第164話 不思議なループ

「いやお前よく俺の前に顔出せたな」


「そんな状態で凄まれてもね」


 俺はホットケーキをもぐもぐしながらシオリに問いかける。こいつは確か討伐対象になってるとかショウが言っていたけどそれはどうなっているんだろうか。俺以外の勇者がこいつをみたら襲い掛かるのかな。


 俺やあかねと同じように呪いから解き放たれているのだろうか。そしたらクロエとイリスを襲った理由がよくわからんな。


「キミヒトさん、知ってる人ですか?」


「一応そうだ、フラフィーは知らなかったよな。簡単に言うとこいつも元勇者、そしてクロエとイリスにひどいことをしようとした要注意人物だ」


「それについては弁明させてもらえるかな?」


 軽くフラフィーに説明するとシオリから待ったがかかる。捕まえておいて弁明ってどういうことだよまじで。


「まず私はあの二人に危害を加えるつもりはなかった。ほら、捕まってたにしては綺麗だったしどうにもなってなかったでしょ?」


「それは……まぁ」


 戦闘をしていたにしては全然汚れていないのは変だと少し思っていた。ロリという神秘的な存在は汚れないんだと勝手に納得していたけど、こいつがそうならないようにしていたって事か。


 だがなんのためにだよ。


「多くの勇者は王城の人たちによって殺されたけど、私は第一グループに移った後違う国に派遣されたの。派遣されたというか貢物にされたというか、リーベンに送られちゃってね。結構大変だったんだけどおじいちゃんに助けてもらったの」


「おじいちゃん?」


 シオリは自分がどういった状況だったかを説明し始めた。その内容は普通の勇者たちとは違って別の国に献上され、勇者の存在をねたんだ国が戦争を仕掛けないようにさせる口封じにも似たやり方だった。


 確かに勇者の戦力が他の国にあれば脅威とみなされるだろう。それなら同じ勇者を友好の証として送ってしまえば戦争は避けられると、そういうことかな。


「そのおじいちゃんは呪術に関してめちゃくちゃ詳しくて、私にかけられていた呪いを解いてくれたの。そしたらいろんな記憶が蘇ってきておじいちゃんと世界を救おうって話になったの」


「なにがそしたらなのかわからないけど、世界を救おうとしたのは理解した。それがどうしてクロエとイリスを捕まえることにつながるんだよ」


「あの二人は勇者以外で魔王に対抗できる存在だから。でもまだ力を制御しきれてないから経験を積ませようっておじいちゃんが言ってたの。それでアオノ君に託そうって話に」


「確かにあの二人はめちゃくちゃ強かったよ。力を制御しきれてなかったのも知ってる。それがなんで俺に託すんだ? そのおじいちゃんとやらも全然知らない人だし意味不明すぎる。いやめちゃくちゃ嬉しかったけど」


 二人に出会えたからこの世界で生きていこうと思えたし、呪いを自力で解くことができたと確信して言える。でもそれは結果論でしかない。何故シオリとおじいちゃんとやらは俺に二人を託すという選択をしたのか。


「それはね、アオノ君を基準にしておくとあの二人の力が安定しやすいからだね。今まで私とおじいちゃんが試した結果でしかないけど、アオノ君を中心に世界を戻すと世界が魔王に支配されるまでの時間が格段に伸びたの。格段って言っても数か月程度の誤差でしかないけど」


 なんで俺は冷静に話を聞いているんだろうか。というかこの話は妙な雰囲気を感じる。どこか懐かしいと言うか既視感を覚えるような感覚だ。


「最初は第一グループの人たちでどうにかしようとしてたんだけどね、全然言うこと効かないし連携なんてないも同然だったから少しずつ魔王軍にやられちゃったんだよね。みんなでやれば押しとどめることくらいは出来たと思うんだけど……そんなわけで第三グループの君とあかねちゃんでも試してみようと」


 シオリは淡々と語っているが全然頭に入ってこない。何故未来の話っぽいことを語っているのか、第一グループの連中が魔王軍にやられたとか言ってるが本当なのだろうか。


「あ、ごめん。ちょっとわかりづらかったね。時間を巻き戻して第一グループの人の一人一人に色々接触してみたんだよ。でもいい結果得られなかったから君たちに接触したの。アオノ君は警戒心強かったけど平和に旅してるだけの時があったからその時に色々と話して、本名言えば話を聞く体勢に最初からなるって聞いたんだ。旅の仲間が全部ロリだったからロリコンって知ったのもその時」


「俺が、平和に……? いや時間を巻き戻すって言うのは、なんだよ」


「ああそうか、そっちも話してないや。人に説明するの何回目かわからなくなってるからごちゃごちゃなの。私の能力の魔法服は知ってるよね? この世界でもアオノ君ボロボロにされてるのはかわらなかったし」


 それは知っている。だがもう一つの能力は大したものではなかったし、だからこそ最初第三グループに分けられていたはずだ。確かそのスキル名は……


「そ、私のもう一つのスキルは『並行』。王城で訓練の時には結局中身わからなかったから、魔法服は強いけど別にいらないって理由でリーベンに。並行を簡単に言うと別の世界へ移動出来る能力ってやつだね。パラレルワールド的な?」


「そんなん思いつくわけねえだろ……」


 というかそうするとどういうことだ? 並行世界を旅し続けていたとして、世界を救うまで何度も繰り返してるんだろ? その中でクロエとイリスがキーパーソン。そして勇者たちは呪いの影響でまともに機能しない。


 俺ならそれなりに話が出来て、魔王に対抗する力を持った二人を成長させられる可能性があるから俺を基準に巻き戻した。そういうこと? それでもよくわからんが。


「あーつまり、俺の行動は把握されていたってことか?」


「ううん、アオノ君毎回トリッキーな行動とるから全然知らない。とりあえず魔王倒せるように世界をどうにかしようって段階だから逐一把握もしてないの。ただ、アオノ君を基準にして巻き戻すと滅ぶ時間が伸びていくっていう感じなだけ」


「その俺基準で戻すってのはなんなんだ? スキルもってるならお前が基準だろ?」


「うーん、その辺は説明が難しいね。私のスキルの発動は人に対してしか発動出来ないの。それで私の記憶が戻るのも結構時間かかる感じ。具体的にはおじいちゃんに呪いを解いてもらうところから始まるかな。あとその辺の人だと発動出来ない」


 シオリが能力を発動させて過去に戻る、記憶を取り戻すのはそれなりの期間がいる。そして俺を基準に何度か戻してもいる。だが俺は前の記憶を知らない。


「じゃあ俺の記憶は戻らないのか?」


「うん。別の世界に行くとでも思ってもらえればいいよ。どこまで時間が戻ってるのかは確認しようがないけど。でもその人基準にすると前の時と行動に変化が起きるの、私が世界を救いたいって思うように働きかけてるからだとおもう。ただ、君の場合はなんか毎回微妙に違ってるから気になってはいたんだよね」


 俺がシオリにとって何週目の俺なのかはさっぱりわからない。俺の記憶に途切れは無い、逆にシオリの記憶に途切れがあるという不思議なループ。ループというのもおかしいか、任意でループしない選択肢が取れるし。


 とりあえずわかったのは、世界を巻き戻せる。それだけだ。あと他の世界の俺は平和に旅してたり違う女の子侍らせたりしてたって事くらいかな。めちゃくちゃ楽しんでるじゃん異世界。やるじゃん俺。


「よくわかんないけどわかった。それで俺に何をさせたいんだよ」


「世界救うためにもっかい最初からやり直して」


「……」


 だろうな。世界救うのが目的で、俺を発動基準にするならそうするしかないよな。回数制限とかないのかよこの能力はよ。やりたい放題にもほどがあるだろ。


 こいつも勇者としてこっちに召喚されて色々と常識が吹っ飛ばされてるよな。まともな勇者って存在するのかな。

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