?


「キミヒト君の旅の目的って何だったか思い出してごらん?」


「俺の旅の目的」


 俺の旅の目的。最初は何をしたんだったか。ああそうか、最初は孤児院の子ども達を助けるという目的で動いて盗賊を捕まえに行ったっけな。そこからクロエたちに会って、魔王がクロエたち狙ってるとかそんな話を聞いて……。


「キミヒト君にはたくさんの仲間が出来たよね? クロエちゃん、イリスちゃん、フラフィーちゃん、そして私、あとサッキュン……最後に女神様も一緒になっちゃって凄いよね」


「そうだな、確かにこんなにいっぱいの可愛い子に囲まれると思ってなかったわ」


 最初はクロエとイリスの二人とずっと一緒にぶらぶら旅でもしながら過ごせたらなーとか思っていた。思っていた……? なんで過去形なんだっけ? 魔王を倒すから? 勇者をみんな解放したから?


 いや違う。俺が勝手に過去形にしたんだ。勇者達が冒険をしているし俺も何かしたほうが良いんじゃないかって少し思っていたからこう考えるようになったのか? でもロリ達と一緒に旅をし続ける今の世界は最高だって思って……!?


「そうか、ダンジョン攻略してロンドの妨害よりも先にみんなと楽しむための準備をしに行かなきゃいけなかったな!」


「そうだよキミヒト君! わかってくれた!?」


「ああ、頭ではなく心で理解したわ」


 そうだよ別にこのケイブロットが同性愛の街になろうが俺には関係なかったわ。むしろロンドの連中連れまわしてダンジョン攻略しまくって同性愛の街になればロリたちのキャッキャウフフも見れるようになるんじゃねえの!?


 おいおいあかね天才かよ。まじやべえなこいつ。ここまで読んでいたってのかよ。確かにロンドが男性同士の恋愛を作り出していったら残った女の子達は自然とくっつくようになるだろう。


 そして今いる五番率いる女の子軍団の勇者達が同性愛者だったら、きっと女の子達の憧れの存在になって女性同士の恋愛も流行る事間違いなし。つまり同性愛者の街にしたほうがみんなお得なのでは?


「あかねお前まじで天才だな」


「ざっとこんなもんよ」


 これがあかねの思考誘導かと思わないでもなかったが、心から理解が出来たので俺はダンジョン攻略をロンドの連中に任せるぜ! あと五番のパーティ見つけたらちょっと同性愛者か確かめておこう。協力出来るからな。ロンドの連中と。


 かなり無理やりな思考誘導で、よく考えるとだからなんでダンジョン攻略やめるんだよって感じだがとりあえず今は後回しにしようって気持ちがめちゃくちゃ強い。あかねまじやべえな。


「あかねさんってもしかしてうちのパーティで一番やばいんじゃないですか?」


「キミヒトの考え捻じ曲げた。凄い」


「これが勇者の力ですね、スキルを与えた私も鼻が高いです」


「色々とおかしいと思うけど突っ込むと疲れるだけね」


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