第172話 ちょっと偵察

 次の日になっても王城の中で変化は何も起きていなかった。というかユウキの処遇すらどうなっているかわからないから偵察に行った方が良いかもしれない。相当な能力者がいない限りはばれる心配もないだろうし。


「ちょっと偵察に行ってくるか……」


「いいよ。ん」


「なんだよ」


 あかねがこっちを見ながら両手を突き出してくる。まるで抱っこをねだる子どもみたいな仕草に俺のロリコン的な魂が若干刺激されて微妙な気持ちにさせられる。まともにしてれば可愛いのほんとずるいわ。


「だって私一人でここ居たらバレるかもしれないし」


「嘘つけ。兵士が駆けつけてくる時に隠れるくらい出来るだろうが」


「じゃあ言い直す。おんぶで移動楽ちんだから連れてって。ほら盗み聞きとかめっちゃ出来る便利なあかねちゃん連れて行くと良いことあるよ!」


 うん実際にそうなんだけどさ、正直俺が一人で動き回って人の配置とか色々覚えておきたいだけなんだよね。ガチの情報収集をするにはあまりにも早すぎないだろうか。


 ていうか一人分背負って動くの結構疲れるんだよな。ガチロリだったら軽いからいいけどソフトロリだからなあかねは。地味に結構重い感じのやつ。


「失礼なこと考えてないで連れてってよ。ここにいるの気が滅入るんだよね。人がいるのに何も聴こえないし物音も立てないってかなりのホラーだからね? 誰もいないと思って振り返ったら一クラスくらい人がいたらどう思う? 怖いでしょ?」


 いるのわかってるからそこまで怖くは……いや怖いな。洗脳されている連中は瞬きもしてるのかどうかってレベルで微動だにしない。怖いというかめちゃくちゃリアルな作り物的な不気味さがある。


 たしかに夜中とかにこいつらと一緒にされるとちょっと、いやかなり嫌だわ。それにあかねに引く気はないようだし仕方ないから連れていくか。脅迫されるのも嫌だし。


「しゃーねーなー。あんまり暴れるなよ」


「やったね。よろしくお願いします!」


 勢いよく背中に飛びついてくる。何が私も女の子だよ。もうちょっとこう……いや柔らかい感触はあるから女の子らしくはあるけどおしとやかにしても良いんじゃないですかね?


 あかねにその辺を求めるのは間違ってるのは知ってるけど。こいつは掃除も料理も出来ない子だから期待をするのはいけません。


「……」


「なんだよ」


「なんでもない」


 しっかりあかねを背中に抱え直し、スキルを発動して周りから見つからないようにする。さらに俺の透視を使って王城の中を確認してユウキの居場所と兵士たちの場所を探していく。


 ユウキは純粋に安否が気になるところだし、兵士の場所を知っておけば脱出する時にそっちに行かないようにすれば逃げやすくなる。勇者の洗脳解く予定だからごり押しでいけるだろうけど。


「ストップ」


 あかねから待ったがかかる。俺には警戒するべき相手が見えていないので何か声を発見したようだ。声を出すと聴こえる可能性があることは伝えてあるので結構マジっぽい。


「あっち、向かって」


 あかねは真面目なまま行き先を支持する。正直マジっぽい雰囲気を装って下らない事を言うんじゃなかろうかと警戒していたがそんな事はなかった。兵士たちが風呂入っててのぞきたいとかそういう感じの。


 こいつは前科があるからな。宿屋での男同士の営みを見せつけられた時は本気でどうにかしてやろうかと思ったほどだ。アイアンクローで許してやったのは本当に慈悲深いと思う。


 あかねの案内に従って進むことしばし、そこには立派な扉があった。


「あそこ?」


「あそこ」


 ぱっと見た感じ重鎮の寝室とかそんな感じ。実際に見張りもいるしまじでヤバイ人の場所だろこれ。見えていないし気配も消しているからばれないけど流石に扉を開けたりしたらバレるだろう。


 開けて入るなんてことはしないが、何しに入るんだって話だよ。


「あそこ王女の部屋。話してみたかったんでしょ?」


「さいですか」


 巻き戻った世界でやりたかったことの一つに王女との対話があった。それは前の世界で見逃された事と、もしかしたら呪いの影響について詳しく知っているんじゃないかということ。


 それに兵士長と共に王都を平和に維持していた事を考えるとまともな人物の可能性が高い。王様は勇者召喚にも顔を出さないし、シオリを政治の道具としてリーベンに送り付けるほどの狂人だ。


 なので呪いの事を聞くなら王様よりみんなの前に現れた王女が適任。ああちなみにロリではありません。普通にお姫様お姫様している女の人です。男の娘とかだったら熱い展開になるけどそれはないだろう。ないよね?


 ……鑑定かけて性別チェックしておこ。


 というわけで入室。あかねごと透過させて鍵のかかっている扉を完全にスルーする。『ステルス』『気配遮断』『透過』『透視』と色々スキル同時に使っているとちょっと楽しくなってくるな。


「っ!? 誰です!?」


 王女様はびくっとした様子でこちらを振り返る。あれ、見えてないよな?


「……? 今確かに検知されて……いや今もされています。いるのはわかっています。どうやって入ったのかはわかりませんが姿を現しなさい」


 おお、王女様の寝室のセキュリティ高いな。それに無駄に騒いだりせず落ち着いている所を見ると結構話も通じそうな感じがする。流石王女様だぜ。簡単に姿を見せてしまうのもどうかと思うけどこれからの事を考えるとありかもしれない。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る