第217話 伊達に元女神じゃない

「料理はまだまだ奥が深い」


「そうね、まだ知らない料理を求めて旅に出るのも良いわね」


 イリスとクロエが遠くを見ながらしみじみとつぶやいているが彼女たちはどこを目指していくのか。彼女たちの旅の目的はそういえばあんまり定まってなかったよな。異世界の料理を食べて目的を持つのはなかなかに夢があるのではなかろうか。


 うん、俺たちの目的は魔王討伐だったはずなんだけどね。それも他の勇者に任せてもたぶんなんとかなるだろうしぶっちゃけまじで食べ歩きの旅に出ても良いかもしれない。


 いや、めぐの事を考えるならちゃんと魔王も討伐しないといけないよな。女神様がめぐになってまで守った俺たちのいる世界。この世界を救うことこそめぐへの本当の恩返しのはずだ。


「エルフっ娘達よ。あなたたちには箸の使い方を教えましょう。そうすれば先ほどのような麺類が出てきても難なく食べられるはずです」


「さすめぐ」


「伊達に元女神じゃないわね」


 うん。めぐも一緒に料理の旅に出る気満々だから魔王はもういいか。大丈夫、数か月後きっと第一グループだけじゃなく召喚された人たちみんなで暴れて収集つくでしょう。


 俺はロリ達の笑顔がみたいだけだからな。めぐが喜ぶなら魔王だって倒しにいくが、ご飯を食べることで笑顔になるならそっちが優先だ!


 箸の使い方を教えながらキャッキャウフフしてる幼女たちを見るの楽しすぎる。めぐはさっきのステーキフォークもナイフも箸も全部使えてたからな。地味にエルフっ娘達から尊敬のまなざしが飛んでいたよ。


「平和っていいですねぇ」


「そうだねー」


 幼女のたわいないやり取りを遠くでみるフラフィーとあかね。なんだか完全に保護者目線になっちゃう感じがとてもいいよね。ご飯食べてるうちのロリ達は幼児退行が激しくて見たまんまの感じになってとても可愛い。


 戦ってる姿とか見るとかっこよすぎてそれはそれで惚れそうになるけど。


 あとはみんなお腹いっぱいになったことだしこのまま宿屋に帰って寝るだけだ。


 ……宿屋更新してねえな俺。またか。


「すまん宿屋行ってくるわ。みんな腹ごなししながらあとで来てくれ」


「あ、私も行きますよ」


「いてらー」


 宿屋に向かおうとダッシュを決めるとフラフィーがついてきた。何故ついてきたし。いや全然ダメじゃないしむしろ一人じゃ寂しかったから良いけども。


 でもこれフラフィーと一緒に行くと絶対からかわれるんだよなぁ。ケイブロットの宿屋だったら絶対おっちゃんが死ぬほどロリコンいじりかましてくるから開き直れるけど、こっちの宿屋はおばちゃんだからな。


 普通にガチの嫁扱いしてくる。冒険者相手でも容赦なくそういうことしてくるからみんな地味にビビりつつも尊敬している。


「なんでキミヒトさん距離取るんですか」


「むしろなんで詰めてくるんだよ」


「良いじゃないですか、やっと二人きりになれたんですからこれくらい許してくださいよ」


 そういやずっとあかねかめぐが俺のそばにいたから二人きりにはなってないのか。そうか、まじか。どうしようちょっと照れくさいんだけど。結婚式まであげちゃったしフラフィーもその辺めちゃくちゃ意識してるだろうな。


 こんど修羅場が発生したら間違いなくそのことを議題にあげて修羅場のレベルを一段階も二段階もあげてくれるだろう。考えたくない。


「キミヒトさん照れてます?」


「いんや、フラフィーがどこに包丁隠し持ってるのか気にしてた」


「……」


「それ聞くと絶対黙るよな」


 甘い空気もこの質問で全て霧散していく。一度フラフィーの服を脱がした時に大量に出てきたこともあったし今も実は隠し持ってる可能性が高い。村から連れ出してほとんど共に行動してたけどいつの間にやらもってるからなこいつ。


 前は包丁のホルスターみたいなの作ってたし結構ガチっぽい装備を作るんだよな。なんでそれを戦いに生かさないのかは不明だけど何かしらのポリシーでもあるんだろうか。せっかくだし聞くか。


「フラフィーはなんで包丁武器にしないん?」


「え? キミヒトさん専用だからですよ?」


 ダメだこいつ、早くなんとかしないと……。ついに明確に俺に殺意を向けるようになってきているし転生ボーナスでめちゃくちゃ強くなってるから本当になんとかしないといけないと思います。


 前は冗談で済んだけどもう冗談で済まない。実際にクロエいなかったら死んでる。うちのロリは病んでるぜぇ。そこも可愛いから許しちゃうけど。


「私、キミヒトさんも大概だと思うんですよね」


「元からだろ」


 というわけで宿屋について部屋の割り振りを考える。ぶっちゃけ王都の宿屋の部屋は最大で四人までしかない。そこに六人の大所帯をぶち込むのは許されないだろう。かといって三人ずつ分けるとたぶん色々と問題が勃発する。


 主に俺争奪戦が始まる。そして俺が決めるとなるときっとイリスあたりが実力行使に出ることになりとても危ないことになるだろう。


 かと言って俺が一人部屋であとのみんなをテキトウに割り振ったところで俺の部屋にイリスあたりがくる未来が見える。


 イリスが大人しくてれば全部解決やんけ。


 でもそれは部屋が空いていたらの話。一人部屋は全部埋まっているのでどうしようもない。


 となると。


「すいません、追加で四人部屋一つ」


「あいよ」


 俺は元いたあかねとの二人部屋をそのままにして新しく部屋を予約した。正確にはめぐがいて三人だったが二人部屋に無理やり泊まっていたのは許してもらおう。追加料金は払っておいたし問題なし。というか全員で来た時予約しとくべきだったな。


 血を失いすぎて思考回路鈍ってたわ。あとおばちゃんがめちゃくちゃにやにやした顔で見てくるの腹立たしい。冷やかしてくるわけでもなくただにやにやしてるって一番たち悪いぞ。


 でもものすごく愛想がいいし優しい雰囲気が出ているから嫌な気がしないのが不思議だ。これが宿屋のおばちゃんのスキルか。最強やな。


「キミヒトさん……!」


 なんかフラフィーが感極まった感じで俺の腕を握ってくる。何?


「私キミヒトさんと一緒の部屋がいいです!」


 ちょっと顔を赤らめながら真っ直ぐな瞳で俺の事を見てくる。なんだかんだでフラフィーはストレート投げてくるから対処に困るよな。ラノベだったらヒロインクラスの猫獣人の女の子。


 俺への好感度も異常に高いし料理スキルも持っているしみんなをまとめることも出来るし突っ込みスキルも高い。まさに嫁ポジションではある。だからそんなフラフィーに俺は言ってやる。


「いや俺とめぐだよ二人部屋は」


「死んでください」


 俺はフラフィーにお腹を刺され重体になった。

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